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「…………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 …前方から女性の悲鳴が聞こえた。まさか……!!」
「…急ごう、葵ちゃん!」
「はいっ!!」
草むらに四苦八苦しながらも、俺達は急いで声のした方へ向かった。


<長い夜、永い想い(2)>


 草むらを抜けると、そこには2人の女性がいた。
1人は綾香だった。普通に立っているところを見ると、どうやら無事だったらしい。
そしてもう1人は…地面に倒れたまま動かなかった。
「…綾香さんっ!」
「…あ、葵に浩之…」
そう言った綾香の顔はすっかり青ざめていた。普段の綾香からは想像もつかないような状態だ。
「…まさか、お前が?」
「そんなわけ…ないで…」
言い終わらないうちに、綾香はまるで操り人形の糸が切れたように倒れそうになった。俺は慌てて駆け寄って、綾香の身体を支える。思ったより華奢な身体が僅かに震えていた。
「…大丈夫か?」
「うん…まぁね…ごめん、しばらく身体貸して」
返事を待たずに、綾香は俺に完全に身体を預けてきた。

 その間に葵ちゃんは、倒れている女性の様子をうかがっていた。
「先輩、大丈夫です、気を失ってるだけみたいです。軽い擦り傷くらいですね」
それを聞いて、俺も綾香も少し安心した。その女性は長い髪を乱して突っ伏してはいるが、均整の取れた肢体にまとったスーツにも争った跡とかは見あたらないし、整った顔にも、スーツから伸びた手足にも、倒れたときに擦りむいたであろう程度の傷くらいしか見あたらない。
安心しつつも、俺は不思議に思うことがあった。
…だとしたら、なぜこの女性はこんなところで気を失っているんだろう?

「…もう大丈夫よ、ありがとう、浩之」
俺達はとりあえず、綾香が正気を取り戻すまでそのままじっとしていた。女性の方にも特に問題になるような怪我は見あたらなかったし、こんな状態の綾香を置いて助けを呼びに行くこともできなかったからだ…まぁ後から考えれば、葵ちゃんに呼びに行ってもらえばよかったんだろうけど。
だけど今はそれを思いつかなかった。そのため、そうしなかったことを後でひどく後悔することになったのだが。
「…綾香さん…ホントに大丈夫ですか?」
葵ちゃんが泣きそうな様子で綾香に問いかけた。
「ごめんね葵、もう大丈夫よ…浩之もごめんね」
「…そんなことはどうでもいい。それより一体何が起こったんだ?」
「そんなことってひどいわね…まぁいいわ、実は…」
何故かちょっとだけ不満な表情を除かせたが、すぐに真剣な表情になって説明を始めようとした
そのとき…。

