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〜新しいおともだち〜


                                         writed by Hiro

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『タッタッタッタッタッタッタ…』

「はぁ、はぁ、どうしよう…」

『タッタッタッタッタッタッタ…』

「はぁ、はぁ、遅刻しちゃう…」

『タッタッタッタッタッタッタ…』

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、どうしてなのぉ〜!」


今朝のことでした…


「ん〜!もう、朝かぁ。なんか、今日はいっぱい寝た気分…」

何時だろうと思って、時計を見てみると…

「やだ、止まってる!」

電池が切れていたみたいなんです。
この前交換したばかりなのに…

「そうだ、リビングの時計!」


『ガチャ』

「う…そ…」

8時5分を指していました…


バタバタバタ…

「おか、おか、お母さ〜ん!起きてぇ〜!お父さんもぉ〜!もう、朝だよぉ!!」
「なによぉ、そりゃ朝だってくるわよ。昼がきて、夜になって、そして朝…」
「寝ぼけた事言ってないで、時計をよく見てよぉ。8時過ぎてるんだよー!」
「え?あら、もうこんな時間!なんで目覚まし時計が鳴らなかったのかしら?
 あ、それより…お父さ〜ん。起きなさ〜い!遅刻しちゃうわよ〜!」
「ん?母さん、今日はもう勘弁してくれよ。俺、疲れて…」
「な、なに馬鹿なこと言ってるの!葵の前で…早く起きないと、遅刻しちゃう」
「なに?あ〜〜!8時過ぎてる…い、いかん!支度しなければ」
「わ、わたしはご飯もお弁当もいらないからね!時間が…」
「とにかく早く行きなさい」
「はーい!」


「まいったなぁ。時計が止まるなんて計算外だよぉ。
 あーん、髪はいいや!えーと、制服…」



「行ってきま〜す!」
「気を付けてねぇー」


「えーん、本当に遅刻しちゃうよぉ」

『…コ〜ん カ〜ンコ〜ン』

「あー、予鈴が鳴ってる…もうだめだ…」

『タッタッタッタッタッタッタ…』

「ふぅ〜、ふぅ〜…校門が閉まっちゃってる…仕方ないな。よいしょ…」

『ガラガラガラ』

「なんでこんなに重いのよぉ」



「ホームルーム、始まっちゃてるなぁ。後ろのドアから……
 そぉーと入ればわからないよね」

『カラカラカラ…』

「松原!」
「!」
「遅刻か?」
「すいません…」
「ちょっとこっちに来い!」
「…はーい…」

先生に、いっぱいお説教されちゃいました…


「というわけで、朝から大変だったんですよぉ」

お昼休み。今日は仕方なくパンです。

「ふーん。ご苦労様な話だな、葵ちゃん」
「そうなんですよぉ。
 朝から大騒ぎになっちゃうし、先生には怒られるしで、もう散々です…」
「何と言ってあげればいいか…」
「でも先輩、偶然って重なるものですね」
「そうだよなぁ。不思議なこともあるもんだ」
「まさか時計が止まるなんて…」
「まぁ、過ぎたことだよ。忘れな」
「…はい。そうします」
「じゃ、そろそろ5時間目が始まっちゃうから…行くか」
「はーい」


「…で、あるから…」

朝から全力疾走したから疲れたな…

「…ここに代入して…」

今日は練習休もうかな…

「…ばら!」

え?

「松原!」

先生に呼ばれてる…?

「まつばらぁ!」
「は、はい!」
「なに、ボケーっとしてるんだ?ちょっと、前に来て解いてみろ」
「あ、あの、なにを?」
「…授業をちゃんと聞いてたか?」
「……すいません…」
「まあいい。放課後、職員室に来るように」

はぁ〜、ついてないな…





「ぐすん、なんて日なの?」

5時間目の休み時間。
廊下で、ぼんやりと窓の外を眺めていました。

「あ、あのー、松原さん?」

誰?

「あ、姫川さん…」

姫川さんが、声をかけてきました。
何の用だろ?

「今日…いろいろと…大変じゃなかった?」

なんで姫川さんがそんなこと知ってるんだろ?
クラスが違うのに…

「え?いろいろって?」
「ううん。なんでもないの」

へんなこというなぁ……あ!
行っちゃった…
いったい何?



