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「先輩…せんぱい…」
雨に混じって、葵ちゃんの頬を涙が伝う。
細い肩をさらに抱きしめる。
…本当に寂しかったんだなぁ…。

「…君が『先輩』かい?」
そんな俺達に声をかけてくる人がいた。
声の方を見ると、一人の男が立っていた。どうやら日本人のようだけど…葵ちゃんの知り合いかな?
俺は葵ちゃんから離れて、その人に挨拶する。
「あ、葵ちゃんの知り合いの…」
「……っ!!」

 ばきっ!!

 一瞬何が起きたか理解できなかった。
気がつけば地面に横たわっていた。頬に強い衝撃が走る。
「せんぱいっ!!」
「ちょっとあんた! なにするよのいきなり!」
近くまできていた綾香がその男に食ってかかる。
「ん…余計な手間かけさせられた腹いせってところかな…あ、きみ来栖川綾香でしょ?」
急に変わった態度に綾香がとまどっている。
「え? そうだけど」
「いやぁ、松原葵に続いて君にまで会えるなんてついてるなぁ。
 ねぇ、ちょっと向こうでお話ししません? 俺、君のファンなんだ」
そういいつつ、強引に今出てきた店に連れ込もうとしている。
「ちょっ、ちょっと何よいきなり」
そんな綾香をあしらいつつ、俺達の方へ向き直って、
「…話、ちゃんとしなさいね」
「あっ…」
俺と葵ちゃんは完全に言葉を失った。
「なーるほど、そういうことね。そういうことならお相手しましょう。
 もちろんあなたの奢りよね?」
「…はいはい」
そういい残して2人は店に入っていった。


<〜雨の後には〜>


「……」
「……」
しばらくの間、お互いに口を開かなかった。
一体何から話せばいいものか。
話さなきゃいけないことはたくさんあるのに、なかなか言葉に出来なかった。
「あの…」
最初に話し出したのは葵ちゃんだった。
「な、何?」
「…いつからこっちに?」
「ついさっき。まだ半日も経ってないんじゃないかな」
「えっ? なんでそんな急に」
「…葵ちゃんに謝りたかったから」
その言葉を聞いた葵ちゃんの顔に一瞬陰りが浮かんだ。
「…何のことでしょう?」
話し方もぎこちない。
「こないだの電話のこと」
「……」
「確かにあのとき、綾香がいたよ。でも…その…別に何もなかったから」
「…えっ?」
「…文字通り、一緒に寝てただけなんだよ…まぁこれでも十分何かあるのかも知れないけど」
…うっ、葵ちゃんの視線がちょっとだけ痛い。
「いや、雨に濡れちゃって風邪引きそうだったから…いや、家に帰せばよかったんだろうけど…
 ちゃんと服も着てたし……あの…その…ごめんっ!! 俺が悪かったっ!!」
とにかく謝る。ひたすら謝る。
許してもらえないだろうけど、俺には他に出来ることがないし。
 葵ちゃんはやっぱり黙り込んでいる。
「…ひどいです。私は一人で寂しかったのに…先輩は綾香さんと仲良くしてるなんて…」
「ご、ごめん…」
「私なんていなくてもいいんですね、先輩は…」
葵ちゃんはそのまま顔を伏せて泣き出した。
「あ、葵ちゃん…大丈夫?」
「……」
「葵ちゃん…」
「…少しは反省しましたか、先輩?」
なんと葵ちゃんは突然顔を上げて俺にそう言ってきた。
よく見ると別に涙は流してない…うそぉ…。
「騙したな、葵ちゃん!?」
「えへへっ、私だってちょっとは成長してるんですよっ」
なんだか葵ちゃんはとても楽しそうだ。

「…確かに正直いって許せないと思います。浮気してるんだし」
「うっ」
急に真剣な顔になった葵ちゃんに問いつめられ、俺は言葉に詰まった。
「でも…まぁ今回に限っては許してあげます」
「えっ!?」
「…わざわざこんな所まで誤りに来てくれましたし。でも…次からは許しませんよ」
「あ、あはは…もちろん」

