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「明日こそ先輩に言おうっ!」

ベットの中で小さくガッツポーズを取る。

明日は、待ちに待った海 ―――

1ヶ月程前から浩之と計画を立て・・・いや、無理矢理立てたイベントである。

「先輩にも無理言って時間合わせてもらったんだから頑張らないとっ」

そう。葵にしては珍しく、浩之を無理矢理誘い出したのだ。

全ては浩之に告白するために・・・


勇気


WRITE : 博


「良い天気だなぁ」
浩之が空を見上げる。
――― 雲一つ無い
まさに『海日和』といったやつだ。
「ええ、そうですね。せんぱい・・・」
「どうしたんだ?元気が無いぞ?」
「え?そんな事ありませんよぉ・・・」
ちらりと後ろを振り向く。
何故かそこには芹香に綾香、おまけにマルチがちょこんと座っている。
「あら葵、偶然ねぇ。こんな所で会うなんて」
綾香が話しかけてくる。しかし、綾香の目は笑ってはいない。
まるで、抜け駆けは許さないわよ・・・と言わんばかりの表情だ。
その態度を見れば判る。偶然などではなく、2人の存在を知った上でここに来たのだ。

――― 来栖川家
あの家の力ならばそんな事調べるのは造作ない事だろう。
が、何故マルチも一緒にいるのかは判らない。・・・(笑)
何はともあれ、2人きりの海はこの3人に見事阻まれたわけである。
「それにしても先輩も来てるとはな。ちょっと驚きだぜ」
「・・・・・・」
「わたしもです。だって?ああ。だってこんな所で会うなんて普通思わないだろ?」
「そうよねぇ、普通は思わないわよねぇ。・・・あ、ところであなた達って今日は日帰りなの?」
ちらりと葵の方を見やる。心なし綾香の目が光ったような気がするのは気のせいだろうか・・・
「えっと、ですね。この先に私のおばさんの旅か・・・」
「私達はね、この先にある旅館に泊まる事にしてるんだけど」

ぎくっ!

「りょか・・・ん?」
(ぜ、絶対に綾香さん狙ってるっ!)
「あら?もしかして同じ宿かしら。偶然って重なるものねぇ」
後ろではマルチが苦笑いしている。
やはり、無理矢理こちらのスケジュールに合わせたのだろう。
「うぅ、いいですよ。もう好きにしてくださいっ!」
「あら?なんの事かしら。解らないけど葵がそういうんだったらそうさせてもらうわ
しまったっ!と思った時にはもう遅い。
さっさと衣服を脱ぎ捨て、その下に着込んでいた水着姿になる。
早速とばかりに浩之の方へと歩いていく。
『あっ!』
葵と綾香の声がハモる。その視線の先には、既に水着になっている芹香の姿があった。
「うわぁ、先輩なかなか大胆な水着着てるなぁ」
浩之がマジマジと水着を見つめる。
「くっ!姉さんに先手を取られたわっ!」
急いで綾香も2人の元へ駆け寄る。
葵は、はぁ〜。と溜息をつくと、マルチの座ってる方へと歩いていった。
「どうなされたんですかぁ?」
またまた溜息一つ。そしてポツリと呟く。
「2人ともスタイルよすぎですよね。全然太刀打ちできませんよ」
芹香と綾香・・・この2人のグラマラスなボディに悩殺されない男など恐らく存在しないだろう。
きめ細やかな髪、端正な顔立ち、どれ一つとっても葵に勝てる要素などない。
「そんな事ありませんよ。葵さんには葵さんのいいところがありますよ」
マルチがにっこりと微笑む。
「・・・そうでしょうか・・・」
3度目の溜息を吐く。
「・・・せっかく海に来たんだし。ちょっと泳ぎませんか?」
「あ、私は・・・」
どうやらマルチは、開発の人になるべく海には入らないようにと止められているらしい。
しょうがなく、葵は1人海へと歩き出した。
浩之の為に新調したせっかくの水着も、見せる相手がいないとなると、妙に色褪せて見えてしまう。

