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〜お父さんをよろしく〜
 …先輩が初めておうちに見えた日…

                 writed by Hiro
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「あぁ〜、よく寝たぁ〜」

日曜日の朝、お天気はバッチリです。
昨日の夜は早めに寝たので、目覚めもいいんですよ!

「さ〜て、お着替えしなきゃ」

『がちゃ』

「なに着ようかな…
 あのパーカーはお洗濯して乾いてないし…
 あ、これでいいや!」


「お母さん、おはよー」
「あぁ、葵、おはよう」
「お父さんは?」
「なんかねぇ、どこかに電話して、それから出かけちゃった」

どこ行ったのかな?

「葵、ご飯は?」
「うん、食べる」
「目玉焼き?それとも、スクランブルエッグ?」
「じゃ、スクランブルエッグ」
「トーストは?」
「ん〜2枚」
「飲み物ぐらい、自分で用意しなさいね」
「はーい」

ぼんやりと、今日の予定を考えてみる。
そうだ、道場へ行く日だ。
あれ、台所でお母さんが何か言ってるなぁ。

「あおいー」
「な〜に〜?」
「さっきね、道場の方から電話があって、今日はお休みだって」
「え?本当?」

予定、狂っちゃったな…

「はい、出来た。あなたね、少しはお料理ぐらいしたらどうなの?
 藤田君だっけ?彼でしょ?、時々お弁当作ってあげてるの。
 私に手伝わせてばかりじゃなくて、一人で作れるようにならないとマズイわよ。
 お料理なんて、経験がものを言うんだから」
「お、お母さん、彼だなんて…」
「なんか、勘違いしてない?」
「え?」
「だぁれも彼氏なんて言ってないでしょ?
 ははぁ〜…もしかして…あなた、藤田君のことを…」

なんでわたしって、こんな早とちりなの?

「まぁ、見ず知らずの男の子にお弁当を作ってあげるほど
 優しい子供に育てた覚えはないけどね」
「……」
「がんばりなさいよ」
「ご、ごちそうさま!」


お母さんったら、変なこと言わないでよぉ。
それより、困ったなぁ…これからどうしよう…
お部屋の掃除でもしようかなぁ…
と、いっても、この前したばかりであまり汚れていないし…

「そうだ、先輩!」

先輩をどこかにお誘いしてみようかな?

「早速電話してみよっと」


ピ・ピ・パ…トゥルルル…トゥルル…ガチャ!

「あ、もしもし、先輩ですか?わたしです。葵です!」
「は?あおい…さん…ですか?」

お…おかあ…さま?

「し、失礼いたしました。わたし、あ、あの、藤田先輩と同じ学校で
 あの、後輩で、その、松原葵と申します。藤田先輩はいらっしゃいますか?」

お母様、帰っていらしたんだ…
ぐす…知らなかったな…
それよりわたし、とっちらかってて…
あぁ〜!なにか変なこと口走ったかも…

「あぁ、松原さんね。いつもうちの浩之がお世話になっています」
「い、いえ!こちらこそ」

ふぅ、緊張するなぁ。

「松原さん、ありがとうね」

え?え?え?

「松原さんに、エクストリーム…だったかしら?
 それに誘っていただいたおかげだと思うのだけど、
 運動してお腹が空くのか、私の作ったご飯をたくさん食べてくれるの。
 私も滅多に帰ってこれないでしょ?
 だから、たまに作ったご飯をいっぱい食べてもらうと嬉しいじゃない。
 やはり母親として……だからね」
「いや、先輩がわたしにつきあっていただいているんです。
 お礼を言われてしまうと、かえって…
 あ、ところで藤田先輩はいらっしゃいますか?」
「え?あぁ、ごめんなさいね。
 浩之に女の子から電話なんて珍しいから…つい。
 あの子なら、出かけちゃったわよ。30分ぐらい前かしら…
 どこからか電話がかかってきて、それから」
「そうなんですか…」
「ごめんね、せっかくお電話いただいたのに。戻ってきたら連絡させましょうか?」
「い、いえ、結構です。
 あの…お電話を差し上げたことだけ、お伝え願いますか?」
「はい、わかったわ。伝えておきます」
「では、失礼いたします」
「さようなら」

