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〜Crisis〜
 ……後編……

                 writed by Hiro
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カラオケ屋さんに着いた…
神岸先輩はずっと黙ったままだし…
いいお話じゃ無いのかな?
そういえば…先輩と初めて来たカラオケ屋さんもここだったっけ…
つい最近の事だったのに、とても昔のような気がする…

「…すいません…ええ、二人です…
 ………あ、はい、わかりました…」
「松原さん、206号室だって」
「はい…」


『ガチャ』

「結構広い部屋だね。あ、何か飲む?」
「神岸先輩は?」
「本当はお酒でも飲みたい気分だけど…まさか、ね。
 ジンジャーエールでいいかな」
「わたしも同じ物で」
「待ってね。お願いしてくる」


「すいません…はい、206…」

神岸先輩がお酒って…
普段は、絶対にそんなこと言わない人なのに…

「すぐ持ってきてくれるって」
「あの…」
「あ、お話だよね。うん…」
「……」
「……昨日ね…」

『コンコン』

「あ、来たみたい…」

「はい、松原さんの分」
「あ、ありがとうございます。で、お話って…」
「……あのね」
「……」
「………」

言いにくいこと…?

「夕べね…志保から電話がかかってきたの」
「はぁ」
「志保が、昨日あの二人を見かけたんだって」
「はい」
「それで、声をかけようかと思ったみたいなんだけど…
 何かとても親密な雰囲気なんで、声をかけそびれちゃったみたいなんだ」
「……親密…」
「結局、声をかけられないままで後を尾けていったら、公園に着いたらしいの」
「……」
「そこで、志保が見ちゃったんだって」
「あの…何を」
「二人がキスしてるとこ…」
「え!」
「志保も目を疑ったらしいよ。見間違いじゃないかって」

うそだ…
藤田先輩がそんなこと…

「でも、確かにキスしてたって。間違いなかったって…」
「そんな…」
「私の心配していた通りになっちゃった…」
「でも!」
「なに?」
「なぜ…長岡先輩は神岸先輩に… なぜわたしへ直接言って…」
「言いづらいと思うよ。私だってそうする」
「……」
「…私の心配していた通りになっちゃった…ね」
「……ごめんなさい!失礼します!」
「あ!待って!」

先輩、うそですよね!
絶対…絶対、うそですよね…

「先輩にお話を…お話を伺わなきゃ」

『ピ、ピ、パ……トゥルル………トゥルルル……』

出ない…まだ戻ってない…
もしかして…神社?
神岸先輩は、今日練習は無いかもって言ってたけど…

「先輩、なぜ……なぜですか?」



神社に着いた…
先輩は…いない…
そうだよね…いるわけ…ないか。
どうしようかな…夜、おうちに電話して…
それとも…



結局、先輩のおうちに来てしまった…
先輩のこと、信じたい…

「あれ!葵ちゃん…」

先輩の…声?

「……何…してるの?」

何してるのって…どうしてそんなこと言うんですか?

「あかりに…聞いたのか?」
「……」
「ま、まぁ、とりあえず上がりなよ。ここに立ってても仕方ないだろ?」
「……はい」


「さて…あかりにどこまで聞いたの?」
「あの…昨日、公園で…」
「話の出どこは『志保ちゃんニュース』か」
「神岸先輩以外は知らないと思います。わたし達を除いて…」
「そうか…」
「あのお話は…本当…な…んですか…?」
「……」

なにかおっしゃって下さい…
このままじゃ……

「せんぱい…」
「…あぁ、本当だよ…」
「!」
「…昨日、公園で志保が見たことは…事実だ」
「……そ…そうでしたか…」
「でもな、葵ちゃん…」
「ごめんなさい!帰ります!」
「あ!葵ちゃん…」

うそだ!全部うそだ!うそであってほしい…



「……ただいま…」
「あ、おかえ…なによ、元気ないわね。
 ははぁ〜ん、さては藤田君とケンカでも……」
「いいでしょ!そんなこと!」
「葵…」
「あ、ご…ごめん…」
「どうしたの?」
「え?…あ、あぁ、なんでもないよ。
 …それで…今日はご飯いらない。何か疲れちゃった…
 もう部屋へ行って寝るね。おやすみなさい…」
「え?もう寝ちゃうの?」
「……」
「そう…おやすみ」


『ドサッ』

ベッドに倒れ込むように横になる。

「せんぱい…」

……「オレは何があっても、葵ちゃんの前から消えない。
    必ず…何があっても…」……

先輩のあの言葉…あの言葉って、うそ…だったんですか?

