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since : 28/Mar/1998


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  (C)Leaf ToHeart
                     △ 松原 葵 初恋への卒業SS ▽


             さよなら... 先輩...


                             write : M.HAGU

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 「先輩...」
 「...」
 「先輩、大好きです... 今でも... 今でも大好きです」

 涙が出てきた。
 たくさんの涙の粒が頬を伝って、地面に落ちていくのを感じて...
 けど、俯かないで、ずっと先輩を... 大好きで... とても大好きな先輩の顔を...
 高台の上にある公園で... 夕焼けの中... 
 断崖状になっていて、この公園の中でも一番景色の良いこの場所で...
 夕焼けに紅く染まった先輩の顔を... じっと... じっと...





 高校に入学して数日後... 先輩に出会った... 

 私の話をじっと聞き入ってくれた先輩...
 何度も何度も同好会の練習に顔を出してくれた先輩...
 練習相手にまでなってくれた先輩...
 いつか、いつのまにか... 私にとって、先輩は離せない人になっていた。


 そして、5月…

 たった数日... 側に先輩のいない日々を過ごして...
 自分の気持ちに気がついて...
 もう... 二度とこの大きな胸の中から... 離れたくない...


 離したくない...

 先輩... ずっと... ずっと... 私の側にいてほしいんです。


 そんな... 独占欲の渦巻いていた私を...
 相変わらず優しく慰めて... 私を元気づけてくれた先輩...
 でも... ダメなんです。

 でも... それだけなんですか?

 私... それだけでは... それだけでは我慢できなくなってるんです。



 「先輩の... 先輩の気持ちを... はっきりと聞きたいんです...」


 困った顔をした...


 結局... 私は... 私は、ただの後輩なんですか?


 見て... 先輩... 先輩、私だけを... 私のことだけを...


 「先輩はどう思われているのか... わかりませんが... 私... 私は...」

 必死に、言葉をつむぎだす私を... 優しい笑顔で... ううん...

 今まで見たこともないぐらいの... 優しい笑顔で微笑みかけてくれた。

 なに? どう... したんですか?

 「私は、せんぱいのこと! す...」

 気がついた時には、先輩の顔が目の前にあった...
 くちびるが暖かかった...

 きす... きす... キス... キス... キス!

 先輩が、先輩が私に... 私にキスをしてくれてる!

 スキ... スキ... すき... すきっ... すき! 好き! 好きっ!

 大好き! 先輩、大好きです!



 このまま私を...


 気がついたら先輩の優しい笑顔は目の前になくて、胸の中にいた。


 そして、二度目のキス...
 もう、離したくはなかった...
 離す事なんてできない...

 この胸の中にいられるのなら...




 「先輩... 私... 例え先輩に嫌われても... 好きでいます、ずっと...」

 「...」

 まだ、じっと見つめているだけ...
 でも... その顔は、あの優しい笑顔ではなかった。
 悲しい顔... やるせない顔... そして...

 微かに見える... 怒り。



 「例え、先輩の心が神岸さんでいっぱいでも... 私、諦めませんから...」


 じっと... じっと、私を見つめて... 黙って聞いていてくれた先輩が...
 ようやく口を開けた。

 「だからだよ... だから、葵ちゃんを俺の手元に置いておきたくないんだよ」

 つらそうな... つらそうな顔... こんな顔... 先輩のこんな顔...

 見たくない... 見たくなんてない... でも、この顔をさせてるのは...


 「あんなに素直で優しくて真っ直ぐな... ホントに真っ直ぐな葵ちゃんはどこいっち
 まったんだよ」


 先輩が神岸さんを好きになったときに捨てました。

 私の側にいてもらうためなら私は... 何でもやりますよ...


 「否定してほしかったんだよ、俺は。今日はそのために来たんだよ」

 ゴメンね... 私でゴメンね... 『犯人』が私でごめんね...

 「あかりを階段から突き落とすなんて... そんなの葵ちゃんじゃねぇよ」



 先輩... あなたと一緒にいるためなら...



 「俺と一緒にいたら... ダメになるよ。俺も... 葵ちゃんも...」


 「それで、私と別れて... あかりさんの所に行くんですね」
 私は冷ややかに先輩に告げる。

 「俺は、葵ちゃんも、あいつも離したくなんてない。けどな、こんな葵ちゃんを
 好きになったわけじゃない」

 「こんな風にしたのは先輩ですよ」
 私はまた、冷ややかな言葉を言うだけ...

 「葵ちゃん... いい加減解れよ」
 先輩の声がちょっと荒がる。
 けど、そんなことどうでもいい...


 「私は、先輩といられるならどんな女にでもなれます」
 きっと、先輩を見据えて...

 「そんな葵ちゃんキライだよ」
 先輩がぼそっと呟いた。

 「キライで良いです... キライでも良いんです! でも... でも!
 誰にも渡しません! 絶対誰にも先輩を渡しませんから!」
 いつのまにか、私も声を荒げていた。

 そして、その言葉は先輩の顔を... 恐ろしいまでに怖い顔にさせた...




 バシーーンッ!




 「俺に嫌われて、俺を独り占めにして、それで幸せか! そんなものが葵ちゃんが
 望んでいたものなのか!」

 いたい... 頬が... いたい...
 なに? 何が起こったの? 先輩が私の前まで来て...
 その腕を上に上げて... そして...

 私... ぶたれたの? 先輩に?

 なんで? 先輩? 私、こんなに先輩が好きなのに... どうして?
 ずっと一緒にいてくれるんですよね? 私と...
 ずっと二人でって... 約束したはずですよね?
 それとも... 結局... 私一人でその約束に舞い上がっただけなの?

 ねぇ先輩... せんぱぁい...

 「俺... 今までの葵ちゃんが見られるのなら... 例え自分の胸の中にいなくても...
 いや、例え自分の胸の中にいても、こんな葵ちゃんを見るぐらいなら...
 葵ちゃんが元に戻って、元の明るくて素直で優しくて... 
 そんな女の子に戻ってくれたら... その方が... いいんだ...」

 ...

 「解りました。先輩。私... こんな気持ち捨てます...」

 もう... いらない... こんな気持ち... こんな気持ちなんて...




               いらない




 「先輩、最後のお願いです。良いと言うまで目を閉じてもらえませんか...」

 「...」

 私のお願いに、黙って目を閉じてくれた先輩...

 そっと近づいて、きゅっと先輩の体を抱きしめて... 離れた

 私は心の中でそっと... 伝えた...



 さよなら... 先輩...




 そして、私は...



                       さよなら... 先輩...
                                  fin...

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