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〜素直になって…〜

                              writed by Hiro

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『バタバタバタバタ…』

「志保ちゃんニュースよぉ〜〜」

あ、長岡先輩…
放課後、帰り支度を整えて廊下に出た時です。
また『志保ちゃんニュース』の最新号かな?
見つかったら捕まりそう…
それにしても、長岡先輩のご先祖様ってかわら版屋さんだったんだろうなぁ。たぶん…

「あ〜〜!松原さんね。松原さんでしょ?」

見つかっちゃった…
でもなぁ、確かめるまでもないと思うけど…わたしの顔、知っているはずなのに…

「あ…長岡先輩、こんにちはぁ」
「ね、ね、ね、聞いてよぉ〜」
「今度は、どんなデマ…あ、いけない…ニュースを?」
「それがねぇ…どうしようかなぁ…聞きたい?」
「あ、別に教えて下さる気がないなら結構です。
 わたし、これから練習がありますから」
「ちょ、ちょっとぉ〜。待ってよ、ね。教えるからぁ」
「どんな事ですか?」
「う〜んと…実はねぇ…」
「はい…」
「ヒロがねぇ…」

え?ヒロ…藤田先輩?

「ふ、藤田先輩がどうかなさったんですか!?」
「グランドで…」
「…」
「聞きたいでしょぉ?」
「もったいぶらないで早く教えて下さい!」
「怪我を…」

怪我…先輩が?

「グランドですね!」
「あ、待ってよぉ。まだ、続きが…」

長岡先輩が、何か言ってるみたいだけど…
とにかく急がなきゃ!
先輩が…藤田先輩が…怪我…
どこを怪我なさったんだろう。
手?…足?…まさか、頭なんて…

「せんぱ〜い、大丈夫ですよね」


グランドに着いたけど…特に騒ぎになっている様子は無いなぁ。
保健室?


『ガラ!』

「失礼しまーす!」

あれ?誰もいない…
教室かな?


「すいません…」
「あ、松原さん。どうしたの?」
「神岸先輩…あの…藤田先輩は…」
「浩之ちゃん?もう帰ったよ。15分ぐらい前かなぁ」
「え?本当ですか?お怪我なさったって聞いたものですから…」
「えぇぇぇぇぇ!怪我ぁ?誰がなの?」
「ですから、藤田先輩…」
「いつ!?」
「たぶん…今さっきかと…」
「どこで!?」
「グランドと聞きましたが…」
「誰に聞いたの!?」

…なんか、やな予感がしてきた…

「……なが…おか…先輩…」
「志保ぉ?」
「…はい」
「……」
「神岸…先輩?」

神岸先輩、拳を振るわせて、いったいどうしちゃったんだろ?
なんか、こめかみがピクピクしてるし…

「神岸先輩」
「…なに?」

うわぁ、声がめちゃめちゃ低い…怒ってる?
わたし、怒らせるような事したかなぁ。

「あの…」
「…あ、ひ、浩之ちゃんね。大丈夫よ。先に神社へ行っていると思う…」
「え?じゃあ…」
「ほら、浩之ちゃん待ってるよ。早くしないと……それより…志保…」
「長岡先輩がどうなさったんですか?」
「ううん、何でもないの。早く行ったほうがいいよ」
「…わかりました。失礼します」

神岸先輩、なんか様子が変だなぁ。いったい…
あ、先輩を待たせちゃいけないよね。早くしないと。
でも本当かなぁ?先に行ってるなんて…



はぁ、はぁ、はぁ、先輩は…あ、いた…よかったぁ。無事だったみたい…

「ごめんなさ〜い!遅れちゃいました」
「なんだよ、やっと来たな。コッチは準備出来てるぜ」
「すいません…ちょっと、バタバタしちゃいまして…」
「何かあったの?」
「い、いえ、別に…」
「また、授業中にボーっとして先生に呼び出されたとか…」
「あはは、そんなこともありましたね。今回は違うんですよ」
「なに?」
「あの…藤田先輩がグランドで怪我なさったって聞いたものですから…」
「へ?オレが怪我?」
「はい…」
「いつ?」
「たぶん…放課後…」
「どこで?」
「ですからグランドで…」
「誰に聞いた?」