机の引き出しにしまってある、大切な宝物……
先輩から頂いたムーンストーンの指輪…

……「なんか、その石に思い入れでもあるの?」
   「わたし…昔にこんなお話を聞いたことがあるんです…」
   「どんな?」
   「はい…好きな人から初めて頂いた宝石類がムーンストーンなら、
    その二人は、一生離れずにいられるって。そのことを思いだしたので…」
   「え?そうなの?」
   「迷信かもしてませんが…」
   「ふーん。じゃ、葵ちゃんは一生オレのそばにいてくれるわけだ」
   「わ、わたしはそのつもりです!」
   「うわ!びっくりした…そんな大声出されたら、驚くって」
   「…ごめんなさい…でも先輩」
   「なに?」
   「…わたし…先輩と離れることなんて…とても考えられないんです。
    ずっと、ずぅっと、先輩のそばにいたいんです…
    ですからムーンストーンを…」
   「わかった」
   「……」
   「ありがとな。葵ちゃんの気持ち、本当に嬉しいよ。
    で…だ、6年後は本物のエンゲージリングだな。待っててくれよ」……

あの言葉もうそだったんですか?

「……ムーンストーンのお話…迷信だったんだ…」





『ぴとん…』
『ぴとん…』

「う…ん…あれ、いつのまにか…」

わたし、そのまま寝てしまったみたいです…

「また雨が降ってきたんだ…いま…何時だろう…」

時計は、4時を指していました。

「シャワー…浴びなきゃ…」


『シャー……』

このシャワーが全てを洗い流してくれればいいのに…
昨日の事が、全て夢の中の出来事であってくれればいいのに…


「葵、おはよう」
「え?あ、お母さん…ごめんね、起こしちゃった?」
「うん、朝の4時からシャワーの音がしてればね…って、もう5時か…」

5時って…一時間もシャワーを浴びていたんだ…わたし。

「何があったの?」
「……」
「…わかったわ。無理には聞かない。
 でもね、何か心配事があるなら、相談しなさい。私だって母親なんだから。
 娘の悩む姿なんか見たくないんだから…ね」
「う…ん、ありがとう。でも、今は…」
「そう…」
「本当にごめんね」
「いいわよ。で、まだ早いけど、ご飯にする?」
「…悪いけど…」
「…」

髪を乾かして、ブラッシングして…
でも、まだ6時…

『プルルルルルルル…プルルルルルルル…』

え?電話?こんなに朝早くから…

「あおいー!ごめんね。お母さん、今…」
「はぁい」

「もしもし…松原ですが…」
「葵ちゃん?」

せんぱい…

「ゴメン…朝早くから」
「い、いえ…大丈夫です」
「学校に行ってからでもよかったんだけど…
 今日の放課後…いいかな」
「放課後…ですか?」
「うん」
「…はい」
「わるいな」

『プツッ ツーツーツー』

先輩のお話…か…
たぶん、お別れの話なんだろな…
マルチさんが研究所に帰ってから二ヶ月半…
わたしと先輩がお付き合いして二ヶ月…
マルチさんなんて一ヶ月もお付き合いしてないのに…
わたしの方が…わたしの方が長いのに…
……なぜ…なぜなんだろ…

「もう…だめなのかな…」





ついに放課後になった…
永遠に来なければいいのに…放課後なんて。

「葵ちゃん…」
「あ…」
「悪いね、時間を取らせて」
「いえ…」
「どこで話そうか…この雨じゃ屋上ってわけにもいかないし…」
「ここで結構ですよ。もう、みんな帰っちゃいましたから…」
「ん。で、話なんだけど…」

