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あの日からもう2週間が過ぎた
あの日以来私は勉強にも、おしゃべりにも、あんなに好きだったクラブの練習にもやる気が出ない
あの人の死が私の心を奪っていった
どんなに願ってももう戻ってきてくれないあの人
一緒に練習することも
一緒に帰ることも
声を聞くことも
姿を見ることさえも
もう二度とできない
でも・・・


I still love you・・・. written by YOCO

「ごちそうさま・・・。」
「葵、まだ残ってるわよ?」
「いらない・・・。」
「ちょっと、葵―――。」
ガラッ
トントントン・・・
階段を登る途中で、後ろからお母さんが何か言ってる声が聞こえる
だけどそんなことは私にとってどうでもいいことだ


『ボスッ』
部屋に着くなりいつものようにベッドに倒れ込む
何のために私は生きてるんだろう?
このまま生きていたって二度とあの人には会えない
そんな中で生きていることに意味はあるのかな

「先輩・・・会いたいよぉ・・・。」

そう呟いてみる
そんなことをしてもあの人には会えないのに
バカみたい・・・

ふと机の上を見てみた
そこにはキツネのぬいぐるみがある
先輩が修学旅行で買って来てくれたこん太だ
ベッドから手を伸ばしてこっちに持ってくる
『オレ、キツネのこん太、よろしくな!』
あの時は寂しがっていた私をこんな風に励ましてくれたっけ

目をつぶれば次から次へと先輩との思い出がよみがえってくる
気が付けば私の目から何かが流れ出していた
「うっ、うっ・・・先輩・・・せんぱぁい・・・」
私は先輩を求めていた
もう呼んでも無駄なのに・・・



「あれ?もう朝だ・・・。」
いつの間に寝ていたのだろう
気が付けば朝だった

「行ってきます・・・」
そう言って家を出る
またいつもと同じことの繰り返しか・・・


「よく聞けよ!!この数列bnの一般項がbn=3n+2となる時、数列anはな・・・」
みんな必死になって先生の言うことをノートに書き取っている
まるでそうプログラムされたかのように
私もこの間までそうだったのかな
「・・・原、松原!聞いているのか!?」
気が付いたら先生が私の名前を呼んでいた
「・・・はい、聞いています。」
「ウソをつくな!さっきまでぼーっとしてただろうが!!こんなことじゃ―――。」
・・・また始まった、大人はすぐにこうだ


お昼休みになった
「ひさしぶりに屋上で食べようかな・・・」
お弁当箱を持って屋上まで歩いていく
私は適当に空いているベンチを見つけ座った
いつか先輩とここでお昼を食べたことあったな

『先輩、私この前よりもお料理上手になりましたよ。
先輩においしい料理を食べさせてあげられるように一生懸命練習したんですから ♪』
『へぇ〜、そりゃ楽しみだ。今度また弁当作ってきてくれるかな?』
『はい!わかりました!!』
先輩のために頑張ってお母さんに特訓してもらったお料理・・・
もう食べさせてあげる機会も無い


キーンコーンカーンコーン
今日の全過程の終わりを告げるチャイムが鳴る
「クラブに行こうかな・・・」

神社までの階段を一段一段登って行く
すると・・・
『バシッ、バシッ』
誰もいるはずのない神社からサンドバックを撃つ音が聞こえる
「?」
誰だろう?綾香さんかな?

しかしそこで私を待っていたのは綾香さんではなかった

「せん、ぱい・・・?」
そこで私が見た人は紛れも無く先輩そのものだった

先輩は私に気がつくと
「あれ?葵ちゃん、今日は遅かったね。先に始めてたよ。」
「先輩・・・何で・・・?」
「何でって言われてもなぁ・・・それよりも練習練習!この前の分までやるんだろ ?」
「えっ・・・あ、はい。すぐ着替えてきます。」


「葵ちゃん!ラストだ!!」
『ズバァーン!!』
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
「よし、今日の練習はここまでにしよう。」
「はい、ありがとうございました!」


「葵ちゃん、帰りヤック寄って行かない?」
「あ、はい。お供します。」
ヤックまでの道のりいつもとかわらない他愛も無い話をしました
本当はもっと聞きたいことがあったんだけど
それを聞くと先輩が遠くに行っちゃう気がして・・・