そういえば、さっきも神岸先輩と同じ会話したなぁ。

「……なが…おか…先輩…」
「……」
「どうなさいました?」
「あんのやろう!」
「え?」
「いや、確かに怪我、”しそう”になったよ。グランドで雅史と立ち話してる時に、
 野球部のボールが当たりそうになってな。それを志保が見てたんだろ」
「……」
「いい加減、腹が立ってきた。明日は志保の命日にしてやる」
「せんぱ〜い」
「最近目に余るんだよ。あいつの行動が。デマばっかりバラまきやがる」
「あ!」
「どうしたの?」
「神岸先輩…」
「あかり?」
「…はい」
「あかりがなんかした?」
「いえ、さっきの先輩との会話、神岸先輩とも…」
「で?」
「神岸先輩、拳振るわせて、こめかみが…」
「それって、怒っているっていう意味?」
「たぶん…」
「ついにあかりもキレたか…あいつ、怒るとハンパじゃないんだよなぁ。
 今頃志保のヤツ、めちゃくちゃ責められてるぞ」
「はぁ」
「まぁいいや、練習しよう。続きは明日だ」
「…はい」




翌朝です。

「おはようございま〜す」
「おはよー」
「おっす」
「神岸先輩?」
「なに?」
「あの…昨日は…」
「あ、志保?逃げられちゃった」
「そりゃそうだよ。あかりが恐い顔して追いかけてくりゃ」
「浩之ちゃん!どーゆー意味よ」
「あ、いや…ごめん…でもな、オレに八つ当たりするのはやめてくれよ」
「うぅ、それもそうだね…私こそごめん…」

あ〜あ、今日は騒ぎになりそう…

「しかしなぁ…志保にも困ったもんだ」
「今日は許さないんだから」
「あのぉ…」
「なんだい?葵ちゃん」
「藤田先輩がご無事でしたから…もう…」
「葵ちゃん、これはオレが無事だからとかそういう問題じゃないんだ」
「そうよ松原さん。私が怒っているのはね、最近の志保ったらあまりにもひどいから」
「…はぁ…」

うぅ〜、完全にお二人とも怒ってる…

「とりあえず、朝イチで志保を捕まえなきゃな」
「そうね、浩之ちゃん」
「がんばろうな!」
「うん!」

あ〜ん、変なとこで団結しないで下さいよぉ。


「じゃぁな、葵ちゃん」
「またあとでね」
「あの、くれぐれも穏便に…」
「大丈夫だよ。出来るだけ話し合いで済ませるようにするから」

”出来るだけ”…ですか…
大丈夫かなぁ?

「お願いですから暴力だけはやめましょうね。
 冗談じゃ済まされなくなりますから…」
「オレもそこまで馬鹿じゃないよ」
「浩之ちゃん…」
「ん?」
「私…自信ない」
「おいおい、あかり…」
「……」
「どうしたんだよ。あかりらしくないぞ」
「だって…」
「だって?」
「うん…他のことならともかく、浩之ちゃんに怪我させたんだよ。
 私、それだけは絶対許せない…」
「あかり…」
「あの、神岸先輩」
「なに?」
「実際…怪我したわけではないんですから…」
「私にとっては怪我した事と一緒なの!」