聞きたくない……
お別れの話なんて聞きたくない…

「もう、わかってると思うけど…オレ、マルチの事…」

『バタバタバタバタバタバタバタ…』

「ひ、ひ、浩之さ〜〜〜ん!」
「マルチ!」

え?マルチさん…

「あの、あのあのあの…あ、あかりさんから伺いました!
 松原さん、ごめんなさいです〜〜〜!
 私、私…浩之さんと松原さんがお付き合いしていたなんて、知らなかったんです〜
 知っていたなら、私は……
 浩之さん、なぜお話ししてくれなかったんですか?」
「え?あ、いや、その…」
「私は…ご存じの通り、また、研究所に戻らなければいけないんです。
 二週間経ったら、また、研究所に…
 ですから、こちらにお世話になっている間の浩之さんとの思い出を…
 素敵な思い出をメモリーに焼き付けておこうと思っていました。
 でも…でも、他の人を悲しませて作った思い出なんて…そんな思い出なんて…
 私…いりません…」
「マルチさん…」
「浩之さん、なぜですか?松原さんがいらっしゃるのに……
 決して手放してはいけない人がいらっしゃるのに…
 なぜ私なんかに優しくして下さったんですか…?」
「……」
「悲しい…思い出になってしまいました…」
「ごめんな、マルチ」
「……さよなら…です…」
「さ、さよなら?マルチ…」
「もう…さよならです…明日から、もうここには…失礼します」
「ちょ、ちょっと、マルチ…」
「せんぱい…」
「え?」
「行ってあげて下さい」
「で、でも…」
「今は行ってあげて下さい」
「……」
「もし…もしも、わたしのことを少しでも想って下さる気持ちがあるなら
 ここへ戻ってきて下さい。お願いします」
「悪い!」

行っちゃった…わたしってお人好しなのかな?
でも…このままじゃ、マルチさんがかわいそう…



先輩、なかなか戻ってこないな…
お引き留めしておけばよかったかな…


『ガラ!』

「葵ちゃん…」

よかった…戻ってきて下さった…

「先輩!お帰りなさい」
「あ、あぁ、ただいま…って少し違うような気が…」
「そんなことより、あの…マルチさんは…」
「ん、大丈夫だよ。明日もちゃんと来る…とりあえず、バス停まで送ってきた」
「そうですか…よかったです…」
「で……葵ちゃん…」
「はい?」
「なんで…えっと…オレを行かせたの?」
「え?……そ、それは…」
「ゴメン、オレが訊くことじゃないよな…」
「いえ、構わないんですが…たぶん…」
「たぶん?」
「マルチさんの思い出を壊したくなかった…んです…」
「マルチの思い出…」
「思い出って、誰も壊す権利なんか無いと思います…
 そして…素敵な思い出は、辛いときや悲しいときに人を力づけてくれます」
「でも、マルチは人間じゃ…」
「先輩!」
「な、なに?」
「先輩は…その…マルチさんとキスした時…あの…」

言いにくいな…先輩とマルチさんがキスをしたなんて、考えたくないけど…

「マルチさんを、ただの物としか見ていなかったんですか?」
「それは…」
「じゃ、わたしの言いたいことはおわかりになりますよね」
「……」
「ですから、先輩をマルチさんのところへ…」
「……オレって何してるんだろうな…
 最初は、マルチを楽しませてやろうと思っていただけなのに…
 結局こんな結果になって…で、二人の女の子を悲しませて…オレっていったい…」
「先輩、二人じゃないです。三人ですよ」
「三人?」
「神岸先輩も、です…」
「あかりも…か」
「ええ、神岸先輩、最後まで心配なさっていました」
「そうか…あかりにも謝らないとな」
「お願いします」
「わかったよ。それで…葵ちゃんには、埋め合わせしなきゃいけないことが
 たくさん出来ちゃったな。っと…謝るのが先か…」
「先輩、私に謝るのは後でもいいですけど…なにか忘れてませんか?」
 そのままにしておくと、取り返しのつかないことが…」
「忘れていること?なんだろなぁ…」
「くす…『志保ちゃんニュースよ〜』です」
「あぁ〜!!」
「先輩、早く行かないと…長岡先輩、帰っちゃいますよ」
「お、おぉ、そうだな。ゴメン、何度も行ったり来たりで」
「はやく」
「ん、ちょっくら行ってくるわ」
「あ、先輩!」
「へ?」
「あの…また、練習に参加して下さりますよね?」
「いいの?」
「はい…ぜひ」
「わかった…じゃあな。すぐ戻ってくる」
「はい!行ってらっしゃい」