(先輩のばか・・・)
未だ戯れる3人を後ろ目に、海へと体を沈めていく。
別に泳ぎたいわけではない。
沖の方まで出ると、後は波の流れに身を任せぷかぷかと浮いてみる。
(・・・気持ちいい・・・)
太陽の照り返しが妙に心地いい。
このまま目を閉じてしまえば、夢の世界に行ってしまうのでは?とさえ思えてしまう。
(はぁ。綾香さん達にはかなわないなぁ・・・)
スタイル、性格、経済力・・・
どれをとってもかなわない。ましてや綾香など、格闘技ですら勝つ事が出来ない。
(やっぱり私ってダメだなぁ)
何のかんので逃げている自分が悔しい。
解ってはいる。けれど体が言うことを聞かないのだ。
(このままじゃ先輩、取られちゃうよぉ)
浩之と過ごすための計画も、浩之の為に選んだ水着も。
なによりここまで来た意味さえも無くなってしまう・・・
葵にしてみれば、一生分の勇気を使いきったつもりだった。
「頑張ってるのに・・・」
消え入るような声で呟く。と、その時、

ぐゎしっ・・・ぐぃっ!

何者かに足を捕まえられ、そのまま水中へと引きずり込まれる。
「ひぁっ!な、何!?」
ばしゃばしゃと手足をばたつかせる。
が、いくらあがこうとも、『それ』は葵を引っぱり続ける。
「や、やだっ!誰か・・・っ!?」
とたん、ぴたっとその行為が止まった。水中から見知った顔が現れる。
「あ、綾香さんっ!?」
「なぁに暗い顔してるのよ。そんな事じゃ、姉さんに藤田君取られちゃうわよ?」
「え?」
「藤田君の事だから、今頃姉さんと一緒に楽しく・・・」
あわてて岸の方を見やると、芹香の膝で横になっている浩之の姿が映し出される。
「あ・・・の?」
目に映っている光景の意味が理解できない。
「ほんっと、あの2人ったら妬けちゃうわねぇ」
やれやれ、といった感じで溜息をつく。
葵は、ただ口をぱくぱくとさせながら、芹香と綾香を交互にみている。
「姉さん、あれでなかなか大胆なのよねぇ・・・」
ふぅ・・・と遠くの方を見つめる。
「〜〜〜〜〜〜〜」

ばしゃぁっ!

(そんなの・・・ないよぉ)
綾香を振り切り、沖の方に向かって泳ぎ出す。
が、その腕を綾香が掴む。
「は、放して下さいっ!」
強引に振り払おうとするが、そうやすやすと綾香が放す筈も無い。
「ちょ、ちょっと、待ちなさいっ!」
「嫌ですっ!放して下さいっ!」
「わ〜っ!ごめん、ごめんってば、冗談よぉ!」
「冗談・・・冗談!?」
葵の動きが止まる。それを確認してから綾香が再び話し始める。
「・・・んと、藤田君ね、姉さんの作った薬飲んで倒れちゃっただけなのよ」
「倒れた・・・!?」
きょとん、と綾香の顔を見つめる。
「そう、倒れたの。何でも、『綺麗に体の焼ける薬』を作ったとか。何故か飲み薬っ」
くすくすっと笑う。
「で、それを飲んで倒れちゃったわけ。ま、姉さんの頼みだから断れなかったんでしょうね」
わかった?と言いかけて、すでに葵がいなくなっている事に気付く。
「ふぅ。あの子ったら・・・」
世話が焼けるわね、といった風に溜息をつく。
「敵に塩を送る私も・・・か」



――― 結局
浩之の大事を取って早めに宿へと移動する事に決まった。
「先輩、ホントに大丈夫ですか?」
各々の部屋に分かれると、さっそく浩之に話しかける。
「ああ。全然大丈夫だよ」
と、笑って返す。
綾香も芹香もいない。ようやく2人きりになれたわけである。
「でも、残念だなぁ。もっと葵ちゃんの水着姿見たかったなぁ」
「えっ?だっ、大丈夫ですよ!まだ明日がありますからっ」
「そうだな。明日はたっぷりと葵ちゃんの水着でも堪能するかな」
「た、堪能・・・ですか?」
自分の顔が赤くなるのが判る。そんな葵を弄ぶように、浩之が言葉を続ける。
「ああ。今日は殆ど見れなかったからなぁ。明日は葵ちゃんの体の隅々まで見せてもらうよ」

ぼんっ

「あ、葵ちゃん!?」
振り返ると、耳まで真っ赤にした葵が固まっている。
「わ〜っ!葵ちゃんっ、しっかりしろっ!」
ゆさゆさと、葵の体を揺する。しかし、一向に葵の意識は戻らない。
「お〜い、もしも〜し、・・・あおいちゃん?」
「・・・・・・」
「・・・うりゃっ」
ほっぺたを抓ってみる。・・・無反応
「・・・ほりゃっ」
耳を引っ張る・・・無反応
「じゃ、じゃあ・・・」

ぷにっ

胸を触ってみる・・・反応ありっ!
「きゃぁぁぁ!」

ごっ!