はぁ〜、どきどきした。
それより先輩、いらっしゃらないんですかぁ?
寂しいなぁ。
仕方ないな、神社へいこう。
練習しなきゃ。


「いってきま〜す」
「葵、出かけるの?」

ちょうどお母さんが、お洗濯ものを抱えて廊下を歩いて来ました。

「うん、神社にね」
「藤田君も一緒?」
「違いますぅ!」
「ふ〜ん。じゃ、彼によろしくね」
「だから違うって…ねぇ!…あ〜あ、行っちゃった」

まったくぅ、人の話を全然聞いてないんだから…

「一人で練習か…はぁ〜」

神社へ向かう道です。

「あれ?先輩…かな?」

道路の向こう側に、先輩が歩いて行きます。
どこに行くんだろ。

「車がいっぱい通ってて渡れないなぁ。えーと、横断歩道は…うーん、少し遠い」

やっとの思いで渡った時には、先輩の姿を見失ってしまいました。

「どこへ行っちゃったのかなぁ。せっかく逢えると思ったのに…
 …神社へ行こう…はぁ」

練習は二時間ほどで切り上げちゃいました。
一人は寂しいです…



「ただいまぁ〜。お母さん、おなか空いたぁ〜」
「帰ってきていきなり『おなか空いたぁ〜』はないでしょ。
 そうそう…葵に、お・きゃ・く・さ・ま、よぉ〜」
「え?」

お客様…だれだろう…
お母さんの口調も気になるなぁ。長岡先輩みたい…
絶対になにか企んでる…

「今の言葉、聞こえたかしらねぇ…藤田君に」
「ふじた…くん?」
「大部分を私に作らせてるお弁当…」

きょとん…

「えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

まさか、まさか…

「ふ、ふじた…せんぱい?」
「あら、だれか他に藤田って名前の人知ってるの?」

ぷるぷる!

「さっきからお待ちかねよ」

なんでなの?
なんで先輩が…

「あ、お母さんね、お昼ご飯の買い物行って来るから…
 でもね、びっくりしたわよ。
 お父さんが帰ってきたと思ったら、一緒に連れてきてるんだもの」

わたし…固まってます…

「ほらほら、いつまでもこんな所に立ってないで…
 藤田君、お父さんと二人っきりだから、今頃は緊張のピークじゃないかな?
 いっけないんだ、葵。いつまでもそんな目に遭わせておくなんて…
 早くあがった方がいいんじゃないの?」

は!そうだ。行かなきゃ。
え〜ん、お母さん、そんないたずらっ子の目で見ないでよぉ!

「ほらほら、早く」


バタバタバタ…

「た、ただいま!先輩、見えていらっしゃったんですか?」
「やっと帰ってきたな。おかえり、葵」
「あお…じゃなくて、松原さん、おかえり。お邪魔してるよ(きら〜ん!☆)」

先輩…特に今日は歯がまぶしい…妙に爽やかだし…
それに、さりげなく手を挙げたつもりみたいだけど、まるでロボット…。

「お、お父さん!なんで?どうして藤田先輩なんて連れてきてるのぉ?」
「は、はは、松原さん、<なんて>はひどいなぁ。ははは…」

うぅ、先輩が怖い目をしてにらんでる…
あとで怒られちゃうだろうなぁ…

「あ、ごめんなさい…で、でも…お父さん…?」
「なんだ?」
「あの、だから、なぜ、ここに藤田先輩がいるのかなぁ?って…」
「ああ、俺が連れてきた」
「だからぁ、なんで!」
「理由か?理由なぁ…」

長年お父さんの娘やっているけど、未だにわからない。何考えているのか…

「どうしても言わなきゃだめか?」
「だ・か・らぁ〜!!」
「あ〜、わかったわかった。実はな…」
「実は?」
「藤田君の顔を見てみたかったんだよ」
「…え?」
「ん?藤田君の…」
「それだけ?」
「他に何か理由がいるのか?」

……………それだけ……?