とうとう、放課後になっちゃいました。
先生に怒られるだろうな…やっぱり。
やだなぁ。

「失礼しまーす」
「お、松原、来たか」
「……」
「授業中に、ボケーとしているなんて感心せんな」
「…すいません…」
「夕べ、夜更かしでもしたのか?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ…」
「とにかく、今後は気を付けるように。わかったか?」
「…はい、わかりました…」

朝から、謝ってばっかり…

「よし、行っていいぞ」
「……失礼します」


「今日は何してもだめだなぁ。練習、休も」

そうだ、先輩に言っておかなきゃ。

「先輩、まだいるかな?」



「すみません、藤田先輩はまだいらっしゃいますか?」
「あ、松原さん。こんにちは」
「こんにちはぁ。あの…藤田先輩は…」
「浩之ちゃん?いるよ。ちょっと待ってね。浩之ちゃ〜ん」
「ん〜?なんだー?」
「松原さんが来てるよぉ」
「葵ちゃんが?今行く」


「おっす」
「お呼び立てしてすいません」
「どうしたの?」
「あの〜…今日、練習休もうかと思って…」
「へ?」
「なんか、悪い予感がするんです」
「……」
「怪我しちゃいそうで…」
「そーだよなぁ、今日は全然ツいてないもんなぁ」
「なに?ど〜したの」

神岸先輩が、興味津々という顔でのぞき込んできます。

「ん〜、葵ちゃんって、今日は災難続きなんだよ」
「そーなんですよぉ、朝からいろいろとあって」

先輩が、かいつまんで説明してくれました。

「…と、まぁ、こんな感じで…」
「ふーん、大変だったんだぁ、松原さん」
「ですから、今日は…」
「……よっし、わかった。オレも休むよ」
「え?」
「で、気晴らしにどっか行こう」
「いいんですか?」
「かまわないって。たまには休養も必要だよ」

…なんとなく、先輩ったら嬉しそう…

「あかりは?」
「え?う、うん…私、まだ用があるから…」

神岸先輩、気を使ってくれてるのかなぁ?

「そっか……じゃ、葵ちゃん、行くか?」
「はい」

「あかり、おさき〜」
「お先に失礼しま〜す」
「気をつけるんだよぉ〜」


「どこに行きます?」
「葵ちゃん、決まっているじゃないか。こんな時はカラオケが一番さ!」
「えぇ〜?歌ですかぁ?」
「そうそう、思いっきり唄えば気分も晴れるって」
「わたし、そんなには上手じゃ…」
「だいじょぶだいじょぶ。オレしかいないから…」

先輩に聞かれるのが一番恥ずかしいですよぉ!

「でも…」
「いいからいいから」
「は〜い…」

カラオケ屋さんに向かう途中、さっきの姫川さんの言葉を思い出しました。

「そうそう、先輩」
「ん?」
「あの〜、わたしと同学年で姫川琴音さんってご存じですか?」
「琴音ちゃ…いや、姫川さん?」

あれ?今、先輩の顔が一瞬曇ったような…

「で、その姫川さんがどうしたの?」
「はい…少し気になることを言われたもので…」
「気になること?」
「あの…『今日はいろいろと大変だったんじゃないの?』って」
「……」
「なぜ、姫川さんそんなことを…」
「……」
「先輩、どう思います?」
「……」
「ねえ、先輩」
「あ?な、なに?」
「どうしたんですかぁ?ぼーっとして」
「へ?ご、ごめん。ちょっと考え事してたもんだから…」

なんかヘンだなぁ。

「不思議なんですよぉ。今日は姫川さんと全然顔を合わせてないのに…」
「誰か他の人に聞いたんじゃないの?」
「そうでしょうか……?」
「そうだよ。絶対そうに決まってる。うん。そうそう」

どうしたのかなぁ?先輩ったら、何かあわててるみたい…

「ま、いいじゃないか。早く行こうぜ。部屋が埋まっちゃう」




「さってと…何唄う?」
「い、いえ、先輩からどうぞ」
「そうだよな、カラオケって、誰かが唄い出さないと始まんないんだよな。
 みんな遠慮しちゃってさ…つっても、二人だけか…じゃ、オレから」
「どれにします?」
「へへへ、内緒!えーと、番号は…」

『ピッピッピ』

「イントロが長いんだよな…っと。始まった…『すれーちがうーまいーにちが…』」

あれ!先輩って意外とうまいんだなぁ。あ、そんなこと考えちゃ失礼か。

「『うめぇーてーしまおぉー』」

『パチパチパチ…』

「先輩、上手です」
「へ、へ、へ。そうかぁ?」
「はい、とても素晴らしいです」
「んな、大袈裟な…次、葵ちゃんね」
「はい」

『ピッピッピ』

「あまり、期待しないで下さいね」
「お手並み拝見だよ」
「そんな…『ぶるぅー、とりがそーらぁーたーかーくぅ…』」

うぅ〜、緊張しちゃうよぉ!