「うぐぉっ!?・・・がふぅっ!」
力の限り、目の前の浩之を突き飛ばす。浩之はそのまま床をのたうち回る。
「・・・あっ!先輩っ!大丈夫ですか!?」
もがく浩之におろおろとしながら話しかける。そんな葵に苦しみながらもガッツポーズを取る。
「こ、これくらい・・・」
バタン・・・とそのまま倒れこむ。
「せ、先輩っ!」
青ざめた顔をしながら、慌てて浩之の傍に駆け寄る。
「ごめんなさいっ!私ったらとんでもない事を・・・」
なおもうめき続ける浩之を抱き起こす。

がばぁっ!

「ひゃっ」
悶えていた浩之が、急に葵を抱きしめる。
「はは、冗談だよ♪俺の体はそこまでヤワじゃないぜ?」
「せ、せんぱい・・・もうっ!本当に心配したんですか・・・」
言いかけてそのまま口をパクパクとさせる。
「ん?どうしたんだ、葵ちゃ・・・」
浩之もそのままの姿勢で固まる。
「あ〜ら、まだ陽の高いうちから見せつけてくれるじゃない?」
部屋の入り口に綾香が立っていた。
「あ、綾香さんっ」
慌てて浩之から離れる。浩之も、バツが悪そうにゆっくりと起きあがる。
「・・・ったく、イイとこだったのによぉ・・・」
「ななな、せっ、せんぱぃっ!」
「・・・・・・」
その様子を終始無言のまま綾香は眺め続けている。
「あ、え〜と・・・あや・・・かさん?」
「あら?もう終わりなの。残念ねぇ」
「まぁ、その話は置いとくとして・・・で、何の用なんだ?」
言われてふと、自分が何をしに来たのかを考える。
――― 口元に指を当てて考え事
その仕草も綾香は絵になる。これが生まれの違いなのだろうか・・・とついつい考えてしまう。
「そうそう、葵をお風呂に誘いに来たのよ。海で泳いだから体がべトついちゃうじゃない?で、1人で入るのも何だから・・・と思って葵を誘いに来たのよ」
綾香の言うとおり、ふと見れば綾香は手に洗面用具を持っていた。
「葵がどれくらい成長したのかも確かめたいしね♪」
「もうっ!綾香さんまでっ」



「・・・で、藤田君には言ったの?」
「い、言えませんよぉ。やっぱり恥ずかしくて・・・」
ぶんぶんっと顔を横に振る。
「あら、じゃあやっぱり私が貰おうかしら?」
「だ、それだけはダメですよっ!」
「だったら早く言う事ね。そうしないと・・・」
「わかってますっ・・・けど、やっぱり・・・」
ちらりと綾香を見る。端正な顔立ちに綺麗なボディライン。
「はぁ。やっぱり綾香さんは綺麗ですよねぇ・・・」
ふぅ・・・と溜息をつく。
「何言ってるのよ、葵だって十分可愛いじゃない。だって、現に藤田君は私より葵を選んだわけでしょ?」
かぁっ、と葵の顔が赤くなる。
「とにかくっ、今日中に藤田君に言うのよ?そうしないとホントに私が貰っちゃうからね?」



――― その日の夜 ―――

食事の為に部屋を移動する。5人揃った所に食事が並べられていく。
「お、豪勢な食事だなぁ」
並べられているのは海鮮料理。場所が海に面しているだけあって、海の幸が豊富である。
「本当、美味しそうね」
「・・・・・・」
「すごいですぅ。私もこれくらいお料理が出来れば・・・」
口々に料理を誉める声が上がる。そんな中、葵1人が俯いている。
「ん?どうしたんだい、葵ちゃん」
「いえっ何でも無いですっ」
葵の表情に緊張が走る。
・・・今はまだ言うべき時ではないのだ。その時まで浩之に気取られるワケにはいかない。
「皆で一緒に食べたらさぞ楽しいだろうなぁ、なんて考えてただけですよ」
平静を保とうと必死に言葉を探す。
「そっか。そうだよな」
料理の方が気になるのか、浩之はそんな葵の様子にも気付くことなく料理を眺めつづけている。
「さ、それじゃぁいただきましょうか」
それぞれの前に食事が並び終わった所で、綾香が食を促す。
『いただきま〜す』
手を合わせ、皆それぞれの食事を取り始めた。