いつもと様子が違う…本当にどうしちゃったんだろう。

「ほらほら、もう行かないとホームルームが始まっちまう」
「あ、そうですね」
「あかり、行くぞ」
「…うん」

なんか心配だなぁ…




『キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン』

「ふぅ、午前の部、終了」

先輩、今日はお昼どうするのかなぁ?
屋上へ行ってみようかな。


『ガチャ』

う〜〜ん、いいお天気!
五月晴れだぁ。
なんか嬉しいな…
思わず伸びをしちゃう。
そういえば先輩は…
…あ、いたいた。よかったぁ。

「せ〜ん、ぱい!」
「おう、葵ちゃんか」
「すいません…今日はお弁当、用意してないんですけど…」
「いいって。毎度毎度じゃ悪いよ」
「今日は佐藤先輩とご一緒じゃないんですね」
「ん〜、アイツはサッカー部の連中と。でもって、弁当持参」
「あ、お姉さまの…」
「そうそう…うらやましいよなぁ」
「あはは、またお持ちします…
 わたしもお料理の勉強をもっとしなきゃいけませんね」
「そーかぁ?今のままでも結構おいしいけどなぁ」
「いえ、まだまだです。で、今日は何を?」
「これ……4時間目の授業が長引いちゃってね」

うわぁ、カニパンだ。なつかしいなぁ。
幼稚園の時、よく食べたっけ。
でも…5個は多いと思いますよ、先輩。

「今時売ってるんだな。こんなの」
「そうですね」
「葵ちゃん、こんなことしなかった?」
「え?」
「ほら、足をちぎって『解体〜』なんて」
「しませんよぉ。そんなこと」
「よくやったけどなぁ」
「趣味、悪いです」
「ははは、ごめん」

そうだ、神岸先輩…

「そういえば、神岸先輩は」
「アイツ?友達と飯でも食ってるだろ」
「違いますよぉ。あの…今朝、様子が少し…」
「そうなんだよなぁ。確かに今朝は普通じゃなかった」
「なにかあったんですかね」
「オレにもわからん」
「あれから長岡先輩を?」
「あぁ、ヤツのクラスに行ったよ」
「それで…」
「休み」
「は?」
「志保のヤツ、休みやがった」
「休んじゃった…ですか?」
「うん、頭が痛いそうだ」
「お風邪ですか?」
「この時期、風邪ひくヤツなんているか?」
「あれ、この間わたしが、なんでお見舞いに行ったか覚えてます?
 今月のことですよ」

そう…あのお見舞いで、わたしと先輩は…

「う!前言撤回。アイツは風邪をひくタマじゃない」
「それじゃ、神岸先輩は…」
「拍子抜けって感じだったな。残念がってたよ」
「そうですか…」
「とにかくな、これからどうするかだよ」
「…先輩」
「ん?」
「もう、やめましょうよ。こんなこと」
「オレもだんだんそう思ってきた。というか、馬鹿らしくなってきたよ」
「ね、ね、やめましょ」
「ただな…」
「はい…」
「あかりが一歩も引かないんだ」
「……」
「このままじゃ、帰りに志保の家を襲撃しそうな勢いなんだよな」

襲撃って…穏やかじゃないなぁ。

「まぁ、あかりはオレがくい止めるから…大丈夫だよ、なんとかする」
「お願いします」
「ん、わかった。それは置いといて…葵ちゃん?」
「なんでしょうか?」
「オレが無事だってわかった時、どう思った?」
「そ、それは…ホッとしましたよ」
「腹は立たなかったの?」
「う〜ん、怒るというより…安心したっていうほうが先に」
「あ、特に腹は立たなかったんだ。ウソ教えられたってのに」
「そんなこともないですよぉ!少しはありましたよ、そういう気持ちは。でも…」
「でも?」
「こんな事言っては失礼かもしれないんですけど…
 『あぁ、また始まった…』ぐらいにしか思いませんでした。
 佐藤先輩に伺ったのなら話は別だったかもしれませんが…」
「なるほどね、志保も信頼度ゼロだな」
「何と申し上げていいんだか…」
「ま、今はあかりを説得するのが先だな」
「そうですね」

『キ〜ンコ〜ン カ〜ンコ〜ン』

「5時間目が始まる…さ、行くぞ」



「…この公式は覚えておいたほうがいいぞ。次回の小テストに…」

先輩、うまく説得できるかなぁ。

「…出題範囲は…」

なんか心配だなぁ。

「…つばら!」

「え?」

なに?