「……お父さん…」
「なんだ?」
「たったそれだけの理由で、藤田先輩の都合も考えずに連れてきたのぉ!?」
「彼の都合なら聞いたぞ」

先輩の顔を見てみると…
『仕方ないだろ?葵ちゃんのお父さんだし…』と、目で訴えているような…
先輩、目が…潤んでますよ。

「とにかく!今すぐ、先輩を解放してあげて。さもなきゃ、縁切るわよ」
「あおい〜、そんないきなり…」
「みっつ数えるわよ…ひとーつ、ふたぁー…」
「あ、あお…じゃなくて、松原さん、いいじゃないか。
 ちょうどオレ…いや、僕もお父さまとお話がしたかったところだし…あは、ははは」

先輩…本気ですか?
ムリ…してません?

「ほら、彼もこのように言ってる事だし…お〜い母さん、ビール」
「お母さんなら買い物に行ったわよ。そ・れ・か・らぁ、昼間っからビールなんてだめ!
 ましてや、先輩にお酒なんて飲ませようと思っているなら、絶対許さないから。
 冗談抜きに縁を切るわよ。わかった?」
「こんな強気なところは、母さんに似たのかなぁ?」
「なぁに?なんか言った?」
「なぁ、藤田君。コイツと付き合う気なら、それ相応の覚悟がいるぞ…」
「聞いてるの!!!」
「は、はい!聞いてます」

どっちが親なんだろう?なんか、悲しくなっちゃったな。

「まぁ、いくら自分の意志じゃないとはいえ、せっかく来ていただいたんだから、
 お昼ご飯ぐらいはお出ししないと…」
「そうだろ〜」
「なにが『そうだろ〜』よ!」
「松原さん、そんな怒らなくても…お父さまも困ってるぢゃないか」

せんぱ〜い、どうしちゃったんですか?
日本語もおかしいし…<ぢゃ>ってなんですかぁ?

「ふ〜、お母さん、早く帰ってこないかなぁ」


「……」
「……」
「……」


なんか、やな雰囲気だなぁ。
お母さ〜ん、お願いだから早く帰ってきて…


「ただいまー」

やっと帰ってきてくれた…

「あ、お母さ〜ん、おかえりー」
「はい、ただいま。さあ、お昼の支度するからね。葵、手伝ってくれる?」
「はぁい」


「ねえ、葵」
「なぁに」

お母さんが、内緒のお話をするみたいな声で話しかけてきました。
わたしも、合わせるように小さな声で…

「私のいない間、どんな感じだったの?」
「もう、大変だったんだからぁ。お父さんったら何考えてるの?」
「くす。私もわからないわよ」
「何年一緒にいるのよぉ?」
「葵、人間なんてね、一生連れ添っててもわからないことはたくさんあるの」
「そんなものなの?」
「そんなものなの」

ふーん。そうなんだ…

「お父さんの目的って、何だろう?」
「さあねぇ。でも、なにか目的はあるんじゃないの?」
「目的も無く連れてきたとしたら、今度の練習の時に…
 サンドバッグ代わりになってもらうわ……」
「葵…」


「お待たせしたわね、藤田君。
 大した物は作れなかったけど、量だけはあるから…たくさん召し上がってね」
「は、ありがとうございます。遠慮なくごちそうになります」

うっわぁ!先輩ってば、めいっぱい緊張してる。
わたしも先輩のご両親にお会いしたら、あんな風になっちゃうのかなぁ?
そういえば、さっきは電話だけで、かなりどきどきした…
………ぷるぷる!
今は考えないでおこう…

