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ピピピピッ、ピピピピッ・・・
枕元で、目覚しが昨夜セットしておいた時間の訪れを告げている。
「うぅ〜〜」
俺は寝返りを打って、それを無視する。

ピピピピッ、ピピピピッ・・・
目覚しはまだ、鳴り続けている。
「うぅ〜〜」
俺は、また寝返りでそれを無視する。

ピピピピッ、ピピピピッ・・・
まだ鳴り止まない、さっきよりももっと俺の耳にはっきりと音が届いてくる。
「ああ――っ、わ〜ったよ、ちきしょう」
結局、その音に耐え切れず俺の方が起き上がる。
いや、別に時計と張り合ってた訳じゃないけど。
目覚し時計に起こされる、これって、人間にとっては一番辛い事かもしれない。
そんな、馬鹿な事を考えながら俺は、目覚し時計のボタンを押して音を止める。
今は、俺の手の中にある目覚し時計のデジタル表示は―――

AM5:55

「げぇっ、まだ6時じゃねーかよ。なんで俺、こんな時間にセットしてたんだぁ?」

午前6時。
もう6月も半ば。確かに、もうすぐ夏本番、外はもう、朝日が昇りきって眩しいくらいだ。

「でも、なんで・・・」
そう呟きながら、俺はある重要な事を思い出した。

――6時?

「ああぁ――――――――っ、やべぇ、遅刻だぁぁ――――!!!」


早朝ランニング

青居ツバサ

AM6:00

ドダダダダダ・・・・・・・。
急いで階段を駆け降り、その足で洗面所へ向う。
頭の寝癖を適当に直しながら、歯を磨く。それが終ったら、洗顔。ここまでの所要時間、約2分。
その後、リビングヘ行き、昨夜準備しておいた服に着替える。
「よっし、いってきまっすー」
返事の無い声を家の中にかけ、俺は玄関から飛び出す。
俺は急いで、約束の場所――公園――へと向った。


約束。
昨日の、葵ちゃんとのクラブの帰りだ。

「先輩、かなり動きが良くなってきましたよ」
「えっ、そうか?」
「はい。前々から、筋が良いとは思ってましたけど、ここまで上達が早いなんて、正直驚きです」
「そっかな、自分じゃ良くわからないけど」
「才能があるんですよ。この調子で行けば、エクストリームでの上位入賞も夢じゃないですよ」
「まさか、それは行き過ぎだって。今だって、葵ちゃんとの段取り稽古にだってついていけねーのに」
「それは、単なる体力の問題で、格闘能力とはまた別の話ですよ。基礎体力さえちゃんとつければ、私なんか、すぐに追い抜いちゃいますよ」
「基礎体力ねー。そう言われても、ここんとこ大した運動もやってねーし」
「あっ、それじゃあ、こういうのどうです?私、毎朝学校に来る前にジョギングしてるんですけど、先輩も一緒に―――」
「走る・・・、の?」
「はい」

結局そのまま、葵ちゃんに押し切られる形で、俺も早朝ランニングに付き合わされる事になった。
葵ちゃんって、普段は奥手なのに、こと格闘技に関しては、情熱も押しも強いからなー。
はぁ。ま、朝早くから、葵ちゃんに逢えるから良し、とするか。


AM6:15

約束の時間は、6時だから、15分程の遅刻か。
まぁ、こんくらいの遅刻なら、普段はそんなに気にし無いんだけど、葵ちゃんだからなぁ・・・
多分、遅くても5時半前にはここに来ていただろう。
そう思い、俺はもう少しペースをあげて、待ち合わせ場所の時計台に向った。

「おーい。葵ちゃーん」
時計台の下、葵ちゃんを発見した俺は、すぐに彼女の名を呼んだ。
ストレッチ運動をしていた様だが、とすると、やっぱりかなり前からここにいたんだな。
「あ、先輩。おはようございます」
葵ちゃんも俺に気づき、こっちに顔を向けて、笑顔であいさつをしてくれる。
「ん、オハヨ」
俺も、それを返す。出来るだけ、いつも通りの口調で。

「ごめんな葵ちゃん。時間に遅れちゃって・・・」
取り合えずこれだ。
ほかの何よりも優先して、今の俺が葵ちゃんに言うべき言葉。
「えっそんなこと無いですよ。私だって、ここに来たのはついさっきですし・・・」
葵ちゃんはそう答える。
でも、その言葉が偽りなのは、頬を流れる汗でも分かる。
おそらく、1時間くらいは、ここで運動を続けていたのだろう。
だけど、俺は・・・
「そっか、それじゃあ、こんな急いでくる事も無かったかな?」
そう、ギャグで葵ちゃんに答えた。
「ハハハ、そうですよ」
葵ちゃんも笑ってかえす。