「『よかぁーんー』」

『パチパチパチ』

「うまいじゃん」
「お粗末様でした」
「充分だぜ!」

先輩って、そのフレーズが好きだなぁ

「いや〜、どんな歌を聞かされるかと思ってどきどきしたよ」
「ひどいですよぉ〜」

『ぽくぽくぽく』

「ぐふ!」
「あ…ごめんなさい…」



「あ〜、唄った唄った」
「少し、喉が痛くなっちゃいました」
「オレも」
「ねぇ、先輩?」
「ん?」
「わたしたちが唄った歌って」
「うん?」
「べたべたの楽屋オチじゃないですか?」
「なんだそれ?」
「あ、ごめんなさい。なんでもないです」
「よくわかんないけど…よぉ〜し!ヤック行くぞ」
「ハンバーガー屋さんですか?」
「抜けないなぁ」
「あはは、そうですね。ファーストフードでしたね」
「そうそう…なんでも好きな物おごるぜ」
「悪いですよぉ」
「いいって。デートなの。今は」
「なんか申し訳ないような気もするけど…じゃ、ごちそうになっちゃいますね」
「よしよし」


そうだ…

「先輩」
「なんだい?」
「さっきの事ですけど…」
「さっきの事って?」
「姫川さんの事です」
「え?」
「姫川さんの名前を出したとき、なんか様子がおかしかったから…」
「そ、そんなこと…」
「先輩、何か隠していません?」

『じぃ〜〜』

上目遣いで睨んじゃいます。

「そんな目で見るなよぉ」
「隠し事はやめましょうね」
「なんも隠してないって」
「ホントですかぁ?」

『じぃ〜〜』

「う、その目に弱いんだよな」

えへへ、いいこと発見しちゃった。
今度使お。

「話してくれます?」
「わかったよ。話す」
「何かあったんですか?」
「うん、実はな」
「実は?」
「葵ちゃんは見たんだろ?あの事件を」
「事件って…あ、説明会の時…のことですか?」
「そう、照明器具が落ちてきたってヤツ」

あの時、かなり大騒ぎになったっけ…

「それが、姫川さ…あ、琴音ちゃんでいいよな?」
「…はい」
「その、琴音ちゃんが予言したって話は知ってた?」
「えぇ、聞いたことがあります」
「オレも体験してるんだよ。その予言ってヤツを」
「えぇ〜!そうなんですかぁ!」
「あ、葵ちゃん、声が大きい…」
「す、すいません」
「ある日、昼休みに雅史とパンを買いに行く途中で彼女に会ったんだ」
「……」
「で、階段の踊り場の所で『そこ、危ないですよ』って言われたんだよ」
「……」
「まぁオレも、『廊下は静かに歩きましょう』ぐらいにしか思わなかったんだけど、
その後な、ちょっとしたアクシデントがあったんだ…」
「アクシデントって…?」
「階段から落ちた」
「え?」
「不思議に思ったよ。つまずくような感じじゃなかったから。
 何かに足を掴まれたような…そんな感覚だったんだよな」
「それって…」
「その時は時間もなかったし…って、ほら、オレってさ、かつサンドが葵ちゃんの
 次に好きだからさ…とにかく、購買部に走ったわけなんだ」
「わたしって、その程度のレベルなんですかぁ?」
「特に深い意味はないよ」

なんか、答えになってないなぁ。

「で、その時はかつサンド手に入れられたっけかなぁ?忘れたけど…
 ま、いいや。後で気になってな、琴音ちゃんを呼び出して色々と訊いてみた…っと、
 もうヤックだ。続きはそこで」


