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 …眠れない。

 いよいよ明日が勝負の日だ。
去年はさんざんな結果だっただけに、今年こそは…とか考えているとつい目が冴えてしまう。

 用意は万全だ。いっぱい練習もしたし、体調も完璧だ。
でも…もし今年も駄目だったらどうしよう…。

 はっ、いけないいけない。
すぐ悪い方に考えてしまうのは私の悪い癖だ。
頭を振って雑念を払いつつ、私は布団を頭からかぶった。

 明日は…がんばろ…。


< REVENGE >


 いつもよりかなり早く目が覚めた。
朝のトレーニングをこなして軽く汗を流す。
…体を動かしていると、不安とかいった全てが消えていくような感じがする。
もっともそれが気のせいだというのは、その後に気づくけど。

「…はぁ…大丈夫かな…」
 シャワーを浴びて汗を流しながら、私はぽつりとつぶやいた。
まるで水滴が私の心にしみこんでどんどん重たくなっているような気さえする。
「…駄目駄目っ! そんな弱気でどうする、松原葵っ!!」
シャワーを止め、重たくなった心から雑念を振り払うように頭を思いっきり振る。
「よぉし、今年こそ頑張ろうっと!!」


 普段より早く家を出てしまったので、なんとなく回り道をしてみる。
最近ではすっかり覚えてしまった道を辿り、割と馴染んだ家へとたどり着く。
呼び鈴を押しても、予想通り返事はない。
 私は思いきって大声で呼んでみた。

「せんぱぁぁぁい、そろそろ起きないと遅刻しますよぉぉぉ!!」


「…勘弁してくれよ…恥ずかしいって」
かなり眠そうな様子で先輩がそうぼやいた。
「だって…早くしないと遅刻しちゃうと思ったから…いくら呼び鈴鳴らしても
 出てきてくれなかったですし…」
私はうつむきながらそう返事をした。顔が赤いのが自分でも分かる。
なんか予想以上に大きな声を出しちゃったらしくて、近所の人がびっくり
ちゃってたし…それに何より、その人達の、
「あら、今日はあかりちゃんじゃないんだねぇ」
「あらあら、浩之君も隅に置けないわねぇ」
なんていう冷やかしの言葉が…ううっ、今思い出しても恥ずかしい…。

「それで葵ちゃん、準備はできてる?」
先輩はちょっと強引に話題を変えてきた。
「あ、はい! これですっ」
そういって私はポケットからメモを取りだした。
先輩はそのメモにざっと目を通す。
「うーん…ちょっとわかりにくいような気がするな…」
「やっぱりそうですか…私こういうのやっぱり苦手で…それで去年も失敗したし」
「…去年の場合は熱中しすぎて周りがひいていったんだと思うけど…」
「……そうですね…」
ううっ…やなことを思い出しちゃった。

 そう、昨日は入学式。
そして今日は、1年生に向けて、私達の同好会の勧誘をしようということになったのだ。
だけど…正直言って私はこういうのが苦手だ。
それは去年の勧誘に大失敗しているのを考えれば明らかだ。
 でも…今年は先輩が一緒にやってくれる。
それが私にとって唯一の救いであり、心の支えだ。

「そういえば…ちょうど先輩に会ってから1年ってことにもなりますよね」
「だな…早いもんだな。なんかついこの間知り合ったような感じだけど」
そういう先輩に向かって、私はちょっと視線をそらしながら、
「うーん…私はまだそんなもんかなって感じです。だって先輩とはなんかずーっと
 一緒にいるような気がしますから。私もう先輩がいないと駄目です」
「葵ちゃん…いてぇっ!!!」
先輩が突然頭を押さえてうずくまる。後ろを見るとそこには…。

「…後ろからこっそりとつけて驚かそうと思ったら…なに朝っぱらから
 いちゃついてんのよあんた達は…」
そこにはやれやれって感じの顔をした綾香さんがいた。
「あ、綾香さん…いつの間に!?」
「先輩に会ってから1年…の辺りからかな」
…再び顔が熱くなる。
「しかし珍しいわね2人で学校行くなんて…あ、なにこれ」
そういって綾香さんは、まだうずくまっている先輩から私のメモをひったくった。
「あ、それは…」
「ふんふん…へぇ、勧誘ねぇ…まぁそうよね、2人で同好会ってのも大変だろうし」
「…どうでしょう?」
「うん…悪くはないと思うけど…でもこれを説明するだけってなんだか地味じゃない?」
「…じゃあ何か、実技でもやれっていうのかよ」
ようやく復活してきた先輩がそう聞き返す。
「それも面白そうね。ただ…相手が浩之じゃねぇ」
「悪かったな」
「あ、でもそれいいかも知れませんね。簡単な型を実演するとか」
なんとなく一悶着起きそうな雰囲気をなんとか逸らしつつ私が話を続ける。
「そぉね、それくらいなら…ってやば、時間ないんだった…じゃあまたねっ」
…現れたときと同じくらいの唐突さで綾香さんは去っていった。
「あ、おい待て綾香! さっきの借りはいつか返してやるからな!」
その後ろ姿に向かって食ってかかる先輩。
そんな先輩をなんとかなだめつつ、私達も学校へと急いだ。