「あおいー」
「……」
「葵!」
「え?あ、はい?」
「まだお料理あるわよー」
「はぁ〜い、運びま〜す」


「ねぇ、葵」
「なに?」
「結構、しっかりした子じゃない。礼儀正しいし」
「あ?あははは、ありがとう」
「で、どこまで進んだの?」
「ばばば、馬鹿なこといわないでよぉ!」
「な〜んだ、なんにもなし?あなた、女の魅力が足りないんじゃないの?
 体つきは相変わらず男の子みたいで、胸も無いしねぇ…」
「……お母さん」
「な・あ・に?」
「わたし、自分の両親に対して疑問を持ってきた…」
「どういう意味?」
「お父さんもお母さんも、何考えてるかわからないってことよ!」
「あらら、ずいぶんね」
「とにかく、お付き合いしてるわけじゃないの!
 そりゃね、お付き合いできれば嬉しいけど…」

後半、声が消え入りそうになっちゃいました…

「え?そうだったの?お父さんは、完全にあなた達の事付き合ってると思ってるわよ。
 あぁ〜そうか、そういえば、朝にそんな事言ってたわね。忘れてた」

…だんだん、力が…

「とにかく!お食事が終わったら、わたしが先輩を送って差し上げる。
 この貴重な休みを、あなた達二人のために潰されたら、先輩に申し訳ないわよ!」
「えー、なんだぁ、午後からゆっくりとお話が出来ると思ったのに…」
「なぁ、母さん、ビールをく…」
『ぎろ!』
「れじっとかーど……っと。葵…そんな目で見なくても…」
「ねぇ、お父さん」
「え?なにかな?」
「その、みえみえなごまかしはやめて。
 なによ、その『ビールをくれじっとかーど』ってのは?それから…」
「ん?」
「な・に・を」

『すぅぅぅ』

「考えてるのよぉぉぉ〜!!!」
「うわぁ!」
「だいたいねぇ、さっきも言ったと思うけど昼間からお酒はだめって言ってるでしょ?
 どーせ、先輩に飲ませて何かよからぬことをするに決まってるんだから」
「なぁ、葵」
「なによ!」
「少しは、お父さんの話を聞いてくれないか」
「話してごらんなさいよ」
「父さんはな、葵の付き合っている相手がどんな人間かじっくり観察したかったんだ」
「ほ〜ら、お母さんの言ったとおりでしょ?」
「お母さんは黙ってて!第一、わたしと先輩はそんな関係じゃないの。
 お父さんとお母さんが勝手に暴走してるだけじゃない。
 変な誤解はしないでほしいの。わかった?」
「へ?付き合って…ないのか?」
「そうなの!」
「そうなの!って葵、おまえ、口を開けば藤田先輩、藤田先輩ってそればかりだから
 お父さん、てっきり…」
「だって、学校の先輩だし、同好会の仲間だし…」
「それだけか?」
「…それだけ…なの!」
「え?でもな…」
「でも、なに!?」
「さっきな、彼がいきなり椅子から降りて正座したと思ったら、
『お父さん、僕と葵さんの交際を、ぜひ認めて下さい。お願いします』って、
 床にこすりつけるほど頭をさげてきたぞ」

え?え?え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!

「ちょちょちょちょっとぉ、お父さん、それ本当?」
「こんな事でウソついてどうするんだ?」
「で、なんて答えたの!?」
「うん…まぁな、結構良い青年だし、俺のわがままでおまえに嫌われたくないから
 一応…OKは出しといた」
「お父さん、私にも一言ぐらい相談してくれても…」
「なんだ、母さんは反対なのか?」
「ん、違うわよ。私もその場にいたかったなぁって」
「おぉ、それは悪い事したな。じゃ、次回に…」
「こんな事、何度もあったら困ります。それでビールなの?」
「そうなんだ。めでたいと思ってな」
「それもそうね」
「だろ〜?」

なにそれ?
なんて脳天気な親なんだろう…
は!そんなこと考えてる場合じゃないんだ。

「先輩の所に行ってみる!」


『ガチャ』

「せせせせ、せんぱい!」
「あ!…あお…いちゃ…ん」
「お父さんから聞きました。
 確かに嬉しいです。嬉しいですけど…
 順番が逆じゃないですかぁ!
 わたし、先輩からなにも言われてない…
 わたしの気持ちも先輩に伝えてない…
 なのに、なのに…」
「ゴ、ゴメンな。成りゆき上、こんな風になっちまった」
「絶対、ヘンですよぉ」
「うん…確かにヘン…だな」