「いらっしゃいませぇ〜、ご注文は何になさいますかぁ?」
「ん〜っと、ホタテのバター焼き定食」
「は?お客様、当店でその様な物は…」

さすがはヤックの店員さんだなぁ。マニュアル通りに笑顔を崩さない…
ハ!そんなこと思ってる場合じゃ無いな。

「先輩!」
「ははは、冗談だよ。今、バリューはガーリックなんたら?」
「はい!そうですがぁ」
「じゃ、それ」
「お飲物は何になさいますかぁ?この、メニューに書いてある物からお選び…」
「ビール!大ナマでおねがい」
「お、お客様…」

うぅ、店員さんのこめかみが…
たぶん『いやな客が来たなぁ』って思ってるんだろうな…

「先輩!未成年がお酒なんか飲んじゃいけないんですよぉ。それより…」
「わかってるって。コーラのLね」
「……はい!かしこまりましたぁ!そちらのお客様は…」
「あ、あの…同じ物で…」

恥ずかしいよぉ。

「はい!消費税合わせまして1155円になります」


「せんぱ〜い、あんなコテコテの親父ギャグはやめて下さい。
 とぉっても、恥ずかしかったんですからぁ」
「いや〜、悪い悪い。どこまでマニュアルに基づいて対応するか考察を…」
「とにかく!もう、しないでくださいね。お願いしますよ!」
「はーい」
「で、さっきの続きだ。どこまで話したっけ?」
「たしか…そう、姫川さんから色々とお話を訊きだした…ところまでです」
「おお、そうだったな。そんで、訊きだしたところ…」
「はい」
「かなり端折るけど…
 なんか、昔からそんな出来事があったみたいなんだな。
 それも不幸なことばかり予知をしてしまうって。
 で、周りの人間がだれも近づかなくなった。
 と、まぁこんな話だったんだ」
「ふーん」
「これじゃ、いくらなんでも可哀想だろ?それでオレが一肌脱いだ」
「先輩」
「ん?」
「女の子には優しいんですね…」

イヤミっぽい口調になっちゃいました。
わたしって嫉妬深いのかなぁ。

「あ、やだな、そんな言い方。オレは誰にでも優しくなろうと日々努力してるぞ」
「ホントですかぁ?」
「ホントホント。うそつかない」

な〜んか信じられないな。

「それで実際にはどんな事を?」
「うん、色々調べてみたよ。そしたら、どうやら予知じゃなくて、念力じゃないかと」
「はあ…」
「で、協力してやって、今に至る」
「それだけですか?」
「なんで?」
「ホントにそれだけですか?他に何か隠してません?」

『じぃ〜〜』

「う!いや、まだ続きが…」
「話して下さいね〜」
「その笑顔がなにげに恐いなぁ。はい、わかりました。続きね」
「お願いします」
「その後なんだけど…オレの行為にえらく感謝されちゃってな…」
「……」
「実は…」
「実は?」
「琴音ちゃんに…」
「姫川さんに…」
「呼び出されて…」
「はい…」
「あ〜、いちいち合いの手入れるなよ。話しづらいよ」
「あ、ごめんなさい」
「告白されちまったんだ」

へ?こく…は…く?

「え?えぇぇぇぇぇぇぇ!告白されちゃったんですかぁ?」
「ああ…」
「あの、いちおーお伺いしますけど、『実はわたし、男の子です』なんて…」
「葵ちゃん…」
「なんですか?」

『ぱしぃ!』

「い、痛いです。何するんですかぁ?」
「あのな、その天然ボケをいい加減に直してくれないかな。
 第一な、そーゆーの、告白っていうか?普通」
「すいません…話が思ってもいなかったほうに行っちゃたもので…」
「まぁいいよ。額面通りの告白さ。『好きです』ってヤツ」

は〜、そんなことが…

「それで、なんと…」
「言うまでもないと思うけどなぁ…」
「ぜひ聞きたいです」
「言わせるの?」
「はい…」
「なあ」
「何でしょうか?」
「性格変わったな」
「はい!先輩とお付き合いしていますから」
「やれやれ…しょうがないなぁ。こう言ってあげたよ。
 『オレには好きな人がいるよ。名前は…』」
「……」
 『佐藤まさ…』」

『ボクッ!!』

「ヒィ〜〜ッ!なにするんだよぉ!裏拳で殴るなんて…」
「そういう冗談はキライです…」
「…思いっきり入った…葵ちゃん、ホント性格が変わったな」
「続けてください…」
「うう、痛いな…わかったよ。葵ちゃんと付き合ってるってはっきり言ったよ」
「それで、姫川さんは…」
「少し涙ぐんでた」

