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「あの…先輩…今度の週末、一緒に海に行きませんか?」
 …思わず俺は自分の耳を疑ってしまった。
「…へっ?」
「あ、あの、だから、私と一緒に海に行きませんかって…」
 今は夏休み。学校はないけど、いつものように2人で練習をして、そろそろ帰ろうかというときのことだった。夕方とはいえ、まだまだ夏だけに日も結構高い。練習を終わらせて、タオルで汗を拭いつつ話していたら…。
「…どうしたんですか、先輩? ぼぉっとしちゃって…私何か変なこと言いました?」
「…いやぁ、まさか葵ちゃんからそんなこといってくるとは思わなかったから…」
「私だって恥ずかしいですぅ…でも…」
 そういうと、葵ちゃんは真っ赤になってうつむいた。気がつくと日もさらに傾いてきて、吹く風も心地よいくらいになってきた。夕日のせいか葵ちゃんの顔もさらに真っ赤に見える。
「…どうしても先輩と一緒に行きたいんです…駄目ですか?」
 …女の子にそんなにまでいわれたら…普通は断れないわな…。もっとも断る理由もないんだけどね。
海ということはやっぱり葵ちゃんの水着姿も見れるんだろうし…。
「もちろん行くに決まってるじゃないか。せっかく葵ちゃんが誘ってくれたんだし」
 葵ちゃんの顔がぱぁっと花が咲いたように明るくなった…と思ったらまたちょっとうつむいて、
「本当ですか! 嬉しいです! …それで…あの…あの…」
「他になにかあるの?」
「…できたら、できたらですよ、お泊まりでいけたらいいなぁ…なんて」
「……………えええーーーーーっっ!!」
 …お泊まり…まさか葵ちゃんの口からそんな言葉がでるなんて…そりゃあまぁ男としてそれは嬉しいかも知れないけど…。
「…駄目ですか?」
「駄目じゃないけど…そっちは大丈夫なの?」
「私の方は…なんとかします。…どうしてもお泊まりじゃないと駄目なんです」
「…分かった、じゃあ一緒に行こうか。で、どうしてもって一体何があるの」
 そういうと葵ちゃんは何かとっても楽しそうな感じでこう言ったのだった。
「それは…行ってからのお楽しみですっ!」
 そして日は巡り、ついにその日がやってきた。俺達は今、電車で海へと向かっていた。とはいってもまだまだ海は遠いらしく、景色どころか近づいてきた感じすらまだない。まだまだ家やビルの方が多く窓の外には見える。流れていく景色を眺めていると、前から缶ジュースを差し出された。
「…どうしたんですか?先輩?」
「いや…電車の旅ってのも悪くないなぁと思って」
 俺は葵ちゃんにそう答えた。さすがにいつも制服を着てる葵ちゃんも今日ばっかりは普通の格好をしている。青と白のチェックのブラウスにキュロット。うんうん、かわいいなぁ。葵ちゃんと2人っきりの旅行。しかも泊まりがけ。きっと楽しい旅行になるだろう…と思ってたのに…。
「なぁにきどってんだかねぇ。ぜーんぜん似合ってないわよぉ」
 …葵ちゃんの隣に座っていたそいつはホントにおかしそうにそういった。
「…大体何でいるんだよ…綾香…」
 …そうなのだ、何故かは知らないが2人きりではないのだ…せっかくだったのに…こいつ本気で邪魔しにきたのかぁ?
「すみません先輩…私がつい…話しちゃったんです…」
「ほらほら、2人きりなのをいいことに浩之が変なことしないように見張ってあげてるのよ、感謝してほしいくらいだわ」
「…誰がだぁっ!!!」
「せ、先輩…あんまり大きな声を出すと…」
 …葵ちゃんの言うとおりだった。気がつけば俺達は電車中の注目の的になっている。俺と綾香は慌てて明後日の方を向いてその場をごまかした。
「いいじゃない、そのかわり宿泊費用は私が出してあげるっていってるんだから。それに…」
「…それに?」
 そういうと綾香は俺の方に身体を寄せてきた。なんか腕の辺りに柔らかい感触が…。
「…こんな可愛い女の子2人も連れていけるんだからいいじゃないの」
 そのとき葵ちゃんの目が笑ってなかったのを俺はしばらく忘れられないかも…。
「…そういえば宿の手配とか全部綾香さんにお任せしてましたよね。一体どんなところなんですか?あんまり高いところだと私お金が足りないかも…」
 綾香も葵ちゃんの視線を感じ取ったのか、俺から身体を話しつつ答えた。
「大丈夫大丈夫、私が出して上げるから。そりゃあもういいところをとったわよぉ。あ、心配しないでね。ちゃんと浩之は別の部屋を取ってあるから」
「へいへい…で、なんていうところなんだ?」
「多分名前は聞いたことあるんじゃないかなぁ。『鶴来屋』っていうんだけど」
 …とまぁこんな感じで始まった、2人+邪魔者1人の楽しい旅行。しかしそれがあんなことになるとは…良くも悪くも思い出深い旅行ではあったなぁ…。