「松原!」
「は、はい!」
「お前、また…2度目だぞ」

またやっちゃった……



放課後になりました。

「あかりぃ、もういい加減に許してやれよ」
「……」
「なぁ」
「…やだ!」
「へ?」
「私、絶対にやだ!」
「やだ!って…あかり…」
「許さないったら許さない!ぜぇぇぇったいに、許さないんだからぁ!」
「あ!お、おい、あかり!どこに行くんだよ…って、あーあ、行っちまった」
「行っちゃいましたね…」
「ああ」
「どう…します?」
「追いかけるしかないだろ?この場合」
「とにかく行きましょう」


「はぁ、はぁ、…あいつ、いったいどこに…」
「先輩!」
「え?」
「下駄箱!」
「あ、なるほど…冴えてるな」
「えへへ、ありがとうございます」


「靴、無いな」
「……」
「学校には、いないってことか」
「まさか…」
「?」
「長岡先輩の所に…」
「えぇ?それは無いだろ」
「でも、先輩…昼休みに…」
「いや、あれは冗談のつもりで…」
「……」
「念のため行ってみるか?」
「はい…」





「志保の家って、たしかここら辺のはず…」
「神岸先輩、いらっしゃいますかね」
「う〜ん、いたらいたで修羅場だし、いなかったら電車賃が無駄になる」
「どっちに転んでも、先輩にとっては望ましくないですね」
「葵ちゃんは?」
「そりゃ、いらっしゃらないほうが…」
「それもそうだな…おっと、ここだ」

ここが長岡先輩のおうちか…
結構、立派だなぁ。

「いるかな?」
「なんとも…」
「とりあえず、チャイムを押すぞ」
「……」

その時です。

『きゃ〜!あかり、やめてよぉ〜』
『だめ!やめない!』

「いやがった…」
「そんなことより、はやく!」
「お、おう」

『ドタドタドタ…』


「あかり!やめろ!」
「長岡先輩!大丈夫ですか!」

そこには…
神岸先輩が枕で長岡先輩を…

「あ…浩之ちゃん。それに松原さんも…」
「お前、なにしてるんだ!」
「志保を…志保を…ふ、ふぇ〜〜〜〜ん!」

神岸先輩…

「あー、ヒロが来てくれて助かった。ちょっとぉ、聞いてよ〜
 あかりったらいきなり押し掛けてきたと思ったら、枕で…」
「志保…」
「なによぉ」
「何で普段着なんだ?頭が痛くて寝てるはずじゃないのか?」
「え?あ…そのぉ…そう!医者よぉ!お医者様にこれから…」
「見え透いたウソつくなよ。もう、夕方だぜ」
「……」
「とりあえず、今日はあかりを連れて帰る。それから…」
「……」
「なんでこうなったか、わかってるのか?」
「……」
「あとは明日だ。どうせ仮病だろ?明日は学校休むなよ。わかったか!」
「…わかったわよぉ…」
「さ、葵ちゃん、行くぞ。あかりも一緒に来い」
「あ…長岡先輩…あの…し、失礼します」
「ほら、あかり、来いよ」
「ぐす…う、うん…」
「じゃぁな。絶対休むなよ」


「ひっく、ぐす…」
「神岸先輩…落ちつきましたか?」
「うぇっ、だ、大丈夫…」
「あかり…どうして…」
「……」
「いったい、何があったんだ?普通じゃないぞ」
「……」
「あかり!」
「志保が…」
「志保がどうしたんだよ」
「志保がね…志保が……ふぇ、ふぇ〜〜〜ん…」