『バタバタバタバタ……』

「ふぅ…よかった…先輩とお別れしなくて済んだ…よね…?」


『カラカラカラ…』

あれ?もう戻ってきた。長岡先輩、帰っちゃったのかなぁ

「松原さん…」
「あ、神岸先輩」
「ずっと気になっていたんだけど…私がいると邪魔かなって…
 マルチちゃん、来たでしょ?」
「はい…」
「じゃ…」
「はい!お騒がせしました」
「よかったぁ…でもね、松原さんは悪くないよ。悪いのは浩之ちゃん」
「そうですか?…わたしにも至らないところがあったから…」
「いいから気にしないの。わかった?」
「わかりました」
「これで元通りだね」
「本当によかったです…」
「あ、でもね、私のよかったは二つの意味があるんだ」
「え?」
「一つは、元通りになったこと。そしてもう一つは…」
「はぁ…」
「もう、何があっても大丈夫だね。ってこと」
「神岸先輩…」
「これだけ大変な目にあったんだもの。もう大丈夫、だよね?」
「あ…はい!」
「ふふ…がんばってね」

神岸先輩、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
これから何があっても、藤田先輩を信じて付いて行きます。
ですから…どうぞ安心していて下さい。

「はぁ…疲れた…あれ?あかり…」
「あ、戻ってきたね」
「あの…いかがでした?」
「おう、なんとか…な。で…あかり、悪かったな、今回は…」
「本当に悪いと思ってる?」
「あぁ」
「じゃ、態度で示してもらおうかな」
「なんだよ、土下座でもしろってか?」
「ううん、いくらなんでもそこまでは言わないよ。ねぇ、ヤックへ行こ」
「ヤック?」
「うん、今日は浩之ちゃんのおごりで…」
「えぇ〜〜!」
「何か言いたいことある?」
「いえ…ありません…」
「そこで浩之ちゃんに、たっぷりとお詫びしてもらうわ。ね!松原さん」
「そうですね。わたしも聞きたいです」
「じゃ、行こ!」
「とほほ…」


「あ、雨がやんだよ」
「本当ですね…」
「別に天気なんて…それより小遣いが…」
「なぁに?」
「あ!いえ、なんでもありません」
「早く行こうよ。遅くなっちゃうよ」
「へーい…しょうがないな。ブツブツ…」
「浩之ちゃ〜ん、何してるの〜?先行っちゃうよぉ〜」
「だぁ〜、わかったよ!そこで待ってろって」
「ほらぁ、早くしないとドリンクLにしちゃうよぉ〜」
「はいはい…あ〜あ。高くついちまったな…」

先輩、お疲れさまです。
でもね、自業自得ですからね。
これに懲りたら、もうしないで下さい。
お願いしますよ。
今度したら…わたしの方が、先輩のことを嫌いになっちゃうかもしれません。
だから…

「松原さん、何ごちそうしてもらおうか?」
「そうですねぇ…」

もうすぐ、梅雨が明けます。
この夏はどこへ連れていって下さいますか?
だって、先輩と過ごす初めての夏休みですもの。
今から楽しみにしていてもいいですよね?

「せんぱ〜い!あまり遅れると、長岡先輩を呼んじゃいますよぉ〜」
「そんな〜…葵ちゃんまで…」




                             おしまい




 あとがき
みなさん、こんにちは。Hiroでございます。
今回は悲しいお話です…の、予定だったんですが
「だめだぁ〜!葵ちゃんを悲しませることは出来ない〜」
私ってば、まだまだ甘いですね。ヤレヤレ…
でもいいんです!葵ちゃんが幸せになってくれれば。(逆ギレ)

なんて、冗談はさておき
いつもらぶらぶモードなんで、そろそろ違う毛色でもいいかな。
と、思いまして書き上げてみました。

しかし…本数を重ねるにつれて、反省会の議題が増えてくるような…
困ったモンです。創作を極めることは、永遠に出来ないようです。

今私にとって、SSを書いて発表する事は半ばライフワークみたいな物になってます。
読まされる方々はいい迷惑かもかもしれませんが… (^^;
ペースは落ちていますが、なんとかネタを見つけて続けていこうと思っています。
どうぞ、お付き合い下さいませ。

今回はこんなとこでしょうか。
では、11作目でお逢いしましょう。

1999年7月 とある喫茶店にて Hiro


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