<長い夜、永い想い(1)>

「…先輩、見てくださいっ!」
 葵ちゃんの声に窓の外を見ると、そこには青い海が広がっていた。はるか遠くまで広がる地平線。この辺りは工場などもなく、海はきれいなままに残っている。そしてその海の手前にはこれまたまぶしい程に輝く砂浜があった。
「へぇ…思ったよりいい所じゃない」
 隣で綾香も感動しているようだ。
 駅に着いた俺達はまず最初に旅館へと向かった。
…綾香…なんつーところを選びやがったんだ…。
 そこは俺の想像をはるかに上回る大きさだった。建物だけでも10数階を越え、それ以外にも庭園やら何やらと、とうてい普通の高校生がほいほいと泊まりに来るような所には見えなかった。きっと料金だって相当なものなんだろう。いくら綾香が出すからといったってこれは…。
「おい綾香」
「なぁに?」
「…こんな所に泊まれるほど金もってねぇぞ」
「だから出してあげるっていってるじゃない」
「綾香さん…いくらなんでもそれはちょっと…」
 葵ちゃんもとまどったような感じでそう答えた。
「仕方ないわね…じゃあ貸しって言うことで。そのうち返してね」
 とりあえず部屋に移動した。もちろん葵ちゃんや綾香とは別の部屋だ…ちょっとだけ残念だけど…いやいや、そんなことじゃいけない…。とりあえず一息入れてから、下のビーチで落ち合おうということになった。海…葵ちゃんの水着姿かぁ…一体どんなの着てるんだろう…まぁビキニとかそういうのじゃないだろうというのは想像がつくけど。綾香は…結構派手なの好きそうだなぁ。プロポーションもよさそうだし、きっと注目の的になりそうだなぁ…って何考えてんだか俺は。でも…葵ちゃんがどうしても来たかったわけって一体何なんだろう? 結局未だにさっぱり分かんないんだもんなぁ…。
 …と、気がついたらもう結構な時間がたってるなぁ。もうそろそろ行かないと葵ちゃん達待ってるかなぁ。
 砂浜まで降りてきた。今日もいい天気で、雲一つ浮いていない。空の青さと海の青さが目に痛いくらいだ。砂浜もまぶしいくらいに白く、同時に焼けるほど熱い。…想像以上にいいところだ。ホント、来てよかったなぁ。さて、葵ちゃん達を探さなきゃ…とはいったものの、なかなか見つからない。さすがに季節が季節だけに他にもいっぱい人がいるし。
「確かこの辺のはずなんだけど…」
 そうやって探していると、不意に背中に冷たいものが触れる感触がした。
「うわぁっ!!」
「…おそいぞぉ、浩之ぃ!」
 振り返るとそこには、片手に缶ジュースをもった綾香と、隣で恥ずかしそうにしている葵ちゃんがいた。もちろん2人とも水着を着ていた。
 …かわいい…葵ちゃんは割と普通の競泳用っぽい水色の水着だけど、それが葵ちゃんらしくってとってもよく似合っているし、綾香は…どちらかというと紺色に近い青の…結構大胆なビキニの水着…改めてスタイルいいよなぁさすがに。うーん…正直なところこれを見れただけでも海に来てよかったのかも知れない…。
「先輩!そんなにじろじろ見ないでくださいよぉ」
 葵ちゃんの声に我に返った。言われてみればなんて恥ずかしいことしてたんだろう。
「ご、ごめん、葵ちゃん! …その水着、似合ってるよ、うん。かわいい」
「先輩…ありがとうございます…そういっていただけると一生懸命選んだ甲斐がありました」
 満身の笑みを浮かべる葵ちゃん。そうしてるともっとかわいいよ。
「…あの…もしもぉし? こんな真っ昼間っから2人の世界に入らないでくれなぁい?」
 …隣で綾香がすっかり白けていた。俺達は2人そろって真っ赤になった。
「大体私には『似合ってるね』の一言もいってくれないのね」
「ああ、わりぃ…うん、似合ってる、さすがだな」
「ありがと。そういってくれると嬉しいわ。何がさすがなのかはわかんないけどね」
 …何か怖いんですけど綾香さぁん…。
 …そのまましばらくはごく普通に遊んでたんだけど…。
「ねぇ浩之、あれってなにかなぁ?」
「…あの社のことか?」
 俺達3人は人の多いところから少し離れて歩いていた。すると、林の奥の方に小さな社があるのが分かった。でも…。
「…はっきりいってなんかあやしくないか? 放っておいた方がいいと思うけど」
「私も…何かいやな感じがしますから…」
 そういう葵ちゃんの顔はかなり不安そうだった。意外と葵ちゃんはこういったものに鋭いらしい。となると…やっぱり放っておいた方がいいよなぁ。
「やめとこうぜ綾香。絶対ろくなことおこんないって」
 そういう俺達を後目に、綾香はどんどん先へ進んでいった。
「おい、綾香! 危ないぞ、行くなっていってるだろ!」
「…仕方ありませんね。気は乗らないんですけど追いかけましょう、先輩」
そういって、俺達は綾香が入っていった後を追いかけていった。
 想像以上に茂みは深く、追いかけるのも非常に困難だった。腰くらいの高さのある草をかき分けて、もう少しで社のある場所に着くと思ったそのとき…。
「…………きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
<続く>

 


(ここから後書き)

 とりあえずテーマは「夏だ!水着だ!!」(核爆)。前置きの時点で相当長くなっちゃって結局本筋には何一つ触れていないというとんでもない状況になっています。…決してまだ何も考えていないわけではないです(^_^;;;)
 とりあえず旅館の名前から分かるように、次回は柏木さんの誰かが出て来ます。誰になるかは話の流れで考えますけどね(笑)。
 一応シリアスに流して行くつもりです。乞うご期待(笑)。
 ちなみに…水着はひろりんの趣味です(^_^;)

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