神岸先輩は、ただ泣きじゃくるばかりで…何も答えてくれませんでした。

「仕方が無いな…家まで送って行くよ」


「ほらあかり、うちに着いたぞ」
「……ごめんね…」
「いいよ。とにかく落ちつくのが先だろ?話はゆっくり明日聞くから」



「いったい、何がどうなってるのかさっぱりわからん」
「わたしも…」
「さってと、もう遅いし、家まで送るよ」
「いえ、先輩もお疲れでしょうし…わたしは大丈夫ですから、神岸先輩を…」
「あかり?今はほっとくしかないよ。ただ…確かに疲れたな」
「ですから、先輩も帰られたほうが…」
「ん〜、悪いけどそうさせてもらうかな。じゃ、オレはここで」
「はい!失礼します」
「そうだ。葵ちゃん」
「はい?」
「明日、放課後にヤックで…」
「わかりました」



翌日の放課後です

「はぁ〜、お掃除当番が長引いちゃったなぁ。もう、皆さん来てるかな」


「いらっしゃいませぇ。何になさいますか?」
「えーと…アイスティーを」
「ミルクとレモンはどちらに?」
「じゃ、レモンで」
「はい!かしこまりましたぁ!」


「すみません、遅れました」
「お、来た来た。あとは志保だけか」
「長岡先輩には、もうご連絡を?」
「あぁ、昼休みにな」
「で、まだ見えてないんですか?」
「う〜ん…まさか逃げたなんてことは」
「それは無いと思いますが…」
「まぁいいや。先にあかりの話だけでも聞いとこう。で…あかり、いったい…?」
「志保がね…」
「それは昨日から聞いてる」
「…浩之ちゃんの事を…」
「うん」
「好きみたいなの…」
「なんだってぇ〜?」

…まさか…長岡先輩まで…

「だってね…だって…志保ったら、私にこう言ったの」
「あの…なんと?」
「…うん…この間ね『あかり、ヒロとはもう…ダメになっちゃったんだよね』って。
 そんなこと、今更言われたくないから黙ってたんだけど…」

わたしが現れたから…わたしのせいで…

「そうしたら、こんな事まで言われたの。
 『じゃ、あたしがもらっちゃおうかなぁ〜。ヒロって結構いい男だし…』
 そこまで言われたら、黙ってられないよ。だから…思わず、
 『だめぇぇぇ〜、絶対にだめだよ!』って叫んじゃったの。
 私、松原さんだから浩之ちゃんを諦めたんだよ…松原さんだから…」

なんか…神岸先輩に申し訳ない…

「……松原さんだったからこそ諦めたのに、志保に浩之ちゃんを取られたら
 私、どうすればいいの?
 私が浩之ちゃんを、何のために諦めたかわからなくなっちゃうじゃない…」
「それで…今回の一件で爆発したのか…」
「……うん…」

困っちゃったな。わたし、どうすれば…

「あかり」
「……」
「オレが志保になびかなければ関係ないだろ?それって」
「…そうだけど…」
「だからお前が心配する事じゃ…」
「やっほ〜!志保ちゃんの登場よぉ〜」
「…てめぇってヤツは…」
「なによぉ」
「それが遅刻してきた人間のとる態度か?」
「いいじゃないのぉ、せっかく来てあげたんだから」

『ガタ!』

「この野郎ぉ!!」
「きゃ!」
「先輩!暴力はやめてください!」
「あ、あぁ…ゴメン…だがな、こいつがこんなヤツだとは思わなかったよ。
 いったい誰のお陰でこんな騒ぎになったのか、ちっともわかってねぇ」
「誰のお陰?そんなこと、あかりに決まってるじゃない」
「…長岡先輩」
「なによ」