「………千鶴姉!!!」

 凄まじい大声響きわたった。声のした方向へと振り向くと、1人の女性が立っていた。
制服を着ているところを見ると、高校生くらいと思われる。ショートカットにはっきりとした顔立ち、いかにも活発そうな女の子だ。この女性の妹か何かだろうか?
「あ、あの、これには深いわけが…あるのかはまだわかりませんけど」
「…葵ちゃん…ボケてる場合じゃなさそうなんだけど」
「え、私ボケてるつもりなんか」
「…確かに話を聞いてもらえそうな状況じゃないわね」
綾香の言うとおりだった。彼女の両目に見えるのは、明らかに怒りの炎だった。
まぁこの状況を見れば、彼女のお姉さん(仮)に何かしたのは俺達だと誤解されても全く仕方がないと思うし。
「落ち着いてくれといっても無理かも知れないけど、せめて話を…」
「…うるさぁい!!!」
そう言い捨てて、彼女はこちらに駆け寄ってきた。
…速い!! まさに常軌を逸したスピードで近寄ってくると、俺達に向かって拳を振るおうとした。
「…仕方ない…どいて、浩之、葵!」
そういったが先か、綾香は俺と葵ちゃんを突き飛ばした。
ビーチサンダルを脱ぎ、臨戦態勢を取る。
「……食らえっ!!」
彼女は渾身の一撃を綾香に浴びせようとする。スピード・パワーともにこれまた常軌を逸した一撃だ。正直なところ、俺の目にはあまりよく見えなかった。それほどのスピードだ。
その拳が、今まさに綾香を捕らえようとしている。いくら綾香とはいえ、まともに食らってはただではすむまい。
「綾香ぁ!!」
「綾香さんっ!!」
…しかしその拳は綾香へは届かなかった。綾香は紙一重でその突きをかわした。
「お願い! 私の話を聞いて!」
「うるさいっ! 千鶴姉の敵っ!!」
綾香の説得むなしく、彼女は次々と綾香に攻撃を仕掛けた。しかし綾香はその全てを紙一重でかわしていく。彼女のスピード同様に、今の綾香の動きも凄まじかった。
「…しかし何であんな連打をかわせるんだ?」
「…見えるんですよ、先が」
それまで2人の闘いを必死に観察していた葵ちゃんがぽつりと呟いた。こんなときでも、やはりあこがれの綾香の闘いというのには見とれずにはいられないのだろう。
「確かにあの人のスピードは尋常じゃないです。私はもちろん、綾香さんでもそう簡単にはかわせないと思います。でも、今あの人は怒りで頭に血が上っているせいか、技が大振りで、しかも攻め方が非常に単純なんです。次にどういった攻撃が来るかさえ分かっていれば、かわすのはそれほど難しくはないですよ」
葵ちゃんはそう説明してくれた。確かに言われてみれば、彼女の攻撃は明らかに力任せで大振りだ。
綾香にとって、こんな攻撃をかわすのは容易だということか?
「それでもあのスピードの攻撃をかわせるのは綾香さんくらいだと思いますよ。やっぱりすごいです、綾香さんは…」
なんだか葵ちゃんはすっかり感動しちゃってるみたいだ。だが…。
「…かわすだけではいつまで経っても状況は変わらないと思うけど…」
その通りだった。綾香の必死の説得にも耳を傾けようとせず、ただひたすら攻撃を繰り返していた。
さすがの綾香も、これ以上かわし続けるのは体力的にも厳しそうだった。
「…仕方ないわ…とっておきだけど、とりあえずおとなしくしてもらうしかなさそうね」
そういうと綾香は一旦距離を離すと、改めて構えを取った。
「…さぁ、来なさい!」
「なめるなぁっ!!」
彼女は渾身の力を込めた、今までで最高の一撃を綾香に叩きつけようとした。
しかし綾香はその場を動こうとしない。
「…何してる綾香! よけなきゃやられるぞ!」
「まさか綾香さん、カウンターを狙いにいってるんじゃ…」
「カウンターって…葵ちゃんの崩拳みたいな?」
「そうです…でも無茶です、綾香さん! やめてください!」
葵ちゃんの言うとおりだった。相手は人間離れしたスピードとパワーの持ち主だ。一歩間違えれば強烈な一撃をもろに食らってしまうことになる。
「やめろ綾香! 無茶はするな!」
俺達のそういう声もむなしく、綾香はかわそうとはしなかった。
そして今まさに、彼女の拳が綾香をとらえようとしていた…。


< 続 >



(2)あとがき

 …9000ヒット記念のはずが、気がつけば16000ヒットオーバー(^_^;;)
長らくお待たせいたしました(え、待ってない?(^_^;;))続編です。

 当初は前後編の予定でしたが、書いてみればどう考えてもおさまりゃしねぇ(核爆)。
というわけで、タイトルが番号になりました(笑)。
私の予想では4話くらいで終わるんじゃないかなぁと思ってますが、展開次第では
ズルズル延びる可能性もあります…あ、石を投げないでぇ(T_T)
既に続きは書き始めてますので今度はそんなにかからないと思います…多分(爆)。

 この部分もかなり変わってるんですよねぇ当初の予定と(^_^;;)
綾香とべたべたなシーンなんて予想もしてなかったし。
後一息で葵VS梓になるところだった(笑)。

それでは次回作でおあいしましょー(^_^;)/

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