そりゃそうだろうなぁ。
わたしだって泣いちゃう…

「でも、それっきりだぜ。その後は何もない」

『じぃ〜〜』

「ホントだってば。ホントに何もないよ」
「わかりました。信じます」
「おう、信じてくれてうれしいぜ。まったく…」
「知らなかったなぁ。そんな事があったなんて…本当に先輩って優しいんですね」
「イヤミ言うなよ」
「そのように聞こえます?」
「思いっきりな」
「まぁ、その後は無関係だとおっしゃって頂いてますので、何も言いません」
「こりゃどうも…ね」
「ただし…」
「ただし?」
「その後、何か関係があったとしたら…」
「……」
「それなりの覚悟をしておいてくださいね」
「あ、葵ちゃん…笑顔でそんな…」
「大丈夫ですよ。わたし、先輩のこと信じてますから」
「…こわいなぁ」



「じゃ、葵ちゃん、お疲れ」
「すいません。わざわざ送って頂いちゃって…」
「いいって。それより、少しは気分が晴れたかな?」
「はい!おかげさまで。今日はお世話になりました」
「じゃ、オレは帰るよ…
 あ、っと…今日みたいな事、もう無くなると思うから…」
「?」
「また明日な」
「は、はい。失礼します」

なんだろ?今の言葉…
気になるなぁ。


「ただいまぁ」
「あ、おかえり。大丈夫だった?今日…」
「う…ん。遅刻して先生に怒られちゃった」
「お父さんも遅刻だったろうね」
「そうね…」
「さってと…葵。あなたも自分のことを親孝行だと思うなら、夕御飯のお手伝い
 してくれるかなぁ?今日は、少し手が込んでいるんだ」
「お母さん、そんな遠回しな言い方しなくても手伝うよぉ。待ってて、着替えてくる」


「ただいま」
「あ、お父さん。おかえりなさい」
「おかえりなさ〜い」
「遅刻しなかった?」
「あの時間じゃな…2時間遅刻して、部長に大目玉さ。で、葵は?」
「聞かないで。思い出したくもないの…」
「お互いに、お疲れさんだな」
「ホントよ」
「さぁ、もうすぐご飯だから… 葵、お手伝いの続き、お願いね」
「はぁ〜い」



お夕食が終わって、リビングでくつろいでいた時でした。

『プルルルルルルル…プルルルルルルル…』

「あ、電話。わたしが出るね」

『ガチャ』

「もしもし、松原ですけど」
「……」
「もしもし?」
「……松原さ…ん?」
「あの、どなた……姫川さん?」
「今日はゴメンネ。みんな私が悪いの…」
「え?何のこと?言ってる事がわかんない」
「プツ!ツーツーツー…」
「……なんだろ?」

姫川さん…自分が悪いって何のことだろう?




「おはようございま〜す」
「あ、松原さん。おはよー」
「おっす」
「今日は大丈夫だったんだぁ」
「朝、電話してやろうと思ったよ」
「そんな…あ、それより、後で少しだけ時間をいただけます?」
「オレ?」
「はい」
「いいけど…」
「じゃ、放課後にうかがいます」



「先輩」
「お、きたきた。で、用って何?」
「ここでは…」
「じゃ、屋上でも行くか?」
「はい…」


「ところで、何なの?」
「実は夕べ、姫川さんから電話がありました」
「……」
「そして、何と言った思います?」
「さぁ…」
「昨日のことは、全て自分が悪いって…」
「やっぱりな…」
「え?やっぱりって…」
「なんとなくわかってたんだ。オレは」
「ごめんなさい…先輩のおっしゃっていることがよく…」
「今回の事は、たぶん琴音ちゃんがからんでいると思ってた」
「……」
「だって、普通じゃ考えられないだろ?電池を替えたばかりなのに止まった時計…」
「……」
「鳴るべき時に鳴らなかった目覚まし…」
「……」
「オレね、昨日の夜に琴音ちゃんの家に電話をした」

話が飛躍しすぎて、ついてゆけない…

「…何のために…ですか?」
「待ってて、順番に話すから」
「わかりました…続けてください」
「昨日、オレが琴音ちゃんから告白されたって話はしたよな?」
「はい」
「で、オレは断った」
「佐藤先輩とお付き合いして…」

