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          たとえばこんな一日


                                      
                                  火鳥泉行



 朝、起床。
 カーテンを開けると、すがすがしいまでの太陽の光が差し込んでくる。
「晴れてる・・・ね」
 葵は洋服ダンスを開き、鼻歌を交えながら今日着る服を選び始めた。
「んーと・・・」
 かなり迷っているのにはワケがある。

 今日は――――久々のデートだから




「いってきまーす!」
 元気よく飛び出したのもつかの間、葵はふと足を止めた。
 門の隅に、なにやらスーパーの袋が。
「・・・なんだろこれ?」
 葵はひょいとそれを持ち上げ、中を覗いてみる。
 中に入っていたのは・・・
「・・・・花?」
 小さな鉢植えが2つ。
 黒いビニールの鉢から察すると、買ってきたものだろう。
 よく見ると、それに添えられた一枚の紙切れが。
 『Dear My Lover I love you forever....』

  ボボッ

 葵の顔が一気に赤面する。
「これって・・・もしかして先輩が・・・?」
 葵はしばらくその紙切れを眺めていたが、そのうち口元が引きつってきた。
「なんでこんなクサいセリフを・・・・」
 ククッ、と笑いがこみ上げる。
「先輩ったら・・・」
 吹き出しそうになりつつ、笑ったらいけないと思い、必死に笑いをこらえる。
「〜〜〜〜・・・ふう」
 袋を門の内側に置き直し、葵は門を開けた。
「さてと、待ち合わせ場所に行かなきゃ。あとでこのことを言ってみましょ」
 拍車がかかった胸の高まりを抑えながら、彼女は駅へと向かった。





「ちょっと遅くなっちゃったかなぁ・・・」
 待ち合わせ場所は、それとしてよく使われる駅前の広場。
 そこにはすでに浩之の姿があった。
「すみません先輩。待たせてしまったみたいで」
「いや、俺もさっき来たところだよ」
「そうですか。ところで・・・せ・ん・ぱ・い?」
 そう言って葵はにやけた表情で浩之の顔をのぞき込む。
「・・・・?」
「(ニコニコ)・・・」
「な・・・なに?」
「(ニコニコ)・・・」
「えー・・と・・・・そうだ葵ちゃん、まずはどこに行こうか」

――――あー!先輩ったら、知らんぷりするつもりなんだわ

「そぉですね・・・」

――――こっちから言いだすのを待ってるのなら、私も先輩から言ってくるまで待っ てやるんだから!

「先輩にお任せします!」
「そっか。んなら・・・」

 葵はちょっぴりいじわるな考えを頭に置きつつ、二人でデートを楽しんでいった―
―――







 そして、昼。
 二人はお馴染みのヤックに足を運ばせていた。
「そーだ葵ちゃん」
「ハイッ、なんですかぁ?(ニコニコ)」
「あのさあ・・・今日のことなんだけどさぁ・・・」
「ハイッ(ニコニコ)」
「なんでそんなにニコニコしてるの?」

   ピクッ

――――まーだ言わないつもりなんだぁ

「それは先輩とデートなんですから、当たり前です」
「・・・そっか」
「それに・・・ネッ、先輩?」
「・・・・?」
「もー先輩ったらとぼけちゃって!」
「な、なにが・・・?」

――――もー!しかたないなぁ・・・

「先輩っ!あの花、とってもキレイでしたよ!」
「?」
「まだとぼけるんですかぁ!今日の朝、うちの門に置いてあった花のことですよ!」
「・・・・?」
「メッセージにあんなことまで書いちゃって!はずかしかったんですよー」
 葵の話を聞きながらしばらく難しい顔をしていた浩之がパッと手を叩いた。
「・・・・・そっか、朝からなんか変だと思ったら、葵ちゃん、ちょっと勘違いして るよ」
「・・・え?」
 意表を突かれたように葵が声をもらす。
「なんかあったみたいだけど、それ、俺じゃないよ」

「ええっ!!?」

 大声を上げ、思わずテーブルに手をついて立ち上がる葵。
 周りにいた人たちが一斉に注目する。
「葵ちゃん・・・・」
「先輩じゃない・・・って・・・じゃあ誰なんですか・・・?」
「葵ちゃん、とりあえず座ったら?」
「・・・・あ、ハイ!」
 浩之の声で我に返った葵は、辺りを見回して今自分がいる状況を確認すると、自分 がしてしまった行動に赤面して勢いよくいすに座った。
「・・・・・(〜〜〜〜〜)」
 今まで思っていたことが間違っていたことを教えられ、さらに無防備に大声で叫ん でしまったことのダブルプッキング状態の葵は下を向けた顔をあげることができなか った。
「葵ちゃん・・・・」
「・・・(赤面)」
「葵ちゃん・・・誰にでもミスはあるって。そんなに落ち込まないで」
「〜〜〜(赤面)」
「ところでさ、朝に門に置いてあった花、っつーの、なんのこと?」
「〜〜〜〜〜〜(赤面)」
「葵ちゃん!!」
「あ、ハイッ!!」
 浩之の一喝でやっと顔をあげた葵。
「そっか、朝からなんか変な態度ばっかりだと思ったら、そういうワケだったんだ」
「・・・スミマセン」
「じゃあ葵ちゃんにはバツとして、今日の朝になにがあったのかを詳しく説明しても らおっかな」
「・・・ハイ」