再び黙り込む。
ふと空を見上げると、雨はどうやら止んだらしい。
ビルの合間に、ちょっとだけ星空も見える。
「先輩…先輩もやっぱり寂しかったんですか?」
葵ちゃんがそう聞いてきた。
「うん…例え気持ちが変わらないと信じていても、やっぱり離れると寂しいよな」
「だからって浮気するのはひどいですよ」
「頼むからそれは言わないで…」
「私も…寂しかったんですよ…先輩…」
そういって葵ちゃんは俺に体を預けてきた。
「葵ちゃん…」
「やっぱり私、先輩のそばにいたいです…一秒だって離れたくない」
同意する代わりに俺は葵ちゃんを抱きしめた。


「…あーはいはい、2人の時間は終わりね」
…綾香の声に、俺達は慌てて離れた。
「あ、綾香さん!? いつの間に?」
「大丈夫よ、今来たばっかりだから」
うーん…どこまで信用していいんだか…。
「さ、それじゃそろそろ帰りましょうか」
俺を殴った人…マサキさんというらしい…がそういった。


 その後、浩之はホテルに部屋をとって、そこに泊まることになった。
そして私は…というと、葵の部屋に泊まることになった。
…私に話があるんだそうだ。覚悟はできてるけど。

「綾香さん…先輩のこと、好きなんですね」
そろそろ寝ようかとした頃、葵が話しかけてきた。
やっぱり…とはいえもはや避けても通れないだろう。私は覚悟を決めた。
「えっ? …うん、好き…かな」
「やっぱり…実は前からそうじゃないかなぁって思ってたんです」
「…気づいてたんだ…」
「だからなおさら心配だったんです。綾香さん私なんかよりずっと綺麗だから」
「自信持ちなさいって。くやしいけど…浩之は葵のことしか目に入ってないから」
「綾香さん…」
「…悔しかったのよ。浩之が辛そうにしてるのになにもしてあげられないのが。
 正直、葵が憎いと思いさえしたわ、一時期はね」
「すみません…」
「…やっぱり好きなら離れてちゃ駄目ね。簡単にバランス崩れちゃうわ。
 もう…手放しちゃ駄目よ」
「…はい…綾香さん」
なんかちょっといい人過ぎたかな…まぁいいか。
そのまま私達は眠りに落ちた。



 あれから3ヶ月が過ぎた。
結局葵ちゃんはこっちに戻ってくることになった。まだ完治はしてないけど、
これ以上向こうにいても精神的に辛いというのが最大の理由だった。

 葵ちゃんはこっちに帰ってきてリハビリを続けている。
俺もつきっきりで葵ちゃんに協力している。
葵ちゃんの左腕も少しずつ動くようになってきている。

 綾香とは…今まで通りの関係を続けている。
あの日のことはもうお互い語ろうとはしない。決して忘れたわけではないけど。
でも…ちょっとだけ距離が近づいたような感じはする。
決して浮気してるわけでないけどな。


 今日も葵ちゃんのリハビリにつきあう約束をしている。
校門のところで待つ葵ちゃんを教室の窓から見つけ、慌てて駆け出す。
手早く靴を履き、学校から出る。
 眩しくてふと見上げると、雲一つない空に春の陽が輝いている。
午前中まで降っていた雨は見事なまでに止んでしまった。

 ずっと雨なんてことはありえない。
雨の後には明るい光が射してくるもんだよな。より一層輝きを増して。

 そんなことを考えながら、俺は葵ちゃんの所へ走り出した。


< 完 >




(後書き)
 「雨」シリーズ簡潔^h^h完結です(いやマジで簡潔かも(核爆))。
結局波風立たずに終わってしまってます。
そんな簡単に許していいのか葵ちゃん(^_^;;;;)

 やっぱり今の心境じゃ書ききれなかった…。
とはいっても今書かないともう書かないような気がするし…。

 まぁいろんな意味で勉強になったのかも知れないなぁ。
この失敗を今後に生かせればなぁと思います、はい(^_^;;)

 つーわけで、強引にシリーズ化した「雨」ですが、
1本目との雰囲気の違いに関わらず読んでいただいた方
本当に感謝です(…どれだけいるんだろ(^_^;;;))
 すさまじい駄作ですが本当にありがとうございましたm(_ _)m

 こんなんしか書けないヘボい物書きですが、これからも
読んでやってくださいませm(_ _)m

 それでは〜。

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