葵ちゃんの事だ、そんな朝早くから待ってた事を俺に感づかれた事に気づいたら、また、落ち込んでしまうだろう。
葵ちゃんは、何一つ悪くないにもかかわらず。
この場は、葵ちゃんの優しさに甘えるのが1番葵ちゃんの為。都合の良すぎる考えだと思うけど、俺はそう思った。


AM6:25

あいさつも一通り終え、俺は改めて、葵ちゃんを見る。
「あれ、葵ちゃん。その格好って・・・」
「え、どこか変ですか?」

葵ちゃんの格好は・・・
学校指定ジャージ。
間違い無い、うちの高校の奴だ。

学校指定ジャージ。
学校によって、色、形状等に多少の違いがある。
だが共通して言える事は、
1・伸縮性、吸湿性に優れる。
2・上着の袖、および、下着の両脇に、2本ないし3本の白線が走っている。
3・胸元左側に、校章、あるいは持ち主の名(苗字のみ)が刺繍されている。
―――の3つが上げられる。
多くの生徒は、保健体育実技授業の時のみに着用するが、ごく稀に、通常時も制服代わりとして使用する者もいる。

「・・・」
「あのー。先輩、どこかおかしいですか?」
俺が黙ったままでいると、葵ちゃんがすがるような声で聞いてくる。
「えっいや、そんな事無いって」
「・・・本当ですか?」
「ウンウン、良く似合ってるよ」
俺は、そうとしか答えられなかった。

まぁ、休みの日に校則を守って制服で出歩いてるような女の子だもんな。
これくらい、普通だよな。


AM6:35

「――で。葵ちゃん、今日はどんなコースを走るんだ?」
「えっ、そうですね。はじめはいつも私が走ってるコースにしようと思ったんですけど。やっぱり、先輩ははじめてですし、馴れるまではもう少し短めのコースにしようと思うんですけど」
「短めの・・・、ね」
「あっ、すみません。やっぱり、いつも私が走ってるコースで・・・」
「いや、短い方で良い、短い方で・・・」
俺は慌てて訂正する。
この葵ちゃんが相手だからな、ジョギングとはいえ、フルマラソン走ってる可能性も0じゃない。
まあ、さすがにそれは行き過ぎだけど、それに近いものはあると思う。

「じゃあ、短いコースで良いんですね?」
葵ちゃんが、俺にたずねてくる。
「ああ。で、どんくらいのコースなんだ?」
「10kmです」
「・・・10km・・・」
良かった、訂正しといて・・・


AM6:40

「よっし、んじゃ。早くいこーぜ」
俺は(10kmを完走する)覚悟を決めて、葵ちゃんに声をかける。
「はい。私の後について来て下さいね。今日は、少し流す程度で、大体30〜40分くらいでここに戻ってこようと思うんです」
「・・・おーけい・・・」
俺には、その言葉以外残されていなかった。


AM7:15

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
大体、30分ほどで、俺達は公園に戻って来た。
単に距離が長いだけでなく、坂道も多く選んでいたようで、その高低による筋力アップも考えているんだろう。
実際、1月も今のコースを走り続ければ、かなりの体力と筋力がつくか、その前に運動嫌いになるかのどっちかだろう。
俺は、間違い無く後者だな―――
「先輩、お疲れサマー」
・・・となりに、葵ちゃんがいなきゃ、だな。

「どうぞ、飲んで落ち着けて下さい」
そういって、葵ちゃんにスポーツドリンクを渡される。

ぷしゅっ。
「んっ、んっ・・・、ふぅぅ」
タブを開けてすぐ、半分ほどを一気に飲み干す。
葵ちゃんの言う通り大分落ち着いた。
いや、生き返ったって言っても良いな。

「先輩、どうでした?」
ベンチの隣で、葵ちゃんが聞いてくる。
「・・・そうだな。馴れないし、やっぱ疲れたかな・・・」
俺は素直にそう言う。
ここで強がって、次からもっとハードなコースを選ばれたらたまらないしな。
「ふふ、そうですね。やっぱり、こういうのは馴れですから」


AM7:25

「・・・あの、先輩。お腹、空きませんか?」
「え、ああ、少し、空いてるかな」
と言っても、普段は大抵、(ギリギリまで寝てるため)朝食は取らない。
「あの、先輩。私、お弁当作って来たんですけど・・・。食べますか?」
「葵ちゃんの手作り?だったら、喜んでもらうよ」
「・・・」
俺の言葉に、葵ちゃんは少し頬を赤らめながら、バッグの中から、弁当箱を取り出す。
「あの、どうぞ・・・」
「うん。サンキュ」
俺は葵ちゃんに渡された弁当箱を開ける。
その中身は・・・、そういや、走ってる間ずっと弁当が入ってるバッグ、肩に掛けてたよな・・・
結果、どういう状態なのかは、そちらの判断に任せる。
でも、中の様子から、取り合えず元は。ご飯とおかずが半分で区切られていて、おかずは、ハンバーグ、卵焼き。うインナー、プチトマト、といったところか・・・
「あぁ、先輩、ごめんなさい。せっかく・・・」
葵ちゃんが、今にも泣き出しそうなくらいに落ち込んでる。
「ああ、謝ること無いって。見た目はちょっと・・・、だけど。美味しそうじゃん」
「でも・・・」
「貰うよ、ね。ハシ、ちょうだい」
「―――っはい」
良かった、元気を取り戻してくれたみたいだ。