『ぺし!』

「きゃ!」
「ちゃちゃは入れないの」
「ごめんなさい…」
「結果的に、琴音ちゃんは失恋したわけだ」
「そうなりますね」
「葵ちゃんだったら、どうする?」
「どうするって…」
「自分と、琴音ちゃんの立場を逆にして考えてごらん」
「あ…」
「そう、『あの子さえいなければ…』って思っても不思議じゃ無いだろ?」
「じゃ…」
「逆恨みだよ。琴音ちゃんの」
「そんな…」
「まぁ、別に葵ちゃんを怪我させようとかじゃないと思うけどな」
「……」
「ただ、少しだけ困らせてやろうとした程度だと思う」

そんな…そんなのって…

「夕べ、琴音ちゃんに電話した理由はこれさ。
 問いつめたら話したよ。ポツリ、ポツリと、少しずつ…」

姫川さんが、そんなこと…

「琴音ちゃん、言ってたよ『もうこの力を使うことは無いと思ってたのに…』って」
「あの…わたし、どうすれば…」
「言ったろ、昨日の別れ際に。『こんな事、もう無くなると思うから』って」
「先輩…じゃ…」
「気づいたのは途中から。確信が持てなかっただけだよ。琴音ちゃんが原因ってのが」
「わたし、先輩にお礼を言わなければ…」
「いや、お礼を言われる前に、オレが葵ちゃんに謝らなきゃな」
「なぜ…ですか」
「当然、予想をしなきゃならなかった事かも…しれなかったから」
「む、無理です、そんなこと。たとえ予想できたとしても、どうやって防げば…」
「それもそうだけどな」

なぜこんな事になったんだろう…誰も悪くないのに…

「とにかく、もう安心していいよ。琴音ちゃんも反省しているし」
「……」
「もっとも、またこんなの事があったら、オレが葵ちゃんを守る。全力をあげて…な」

先輩ったら…片目をつぶって、おどけた仕草なんてして……
でも、なんかかっこいい…

『ぽろ…』

「あ…れ?なん…で…」
「葵ちゃん、どうした?」
「ぐす。わか…らない…んです。な…んで涙が出…てくる…のか…
 な、なん…でか…な?ぐす。急…に……」

『ぐい!』

「あ…」

…せんぱいが、優しく抱きしめてくれました。

「もう…大丈夫だから…オレがついてるから…心配…しなくていい……」
「ぐすん…せ…んぱ…い…」
「ん?」
「もう…しばら…く…このまま…で…」
「いいぜ、気の済むまで……」
「ご…めんな…さい」

下校時刻がくるまで、わたし、先輩の胸の中で…





「本当に、ありがとうございました」
「気にすんなって。葵ちゃんを守れるのは、オレしかいないと思ってる」
「……」
「それとな…」
「…はい」
「このポジションを明け渡す気はさらさらないよ。相手が誰であろうと…」
「……せんぱい…」
「惚れ直した?」
「くす!先輩ったら…」

今日も練習はお休みしちゃいました。
本当は、こんな事じゃいけないんですけど…




「じゃ、先輩、このへんで」
「え?家まで送っていくぜ」
「これ以上先輩に、ご迷惑をおかけするわけには…」
「別に迷惑なんて思ってないけどな。送っていきたいんだよ。オレは」
「いいんですか?」
「しつこいぞ。葵ちゃん」
「は〜い。じゃ、お願いしちゃおうかな」
「いーこ、いーこ」


「先輩」
「ん?」
「もう大丈夫ですよね?安心していいんですよね?」
「だから、オレがついてるって。信じてくれないの?」
「い、いえ、そういう訳じゃ… ただ…」
「ただ?」
「…先輩の、その…魔法の言葉を…
 『オレがついてる』って言葉を、もう一度だけ聞きたかったんです。
 先輩の言葉を聞くと、わたし、何でもできちゃうような気がして…
 先輩が、わたしに不思議な力を与えてくれるんです。
 そして、わたしが辛いときや悲しいとき、すべて解決してくれるような気が…」
「それじゃ、スーパーマンだよ」
「わたしにとって、先輩はスーパーマンです…」
「葵ちゃん…」
「あ〜あ、おうちに着いちゃいましたね。残念ですけど…」
「あ、ああ。じゃ、今晩は何も考えないでぐっすり寝ること。
 明日になれば、何もかもすっかり元通りになるよ。な!」
「はい!ありがとうございます」
「また明日」
「失礼します」


