SSのお部屋に戻る   トップのページに戻る


……………………………………………………………………………………………

           Power for Love

                           write : M.Hagu
……………………………………………………………………………………………

「せぇんぱい、おはようございます」
 今日も、神社に先に来ていた先輩に向かって挨拶。

「あ、おはよう。今日も頑張ろう」
「はい、もちろんですっ」
 笑顔で話してくれる先輩を見ながら私も笑顔で返します。

「さ、早く着替えて練習始めよっか?」
「はいっ!」
 急いで服を着替えて、サンドバックの前に立った。

 すーはー。
 一度深く深呼吸してから。
「行きます」
「待って。肩に力が入ってるから」
「え?」
 自分では気がつかなかったけど、先輩の目は間違いないはずだから。
 私は構えを解いて、もう一度深呼吸してみる。

「うん、堅さがとれたね。それじゃぁ、いつものように。それと怪我しないよ
うに」
「はいっ!」
 それから、いつものように先輩に教えられた通りのメニューをこなしました。

----------------------------------------------------------------------

「じゃぁ、今日の練習は終わろうか」
「あ、そうですね。陽も暮れちゃったみたいですし」
 後ろを振り返ったら、夕陽は山の向こうに落ちちゃってました。
 練習していると、夢中になって時間なんて忘れちゃいますね。

「それじゃぁ、着替えて、汗はちゃんと拭いておくようにね」
「はい」
 サンドバッグをなおしに行く先輩が、私に向かってそう声を掛けてきました。

 それにしても、先輩ってば、いつも年下の私がやるべき事を率先してやって
しまうんですよね。
 器具も優先して使わせてくれるし。

 先輩の強さに憧れてるから、先輩の邪魔になってないのかな、なんてたまに
思ったりもしてたけど。
 でも、この間の大会では見事に優勝。
 二連覇を果たしちゃうんだから、やっぱり先輩ってすごいッ!

「先輩」
「なに?」
「どうして先輩、器具とか使わないんですか?」
 でも、やっぱり私ばかり使うのも悪いから、先輩に使ってもらわないと。
 そう思って尋ねてみました。

「え?」
「だって、先輩、私が器具を使うようになってからは、一度も使わないじゃな
いですか」
「あ、うん。そうだね」
 先輩、頬を掻きながら困った顔してる。
 あれ? 変な事言ったのかな?

「器具の事なら心配しないでいいよ。私、この時間は基礎練習の反復を心がけてるから」
「この時間は?」
 先輩の言葉の中から疑問が一つ。

「あっ…」
 私の声に、先輩、思わずって感じで口を押えたんです。
「この時間ってことは、他の時間もやってるんですか?」
「え、あ、その…」
「松原先輩?」
「な、何でもないよ、何でも」
 先輩、見るからに焦って吃ってる。
 何かあるんだ。
 黙ってるなんてずるい。

「先輩、何してるんですか? 気になっちゃいますよ」
「え、えと…あの…」
 そこで、ふと思い出した。

 私が松原先輩を知ったきっかけ。
 新聞で掲載されたエクストリーム大会の記事。
 若干16歳で優勝した松原先輩の。

 そして、その隣にいたトレーナーであり…。

「あの、もしかしてあの恋人の方ですか?」
 ぼんっ!

 うわっ。
 先輩の顔があっという間に真っ赤になっちゃった!
 わぁ、わぁ、なんかすごい。

 先輩、顔を覆って身体を揺らしちゃってるよ。
 あはは、先輩ってすこしナイーブな人だからなぁ。
 こういうのに弱かったんだっけ。

「あ、あの、そのね。朝に、その…」
「あ、朝練してるんですね? 二人っきりで」
 ぽんっと手を叩いて。
 先輩、また一段と赤くなっちゃった。

「ふ、ふたりきりでって…あ、でも、あ、うー」
「へぇ、いいなぁ。恋人同士で練習なんて」
「い、いや、言わないでよぉ」
 先輩、ついにしゃがみ込んじゃいました。

「先輩、私も行っていいですか、朝練?」
「えっ!?」
 途端に、覆っていた顔を上げて露骨に困った顔。
 やっぱり。

「冗談ですよ、冗談。先輩の楽しみを邪魔するような野暮はしませぇん」
「こ、こらっ!」
「わぁい、先輩が怒ったー!」

 笑いながら駆け出した私を、先輩は怒って追いかけ続けるのでした。

 本気で怒ったみたいで、ずっと追いかけられちゃいましたけどね、へへ。


                             END




 でも、いいなぁ。
 私も、いつかは恋人と二人でって。
 憧れちゃうなぁ。

 先輩、朝の練習だけで優勝しちゃったんだ。
 …やっぱり愛の力って…偉大なんだなぁ。






                痕 書


 えー、葵ちゃん3年生の冬のお話です(笑)
 ついに浩之が卒業し、一人になったあと。
 まぁ、浩之は朝の練習だけには突き合い続けましたが、
 夕方はまた独りぼっちだったわけです。

 そんな中、記事で見て葵ちゃんに憧れた少女が、同じ高校に入り、
 エクストリーム同好会へと入ってきたわけですね。

 後輩に揶揄われる葵ちゃんが描きたくてね(笑)


 タイトルは、ありきたりな『愛の力』ではなく、『愛の為の力』です。


                        はぐ[multi@suki.net]


SSのお部屋に戻る   トップのページに戻る