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押入れの中で見つけたもの…。

それは私の思い出…。

思い出のアルバム…。

卒業アルバム…。



この季節になると思い出す…。

あの頃の私…。

小さかった私…。






それは過ぎ去りし思い出………。



<思い出は永遠に…>




高校1年が終わり高校2年になる。

子供から大人へ変わる曖昧な季節。


春……。











「先輩。今日も練習おつかれさまです」
春休みに入ってからも、私と先輩は毎日神社で練習をしていました。
「ああ。さすがに今日はきつかったな」
先輩も高校2年から高校3年に上がります。
「明日も練習しますか?」
「そうだな。明日も練習するか」
「はい」



もう、一年になるんですね。
先輩と出会ってから…。
早かったな…。


でも色々なことがありました。
私と先輩は今………。










家に帰って自分の部屋に戻ると,机の上に1枚の封筒が置いてありました。

誰だろう…?

差出人を見ると『寺守 さえ』と書かれていました。

寺守…さえ……。
寺守先生?

私はさっそく封筒の中身を読んでみました。













―松原葵さま―

私のことまだ覚えているでしょうか?
小学校のときの担任の寺守です。
突然お手紙が届いて驚かれたことでしょうが、松原さんに伝えておかなければならないことがあって今回お手紙を出しました。
実は小学校が廃校になり解体されることになりました。
残念ですが仕方のないことです…。
そこで壊されてしまう前に松原さんにもこちらに出てきてもらいたいのです。
待ち合わせの時刻と場所は3月25日午後3時。
小学校の前で私が待ってます。
急なことで申し訳ないけど、ぜひ来てください。
お返事を待っています。

―寺守さえ―

















小学校が…解体……。

そんな……。

しかも…。
25日って明日じゃない!


気づいたときには私は受話器を片手に先輩に電話をしていました。

「先輩…すいませんが明日の練習キャンセルさせて下さい」
「ん?ああ、別に良いけど……なんかあったのか?」
「実は………」
私は手紙の内容を先輩に話しました。


「そか…。小学校のとき通ってた学校が壊されちまうんだ…」
「はい…。私、中学校に上がるときにこっちに出てきたんです。だからこの町よりも思い出がたくさん詰まっってる学校なんです」

「よし!」
いきなり受話器の向こうの先輩が大声をあげました。
「俺も一緒についてくよ」
「えっ」
「葵ちゃんが生まれ育った町を見てみたからな」
「先輩……」
嬉しいです。
声にはならない言葉…。

「で、明日のいつ出る予定なんだ?」
「朝一で行こうと思ってます」
「じゃあ行くとき俺ん家寄ってよ」
「わかりました」
「それじゃあ、明日」
「はい。さようなら、先輩」

私は受話器をそっと置きました…。
















次の日…。
朝早くに起きて藤田先輩のところに出発します。

先輩の家の前に着くとすでに先輩が外に出て待っていてくれていました。

「先輩。おはようございます」
「おう。おはよう葵ちゃん。さて…行くか?」
「はい」

そうして私と先輩は目的地に向けて出発しました。











電車に揺られること2時間。
バスに揺られること1時間。
歩道を歩くこと1時間。

計4時間を費やして着いた町…。
私の…思いでの町…。

「ここが葵ちゃんが育った町か〜」
先輩が私の横で言いました。
「そうですよー。田舎町です。でも…良い町なんです」
私がそう言うと先輩は私の頭をぽんぽんと叩いて、笑みを浮かべながら言いました。
「わかってるよ。そんなこと。この町があったから今の葵ちゃんが居るんだもんな」
先輩……。



小学校の前で3時になるのを待ちます。
朝、早くに出ただけのことはあってまだ1時を回ったところでした。
すると先輩が私に言いました。
「ちょっと学校の中入っちゃおうぜ」
そう言うと先輩は、閉められている門を乗り越えて中へ入っていってしまいました。
「あっ、待ってくださいよー」





校庭を歩く…。
ゆっくり歩く…。

ここが…私の母校です。



私と先輩は校庭の隅っこに腰をおろしました。

「良い匂いだな…桜の匂い……」
「そうですね……」

無言のまま遠くを見つめる私と先輩。


一体どのぐらい座っていたのでしょうか。
時間は…すでに3時になっていました。
ふと、門の前を見ると一つの影が見えました。

「先輩。先生が来たっぽいです」
「おっ、じゃあ行くか」

私と先輩は門の前まで歩いていきました。



「あれ…?」
でもそこに居たのは先生じゃなくて、私と同い年ぐらいの子供でした。
「先輩。違うみたいですね」
「そうだな。あの子が先生って落ちもないだろうし…」
あるわけないじゃないですか……。

一瞬その子と私の目が合いました。
すると、その子が私に話しかけてきました。

「あのー、すいませんが…松原…さんですか?」
突然知らない子から自分の名前を呼ばれて少しびっくりしてしまいました。
「はい。私が松原葵ですけど…」
「あっ、そうですか。良かった。会えないんじゃないかと心配しましたよ」
「えっ…私、あなたと待ち合わせした覚えは…」
そう言うとその子は私の言葉をさえぎるように言いました。
「私、寺守さえの孫の深雪です」

先生のお孫さん…?
でもなんで…?

「実は…ね…おばあちゃんなんだけど…………」









その言葉は真実…?
信じなければいけないのですか…?


深雪ちゃんの口から出た言葉…。



死。



先生が突然の心不全で亡くなったってこと…。

私は今どんな顔してるんでしょうか…?

私の耳には深雪ちゃんの声は届いているのでしょうか…?











「……さん。…つばらさん……。松原さん…!」

「…………」



すべてが白黒に見えます。

先輩も深雪ちゃんも学校も……。



「葵ちゃん!」



先輩の声…。

凄く遠くに聞こえます…。



「この様子じゃ辛そうですね。今日は私の家に泊まりますか?」
「えっ?良いのか?」
「はい。かまいませんよ。親も葬式の準備やらで家に居ませんから」
「じゃあ葵ちゃんもこんな状態だし…お世話になるかな」
………………。





私は先生が住んでいた家に一晩泊まることになりました。
家に着くとすぐに深雪ちゃんが寝床の用意をしてくれました。
疲れてる私に気をつかってくれたみたいです。

ほんとはもっと深雪ちゃんに先生のこととか聞きたかったのに…。
今…とっても眠いんです。

日が傾き始めた…。
そんな時間…。





明日…ゆっくりと学校を見学します。

先生との思い出と…。
私の思い出…。

二つの思い出を拾い集めるために…。



私はゆっくりと目を閉じました。

現実をこれ以上見ていたくないから……。



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