数日後のことです。

「せんぱ〜い、お弁当持ってきましたよー!」
「え?あ、さん…きゅ。でもなんでわかったの?今日は雅史が弁当持参だって…
 それで、オレが学食に行こうとしたって…なんで?」
「えへへ…な・い・しょ、です」
「勘がいいんだなぁ」
「うふふ」
「葵ちゃん、なんかヘンだぞ。笑ってるばかりで…
 ま、いいや。ありがたくいただくよ。屋上でいいか?」
「はい!」

先輩、違うんですよ。昨日の夜、姫川さんにお電話してお願いごとをしたんです。
『明日は、佐藤先輩がお弁当を持ってきますように』って…無理を承知で…
そうしたら姫川さん、快く『いいわよ。がんばってみる』って言ってくれました。
もしかして、お詫びのつもりだったかも…
でも、こんな事、お願いして良かったのかなぁ?
あ、そういえば…もう一つだけ、先輩にお知らせしていないことがありました。
あれからわたし、姫川さんに思い切ってお話をしてみました。
いっぱい、いっぱいお話しして、いっぱい、いろんなことを教えてもらいました。
子供の頃の話、動物が大好きって話、etc.etc...
とにかく、彼女とはいいお友達になれそうです。
だって、先輩のことを好きになる人って悪い人はいませんから…
あ、それじゃわたしも含まれちゃいますね。えへへ…

「せんぱ〜い!早くしましょうよぉ。場所、無くなっちゃいますよー」
「ちょっと待ってくれよー、先に行っちゃうなんて、ずるいぞー」
「あははは…遅いですよぉー」


今日もいい天気です。

また一人、お友達ができました。


                              おしまい



 あとがき

みなさん、こんにちは。Hiroでございます。
7作目です。
ごめんなさい!先に謝ります。
今回は、琴音ちゃんが悪者になってしまいました。
(それも、せりふがたったの数行…いいんだろうか?こんなので)
もし、琴音ちゃん萌えの方がいらっしゃいましたら、お詫びいたします。
お願いですから、爆弾メールなんて寄越したりしないでくださいね。
だって、こんなネタしか思いつかなかったもんで…
ネタといえば…そろそろ切れてきました。(よぉ〜し、うまくつながったぁ!)
キャストが決まってるのに、筋書きが思いつかないなんて…
残りは…理緒ちゃん、いいんちょ、レミィ、マルチ、志保…
あと5人…大変だ…
できるかな?正直言って自信ないです。
そのうち、いいんちょとレミィは取り上げないかも…
だって、いいんちょの関西弁と、レミィの怪しげな日本語でせりふを回すのはとても…
この二人が出てこなくても怒らないでくださいね。

で、内容です。
葵ちゃん、おっかないです。^_^;(〜お父さんをよろしく〜からですが…)
暴力をふるうようになってしまいました。
今は裏拳で済んでますが、そのうち足が出てくるような…
浩之君、気をつけるように。
あと、最後の所ですが…というか葵ちゃんのモノローグですね。
尻切れトンボ?
言っていることが不自然?
読めば読むほど、頭の中がぐちゃぐちゃになってきました。
筋が通ってるような通ってないような…
みなさんの判断にお任せします。
『あ〜た、ちょっとヘンよ。これ』みたいなものでも結構です。
遠慮なくお知らせください。反省会の議題にします。(出席者は私だけ…)


さて、次の予定ですが…
理緒ちゃん or 志保、どちらかにしようかと思っています。
でも、もしかしたら気分転換代わりに、コッパっていうやつですか?
あま〜いヤツになっちゃったりして…(どなたか、コッパの意味、教えて下さい)
邪魔者はだぁれも出てこない二人だけのお話です。
読んでいただいている方が、恥ずかしくなるぐらいのラブラブモードのを。
まるで、大昔に某少年誌に連載されていた、サッカーを題材にしたマンガで、
『キッ○オフ』みたいなヤツ…(たぶん、30代前後の人しか知らないだろうなぁ)
私ってば、そーゆーの得意なんですぅ。
どんなものが出来上がるかは、お楽しみです。(私も楽しみです…って、ぉぃ!)

いけないいけない、また長くなりそうです。
というわけで、そろそろおしまいにしましょうか。

お付き合い、ありがとうございました。

                        1999年5月 自宅にて Hiro


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