「なるほどね。だからそれを俺がやったと思ったわけだ」
「そうなんです」
 説明が終わり、浩之は腕組みをしながらウンウンをうなずく。
「誰か心当たりないの?」
「先輩じゃないとしたら、誰も・・・」
「フム・・・・」
 やがて、浩之は腕を解き、両手を肩幅にテーブルに付け、真剣な目でこっちを見つ めてきた。
「間違いないな・・・」
「な、なにがですか」
 葵はグッと息を飲む。
「葵ちゃんは誰かに惚れられてる!!」
「・・・・・えぇっ!?」
 それが最終的に出た結論だった。
「そんなはずありません!第一私みたいな格闘技しか能がない女の子なんか・・・」
「葵ちゃんはかわいいっ!!」

  っっっちゅどぉぉぉぉぉーーん!!!

 不意打ち攻撃を食らって、葵の顔は世界中の赤を集めたように赤面した。

「間違いないっ!きっとそいつは神社で練習してる葵ちゃんの姿を毎日のように木の 陰からひっそりと見つめているんだ!!『ああ・・・葵ちゃんかわいすぎる・・・こ の気持ちどうしたら伝えられるんだろう・・・』とか考えた挙げ句に女の子なら一度 は憧れるひそやかなプレゼントをこういう形で・・・」
「かってにへんにリアルなせっていしないでください・・・・・・(赤面・極)」
 想像が暴走中の浩之にそんな声は届かない。
「って、普通は男女が逆だよな」
「そーゆー問題じゃないです・・・」
「ま、冗談はこのくらいにして・・・」
 コホン、と浩之は咳払いを一つした。
「俺以外に葵ちゃんのことが好きなヤツがいるってワケだ」
「なんか・・・喜ぶべきなのか悲しむべきなのか分からなくなってきました・・・」
「それは葵ちゃん次第だけどな・・・・」
「でも私は先輩だけが好きです!」

 ・・・・・

「っよしっ!これからは俺が葵ちゃんをそいつから徹底的に守ってやるからな!」
「ええっ!そんなこと・・・」
「そいつがかわいそうだって言うのか?」
「・・・・はい」
 うつむき加減の葵を見て、浩之は大きく一つため息をついた。
「でもな葵ちゃん。もしそいつが葵ちゃんと俺がつき合ってることを知らなかったら 、ここで俺が出ていってあきらめさせるしかないんだ」
「でも・・・」
「そうじゃないと、今のままの方が相手がかわいそうだと思うぜ?」
「・・・・そうですね」
「大丈夫、暴力は使わないよ。もし相手が殴りかかってきても、俺はなにもしないか ら」
「先輩・・・」
 葵は浩之の優しい眼差しをそっと見つめる。
「ありがとうございます・・・先輩」








「あ、ここまででいいです」
「そう?」
 帰り道、いつものように浩之は葵を送る。
「先輩、今日は楽しかったです」
「俺もな。またいつでも行こうぜ!」
「ハイッ!」
 にこやかに返事をする葵。
「葵ちゃん、今度そいつにあったら俺に連絡してくれよな」
「わかりました。ありがとうございます」
「じゃな」
「さようなら先輩」


――――フウ・・・今日はなんか疲れちゃったな・・・・

  ガチャ

「たっだいまー!」
「あ、お帰り、葵」
「ん、お帰り」
 帰宅、なぜか両親が二人そろってお出迎え。
「どーしたの二人そろって」
「うっふっふ・・・・ねえちょっと聞いて葵!!」
「?」
「おとーさんたらね、今日の私の誕生日にすごいことしてくれたのよ!」

――――そっか、今日はお母さんの誕生日・・・・

「ん、あー、ゴホン」
 お父さん、かなり照れてます。
「なにかもらったの?」
「それがね・・・なんとラブレター付きの鉢植えなのよ!」
「ええー!!?」
「そのラブレターに書いてあったことがまた嬉しくって!!」
「おかーさん!それってもしかして今日の朝に門のところにおいてあったやつ!?」
「? ああ、そうね葵は今朝早く出ていったから知ってたのね」

――――ええぇぇーーーー!!??

「いやー、結婚記念日にしようかと思ってたんだけど、忘れそうだったからな」
「もう!あなたったら・・・・・って、葵、どうしたの?」

「せ・・・・」



 「せんぱああぁぁぁぁぁい!!!」


 松原家は今日も平和です。













  あとがき

 誰か一人くらいは予想がついたオチだったでしょう・・・・
 こんにちは火鳥です。
 「奇跡の想い」がまだ終わっていないまま書いた作品です。なんか今はこーゆーの が書きたい気分だったので。

 実はこの作品、半分ノンフィクションなのです。言い方を代えれば、体験談です。
 これを書いたのが1999年の6月21日、モデルになった時間は1998年6月 21日、いまからちょうど1年前の出来事なんですねー。
 その日は自分の好きな人の誕生日。前の日のうちに花屋へ行き、時計のタイマーは 4時セット。
 まあ結果は・・・・この際どーでもいいでしょう(投げやり)。

 この作品を読んで、言葉通り楽しんでいただけたら嬉しいです。
 掲示板の方には顔を出すつもりなので、こういうヤツなんだと思ってつき合ってや ってください。
  それではまた逢いましょう。                   99,6 ,21 火鳥泉行でした



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