「どうぞ、割り箸ですけど」
「サンキュ。えーっと、何から食べようかなー」
俺が、ハンバーグ(だったらしいもの)に箸をあてると・・・
「あ、先輩」
突然、葵ちゃんに声をかけられる。
「何、葵ちゃん?」
「すみません。これ、忘れるところでした・・・」
そういって、小さいビンを取り出す。
「それって・・・?」
「ケチャップです。それ、そのままじゃ味全然無いんで、持って来たんです」
そう言いながら、ハンバーグ(だったらしいもの)にたっぷりかける。
「さあ、どうぞ・・・」
「ハハ、それじゃ、今度こそいただきます」
パク。
ハンバーグ(だったらしいもの)を一口、口に入れる。
「・・・」
これは・・・
「先輩・・・、どうですか?」
葵ちゃんが、俺の顔を覗き込んでいる。
「・・・葵・・・、ちゃ・・・ん・・・」
葵ちゃん。
これ、ケチャップじゃなくてタバスコ・・・
「あの、美味しくなかったですか?」
「いっ、いや、美味しい、よ・・・」
目に涙を溜めながら、俺はそう答えることしか出来なかった。


AM7:40

「それで、どうです?先輩、明日から」
空になった弁当箱をバッグにしまいながら、葵ちゃんが聞いてくる。
「そうだな。やっぱ、こういうのは俺には―――」
俺には合わない。
その言葉を俺は、途中で飲み込んだ。
葵ちゃんの顔が目に入って来たからだ。
その葵ちゃんの顔――表情――には、どこか見覚えがある。

はじめて、葵ちゃんとあった頃と同じ、ずっと1人でエクストリームの練習をやって来た葵ちゃんと。
そうだ、あの時と同じなんだ、ずっと1人でエクストリームを目指していた頃と。今、1人で毎朝ジョギングしてるのと。
多分葵ちゃんは、毎日、俺と走りたいって思ってんだろうな・・・

その考えを遮るように、葵ちゃんが口を開く。
「あの、無理に、とは言いません。やっぱり、朝早いですし、距離もありますし・・・」
ぽん。
「・・・!?」
突然、俺の手が頭の上に来て、驚いて葵ちゃんは言葉を飲み込む。
「・・・葵ちゃん」
俺は、葵ちゃんに話しかける。
「やるよ・・・」
「え?」
「俺も、毎朝、葵ちゃんと走る!」
「・・・」

俺の言葉に一瞬目を丸くして、そして・・・

「センパ・・・、せんぱーい・・・」

とすん・・・。
葵ちゃんは俺の腕の中に飛び込んで来た。


AM8:10

「ああ。ヒロ、なんでこんなトコロにいるのよ」
登校途中の坂道で、いつものように志保とはち会う。
「こんなトコロって、通学路で会ってどこがおかしいんだよ」
「だって、この時間に行ったら、遅刻できないわよ」
「俺は、毎日遅刻したくて遅れてんじゃねーよ」
俺は少し向きになって応える。
押さえろ、藤田浩之。この女は、けんかを売ってるだけなんだ・・・
「あっそうか、今日はいつもより、あかりが早かったんだ・・・」
志保が、俺のとなりにいるあかりに話しかける。
既に、さっきの会話との関連性はほとんど無い。
「違うよ、今日は、浩之ちゃんの方が私を起こしに来たんだもん」
「え、うっそ」
あかりの答えに、志保は心底意外そうな顔をする。
お前な・・・。でも、多分雅史が聞いても同じ反応をするだろう。
「ほんとにヒロがあかりを起こしに言ったの?」
「・・・まぁ、一つも起こされっぱなしってのもしゃくだしな・・・」

そんな会話を延々続けながら、校門にさしかかったところで葵ちゃんにあった。
「あっ、葵ちゃんオハヨ」
さっき会ってるのに、おはようも無いだろう。
何となく気恥ずかしいが、他に言葉が見付からなかったので仕方なしに出た言葉だ。
葵ちゃんもそう思ったのだろう。
少し苦笑気味の顔を浮かべていたが、すぐに背筋を伸ばし笑顔で応える。

「先輩。おはようございます」

THE END

あとがき系読み物


早朝ランニング、いかがでしたか?

今回はちょっと、コメディタッチで書いてみたつもりなんですけど。
文章だけで笑いって言うのは、やっぱり難しいですね。

でも、最初に思っていたのとだいたい同じなんで僕的には満足です。

感想とかくれたら嬉しいんで、よろしくお願いします。

では、オヤスミナサーイ。


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