 勧誘は放課後にやることにしている。
でも、そのことを考えると授業にも身が入らない。
ノートを取りつつ、メモの文面を見直したり、どういう風に進めようかと考えたり…。
ついでに言うと…やっぱり心の準備が完全に出来ていない。
もう少し時間があれば…という私の気持ちとは裏腹に、時間はあっという間に過ぎていった。


 放課後。
私は急いで運動着に着替えて、先輩と待ち合わせしている廊下へと向かった。
まだ1年生も結構教室に残っている。
「はぁっ、はぁっ…遅れてすみません、先輩…」
息を切らしながら先輩に話しかける。
「珍しいな、葵ちゃんの方が後なんて…まぁ着替えてたからかな」
制服のままの先輩がそう言った。
「さて…それじゃ始めましょうか、先輩」
「ああ、今年こそは2人っきりの同好会から卒業しような」
メモを取りだし、呼吸を整え、読み上げ始めようとしたそのとき。
「葵ちゃん…」
他には聞こえない小さな声で先輩が話しかけてきた。
「はい?」
「緊張してるでしょ」
…不思議だ。一生懸命隠していたのになんでそんなに簡単に見抜いちゃうんだろ。
やっぱり先輩ってすごいな。
「…はい」
「大丈夫、去年と違って俺がついてるからさ。頑張って」
その一言でかなり楽になれたような気がした。
改めてメモを眺め、読み上げ始めた。

「新入生の皆さん、こんにちは! 私達はエクストリーム同好会の…」


 去年よりも少し簡単に格闘技について説明をする。
何度か自分の世界に入りそうになったけど、先輩に指摘されてなんとか持ちこたえた。
その後、空手の型をいくつか披露したり、先輩を相手に軽く打ち込みなんかもやってみた。

 その結果…今年は興味を持ってくれた人が結構いた。
最後まで話を聞いてくれた人もいれば、見学に来てくれるという人もいた。
恥ずかしかったけど、成果は非常に大きく、私はとても嬉しかった。


「…良かったね、葵ちゃん」
勧誘が終わった後、今日は部活を早めに切り上げてちょっとだけ寄り道をした。
先輩曰く、勧誘が上手くいったお祝いだということだって。
なんだかちょっと気が早い気もするけど、私も嬉しかったのでそうすることにした。
「はい…結構恥ずかしかったですけどね。でもホント良かったですね」
「だね…やっぱり葵ちゃんの実技が効いたんじゃない? 格好良かったし」
「えっ!? そんな、恥ずかしいですよ…そんな人に見せられたものじゃないですし」
その後、しばらくはお互い黙ったまま歩き続けた。
そして、次に口を開いたのは…。
「でも…」
「だけど…」
同時に話しだしてしまい、お互い赤面してしまう。
「せ、せんぱいからどうぞっ」
「あ、あおいちゃんこそ…」
2人とも思いっきり取り乱す。覚悟を決め、私から話し出す。
「でも…先輩と2人っきりってのも良かったかな〜なんて」
私がそういうと、先輩は優しそうに笑って、
「ん…俺もそうだよ」
ぼそっと聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「でも…まだ入ってくれるかもわかんないのにこんなこと言ってるなんて、
 ちょっと気が早いような気もするな」
「…大丈夫ですよ、きっと一緒にやってくれる人がいらっしゃいますよ」
…だって…私達が一緒にあんなに頑張って勧誘したんだもの。
私は心の中でそう呟いて、先輩と一緒に夕暮れの街を歩いていった。


 < 完 >




(後書き)
 またこの時期がやって参りました(^_^)
そう、葵ちゃんとの出会いの時っ!!!

 というわけで、その出会いの場「勧誘」を書いてみました。
といっても出会って1年後のお話ですけどね。

 去年の惨敗に対する「リベンジ」っていうのがタイトルの意味です〜。
でも今年は浩之と一緒に勧誘。上手くいくといいですねっ。

 なんつーか久々にらぶ度の高いものを書いて楽しかったです(笑)。
#とかいってて次に書いたのが…(核爆)。

 それでは〜(^_^)/

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