『パァーン!』
思わず、長岡先輩の頬を…

「痛い!何するのよぉ!いきなり叩くなんてぇ!」
「葵ちゃん!暴力はダメだって、自分で…」
「……」
「松原さ…ん…」
「す…すみません…」
「まったくなんなのよぉ。先輩に向かって暴力をふるなんて」
「長岡先輩、申し訳ありませんでした。でも…
 確かにこの騒ぎを引き起こしたのは神岸先輩かも知れません。
 しかしその原因を作ったのはあなたなんですよ。
 神岸先輩に、ご自分が誰のことを好きかなんてお話したから…
 実は…わたし、神岸先輩に伺いました。藤田先輩のことを好きだって…
それどころか…あの…わたしから先輩を…」
「…あかり、しゃべっちゃったの?」
「……」
「しゃべっちゃったんだ…」
「…だって…」
「そう…あ、あは、あは…は…あ、あれ…って…じ、じょう…だんだったの…に…」
「…しほぉ…冗談って…」
「そ、そうよぉ、あたし…が…ヒロのことを…す、好きになる…なんて…」

長岡先輩、動揺してる…これじゃ、まるで…

「志保!…じゃ、私がこの3日間にしたことはなんだったのよぉ?
 あなたの、そのとんでもない冗談のお陰で…私が…私がしたことって…」
「そうだぞ、志保。あかりがどんな思いで過ごしたか考えて見ろよ」
「長岡先輩」
「なによぉ、あんたとは口もききたくないわ」
「…本当に、本当に冗談だったんですか?とても冗談とは思えませんけど…」
「ど、どーゆー意味よぉ!」
「先程の態度…そう、いたずらを見つけられた子供の様な…
 隠し事がばれた時みたいな…そんな風にしか見えなかったんです。
 ですから…もう本当の事を言って下さい。お願いします」
「な、何でそんな事あなた達に話さなきゃいけないのよ!」
「……」
「わ、わかったわよぉ!そうよ!あたしはヒロの事が好きよ。これでいいんでしょ!」

やっぱりそうだったんだ…

「ヒロがいけないのよ!ヒロが…」
「なんだよそれ!オレがいけないなんて」
「この騒動の一番の原因があなたって事よ!」
「え?…意味がわかんねぇよ」
「あたしがヒロのことを好きになってしまったから…
 あたしがそのことをあかりに話してしまったから…
 たしかに原因はあたしかもしれない…
 だけど…きっかけを作ったのは…ヒロなのよ…
 …出会った頃はそんなことなかった。ヒロの事を普通の友達としか見てなかったの。
 でもね、自分で気づかないうちに、あたしの中でヒロの存在が…
 あなたの存在が段々と大きくなってきたのよぉ!」

長岡先輩…もしかして泣いてる…?

「好きになり始めた頃、雅史やあかりと4人で楽しくやれればいいと思ってた。
 自分の気持ちを押し殺していた。
 ヒロにはあかりがいたから…
 ところが、あなたはあかりを必要としなくなってしまったじゃない!
 だったら…あたしにもチャンスがあるかも知れない。
 そう思ってあかりに…ヒロをもらうわって…
 松原さんがいても関係なかった…
 つきあいはあたしの方が長いのよ!…だから…だから…」
「だから…って言われてもな志保、わざわざあかりに宣言しなくっても…」
「あたしがそんなこと黙ってられると思う?」
「…ま、まあな…」
「だから、あかりだけには話したの。それに…黙っていて、あとでばれたら恐いしね。
 でも、まさかこんな事になるとは夢にも思わなかったわよ」
「う、うん、志保の言いたいこともわかった。オレが悪いところがあれば謝る。
 ただな、志保だって自分が全く責任無いなんて思ってないだろ?だったら…」
「うん…確かにあたしが悪いかも知れない。
 どうでもいいことを、松原さんに話したから。あれはニュースとは言えないもんね。
 ただ…あかりが変に暴走しなかったら…」
「長岡先輩!」
「あ!ゴ、ゴメン。今のは取り消し。今回のことはあたしが悪かったわ。謝る。
 あかり、ヒロ、そして松原さん…本当にごめんね」
「これで、解決…かな?あかり、もういいだろ?許してやろうぜ」
「う…うん。わかった」
「じゃ、そろそろ帰るか。いい加減腹も空いただろ?
 オレはここで済ませてもいいけど、お前ら家で夕食が待ってるだろうから」
「そうですね。わたしも、そうそうと先輩と夕食をご一緒するわけには…」
「あらぁ〜、松原さんってヒロと何度も夕御飯一緒に食べてるのぉ?いいわねぇ〜
 まさか、そのまま朝御飯も一緒なんてことはないでしょうねぇ」
「い、いえ!そこまでは…」
「あははは、照れてる。結構かわいいとこあるじゃん。
 あ、そうだ、松原さん」
「…なんですかぁ?」
「あたしね、ヒロの事を決して諦めてないからね。油断するんじゃないわよぉ」
「わ、私だって浩之ちゃんのこと…」
「おいおい、あかりまで…まいったな」
「あ、あの、皆さんのお気持ちはわかりました。
 わたしも先輩をゆずる気はありません。
 ですが…そろそろ帰らなければ、おうちの方が心配なさると思いますよ」
「そ、そうだよ。そろそろ帰らないと。オレは葵ちゃんを送って行くから…じゃな!」
「あ〜!ヒロォ逃げるのねぇ〜」
「そんなことないって!さ、葵ちゃん、帰るぞ」
「くす…はい!」