ヤックに入り適当にメニューを選んで座りました
「葵ちゃん、今日の練習はハードだったな。」
「でもこの前の分まで取り戻せてよかったです。」
「・・・そうだな、これでやっと約束が果たせたよ。」
「先輩?どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもないよ。気にしないで。」

ヤックから出た後先輩に家の前まで送ってもらいました
「今日はありがとうございました。」
「いや、それよりもさ、葵ちゃん、ちょっと話があるんだけど・・・。」
「なんですか?」
私の胸に嫌な予感が過ぎる・・・
「葵ちゃん、もうわかってるだろうけどオレはあの日死んだんだ。」
やっぱり・・・
「そうですよね、あはは、私悪い夢でも見てるんですよね?」
「葵ちゃん!」
「は、はい!」
「・・・落ち着いて聞いてくれ。オレに残された時間はもう少ないんだ。」
「・・・わかりました。」
「オレがこうしているのは葵ちゃんとのあの日の約束を果たすためともう1つ理由が あるんだ。」
「なんですか?」
「神社のお堂の中にオレの葵ちゃんへの気持ちがある。それを受け取ってくれ。」
「神社のお堂の中ですか、わかりました。」
「まさかこんな形で渡すことになるとは思わなかったけどな・・・。」

「ふぅ・・・これでオレも安心して成仏できるよ・・・。」
「そんな!先輩!!まだいろいろお話したいことがいっぱいあるんです!!」
「ごめんね、葵ちゃん。オレももっと葵ちゃんと一緒にいたいんだけど、ほら。」
「あっ・・・。」
先輩の姿を見るとだんだん後ろの景色が透けて見えました
「そんな・・・うっ、うっ、先輩、行っちゃヤダよぉ・・・」
「ごめん、ごめんよ葵ちゃん・・・。だけどね、これだけは覚えておいてくれ。」
「オレはこれから何年経とうと何処にいようと葵ちゃん、キミだけを愛している。だ から強く生きてね。」
「先輩・・・。私も、私もあなただけを愛しています。」
「葵ちゃん・・・。」
「先輩・・・。」
2人の唇が重なった時、まばゆい光が辺りに輝きました
そして、後に残ったのは唇の感触と先輩と私の涙のあとだけでした

「先輩・・・っ!?」
不意に激しいめまいがして、私はその場に倒れこみました



「あれ?ここは?」
気付いたらベッドの上で寝ていました
「夢・・・だったのかな。そうだよね、それじゃなきゃ先輩が・・・。
そうだ!先輩は神社のお堂の中に先輩の気持ちがあるって言ってた。」
それが夢の中で起こったことだとわかりながら
何故か私は家を飛び出て神社までの道を走り出していました


「はぁ、はぁ、はぁ・・・やっと神社に着いた・・・。」
神社に着くなり私はお堂の中を覗いてみました
そこには小さめの紙袋がありました
「これが・・・先輩の私への気持ち・・・。本当にあった・・・。」
走る気持ちを抑えて私はゆっくりと包装を開けていきました
出てきたのは小さな箱と短い手紙

箱を開けてみると
「えっ・・・先輩・・・。」
箱に入っていたものは指輪だったのです
そして震える手で手紙を読んでみた
『葵ちゃん、少し早いけどオレと結婚を誓ってくれないか?
オレはこれから何年経ってもずっとキミだけを愛しつづけることを誓うよ。
この指輪はその誓いの証拠だと考えてもらってくれ。』
その瞬間私の目からは涙があふれ出ました。
先輩が私のことをこんなに想っていてくれてたなんて・・・。
「先輩、どうもありがとう・・・。」



先輩・・・(Darling・・・)
さようなら・・・(goodbye・・・)
でも・・・(but・・・)
私はあなたを未だに愛しつづけています。(I still love you・・・.)


あとがき

前作『Our time stopped・・・.』の続きとして書いたこの作品だったのですが、 どうでしょうか?
なんとかバッドエンドだけは避けることが出来ましたね。
そう思ってるのは私だけでしょうか?

まあそれでは次回作にご期待ください。

☆感想、アドバイス等はここまでお願いします。takahiro-y@dan.wind.ne.jp