「ふぅ、食った食った」
もう食べきれない。といった風な感じで浩之がどさっとその場に倒れこむ。
「藤田君、行儀悪いわよ」
言いながら綾香が立ちあがる。それに続いて芹香達も立ちあがる。
「・・・・・・」
「え?用事があるので。だって?そっか、それじゃぁしょうがないな」
「藤田君、葵に変な事しちゃダメよ?」
「へいへい。判ってますよ」
ひらひらと手を振って綾香を見送る。
「先輩、気をつけてな。マルチも頑張れよっ」
「はいっ、頑張りますぅ♪」
綾香の後を芹香とマルチが続く。出ていく時にペコリと芹香が頭を下げていった。
「ふぅ。これで2人きりになっちまったな」
葵の方を振り向き、ニコッと笑いかける。
「そ、そうですね。・・・あ、あのっ、先輩っ!」
「よっと・・・どうしたんだい?葵ちゃん」
葵の横に腰を下ろしながら浩之が先を促す。
「あの・・・ですね?ちょっと聞いて欲しい事があるんです・・・」
――― 遂に来るべき時が来てしまった
葵は覚悟を決めると、浩之の方を振り返る。
その只ならぬ様子を見て、浩之も真剣な眼差しになる。
「俺に出来る事なら・・・何だってかまわないぜ?」
「その・・・今月の13・14・15日なんですけど・・・お時間空いてますでしょうか?」
「え?今月・・・8月の13〜15日か?」
「はい。・・・あ、とりあえずは15日だけでも大丈夫なんですけど・・・」
「あ、ああ。空いてるけど、その日何かあるのかい?」
「ええ。その日、とても大切な事があるんです・・・」


――― その後、葵の口から漏れた台詞は、浩之の想像を遥かに上回るものであった ―――


「売り子ぉ!?」
「はい。売り子さんです。嫌ですか?・・・そうですよね。嫌に決まってますよね・・・」
下を向き、肩の辺りを震わせる。
「わっ、葵ちゃん泣かないでくれよっ!判った!やるよ、売り子っ」
「本当ですか!?」
浩之の台詞を聞くや否や、葵は顔を上げ浩之に抱きつく。
「ぐっ・・・嘘泣きだったのか・・・」
「そんな事ありませんよ。でも、嬉しいです先輩っ」
「・・・ま、まあ良いけど。で、その『夏コミ』とやらには、人がいっぱい来るのか?」
「ざっと20万人くらいです♪」
「に・・・にぢうまん・・・」
バタンっとその場に平伏す。もはや起きあがる気力も無いようである。
「あ、そうそう。綾香さん達も別のサークルで出るんですよ♪」
にっこりと浩之に微笑みかける。
「間違っても綾香さん達のサークルに負けるような売り子さんしたら承知しませんよ♪」
「売り子に勝ち負けがあるのか!?っていうか綾香達?って事はもしかしたら先輩も!?」
「ええ、そうですよ。知らなかったんですか?」
「そんな事聞いた事も無いぞっ!」
「でしょうねぇ。皆様隠してたみたいですし」
「・・・葵ちゃん達って、格闘技だけじゃなかったのね・・・」



☆★☆ あとがき ☆★☆

ふぃ〜、終わった・・・(笑)
最初は告白ネタだったんですが、気付いたら別の事を告白してました☆(^^ヾ
まぁ、今まで格闘技一本でやってた娘がいきなり、
『私同人誌作ってるの♪』
なんて言ってきた日にゃビビる事間違い無しっ!
ましてやそれを言う方もドキドキもんでしょう。(笑)
と言うわけで、IF ――― もしも葵が同人作家だったら
でお送りしてみました♪
ぬをを!?どっからともなくロケットパンチがぁっ!

ふぅ。(汗)気を取りなおして・・・っと。
芹香とマルチの出番が少ない・・・
っていうか、最初はあかり達が出てたような気がしたのだが、
気付いたら存在すらしていなかった。<核爆
で、よくよく考えるとマルチには悪い事をしてしまった。
登場回数2回(芹香も!?)台詞も数回(やっぱ芹香もじゃん)、
トドメに奴は飯が食えねぇっ!いったい何しに現れたんだっ!<核爆
さて、今回はホントに0から書いてます。途中でネタが変わる事5、6回。
・・・だってネタがホントに無かったんだもん・・・
ということで苦情やらなんやらは勘弁してください。<言い訳 m(__)M

                         ――― 久々の休日を無駄に過ごす博より
                                   ひろRINさんに愛をこめて(笑) ―――

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