「いや〜、ホントにまいった」
「先輩の争奪戦ですか?」
「ば、馬鹿。このドタバタ騒ぎだよ」
「あははは、そうですね」
「急に疲れてきたよ」
「…先輩?」
「なんだ?」
「前に…わたしにおっしゃった事…覚えてます?」
「なんだっけ?」
「あの…何日か前ですけど、何があってもわたしの前から消えない…って」
「へ?うん、言った…と思う」
「忘れちゃったんですかぁ?」

『ブルブル』

「あれはウソじゃないですよね?」
「も、もちろん!」
「では、そのお言葉、そっくりお返しします。
わたしも…何があっても、先輩の前から消えません。
だから…どんな時でも…わたしのことを…ね!」
「なんだよ、ホントにそっくり帰ってきたなぁ」
「うふふ…だって本心ですから」
「ま、まぁ、今はそんなどうでもいいこと言ってないで帰ろうぜ。オレ、腹が…」
「どうでもいいこと?」
「あ!い、いや、とっても大事なことだよ。うん。ただ…腹が…」
「わかりました。おうちに帰りましょ。わたしもそろそろお腹が」
「そうそう、もう帰らなきゃな」

先輩、色々な方に好かれてるんですね。
わたし、あなたとお付き合いできてとても幸せです。
そして、一言だけ言わせて下さい。
わたしの前から消えたら、絶対に承知しませんからね。

「今日は、これから何をお召し上がりに?」
「え?そうだなぁ…カップやきそばを…」
「先輩!」



                        おしまい



あとがき

みなさん、こんにちは。Hiroでございます。
8作目、お届けいたします。
今回は導入部でわかっちゃいましたね。誰がお相手か。
そう、志保です。そして展開までがお約束。(なんだかなぁ…)
志保のデマでもめ事が起こる…
ほとんどの方が想像ついたのではないでしょうか? f^^;)

私ってば、どうも志保のことが苦手なんですよね。
具体的に、どこがってわけでもないんですが…
ですから、後半の方は
『とっとと、終わらせちゃえ〜』みたいな感じになってしまいました。
やれやれ…です。
まぁ、とりあえずは円満解決でよかったかな?っと。

さて、9作目です…
並行して作っていたんですが、ボツにしました。
話が続かなくなってきましたので…
今、白紙状態になっています。
どんなのにしようかな?
あぁ〜、どんどんとペースが落ちてゆく〜
できれば、5月中に10本上げたかったんですが…
仕方ないですね。がんばります。

最後までお付き合い、ありがとうございました。


1999年6月 会社近くのマックにて Hiro


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