もぉ!先輩まで…

「…して下さい」
「え?」
「告白して下さい」
「……」
「わたし、先輩の口から直接聞きたいんです。
 間接的には聞きたくありません。
 ですからこの場で…あの…わたしに…」
「葵ちゃん…」
「お願いします…」
「……ん…わかったよ。
 じゃ、言うぞ。ごほ!
 あ、葵ちゃん、オレと付き合ってくれないか。
 絶対幸せにするから。
 これでいいか?」
「…はい。よろこんで……」

『ガチャ』

「ちょっと、いいか?」
「お、お、お、お父さん!いつからそこに…?」
「あ…あぁ、『じゃ、言うぞ。ごほ!』あたりかな」

それって、全部…
あ〜ん、聞かれちゃったよぉ…

「なによぉ〜、聞いてたのぉ…」
「ん〜、入るタイミングを失ってな」
「葵、私も聞いてたわよ」
「……お母さんまで…」

先輩は…?
あ、だめだ…凍ってる。

「いや〜、せっかく母さんが作ってくれた料理が冷めちゃうんで、こちらに来たんだが
 まさかなぁ、こんなお約束の展開になるなんて…な」
「あら、私はわかってたわよ」

なによぉ…その『お約束』ってのは…

「ま、とにかく、料理もあることだし、今日はめでたいということで、乾杯しよう。
 な、な、母さんから許可ももらってビールもあるぞ。いやー、めでたい」

ど、どうしてこうなるのよぉ〜


で、なし崩しに宴会に入っちゃいました…

「さ、藤田君、一杯やりたまえ。いけるクチなんだろ?」
「い、いや…僕はまだ、未成年なもの…」
「ハ〜ハ、ハ、ハ、ハ〜!何言ってるんだきみはぁ!
 今日はお祝いなんだぁ!少しぐ…」

……お父さん、完全に出来上がっちゃてる…

「ねぇ、お母さん」
「なに?」
「ちょっといい?」


「どうするつもりなのよぉ?お父さん、あんなになっちゃってる」
「お父さんに、訊いてみたら?」
「もぉ!」

…お父さん、ずっと御機嫌でした。

「ねぇ、そろそろ先輩を解放してあげて。遅くなっちゃったよぉ」
「お?そんな時間か?藤田君、なんだったら泊まっていくか?
 今宵は、男二人でじっくり飲み明かそう」
「だめぇ〜!!!明日は学校があるの!先輩にご迷惑がかかっちゃうでしょ?」
「そ〜かそ〜か、それは残念だなぁ」
「さぁ先輩、そろそろおうちに戻りませんと、お母さまが心配なさると思いま…」
「なに!?お母さま?俺も一緒に行ってご挨拶しなきゃな。ウチの葵をどうぞよろ…」
「お父さん!」




「…せんぱい…」
「……」
「大丈夫ですか?」
「……う、うん。少し酔ってる…」
「ごめんなさい。うちのお父さんったら…」
「いいよ。別に悪気があってのことじゃないんだろうし…」
「本当にごめんなさい。あ、そういえば……」
「なんだい?」
「なぜ、今日お父さんと?」
「あぁ、朝っぱらからいきなり電話がかかってきて
『松原葵の父親だが、ちょっと話を聞きたい。駅前の喫茶店で待ってる』
 なんて言われちゃってな。ビックリしたよ」
 
じゃあ、朝見かけたのは、お父さんとの待ち合わせ場所に行かれる途中だったんだ…
 
「……」
「気にするなよ。オレも楽しかったし」
「……」
「葵ちゃん?」
「今度の練習……サンドバッグ…」
「え?」
「あ!い、いえ!何でもありません」
「ははは、でもな、怪我の功名かもな」
「?」
「だってさ、経過はどうあれ、オレも本心を打ち明けられたし…だろ?」
「それもそうですね…」
「お父さんに感謝しないと。少なくともオレは感謝するぜ」
「わたしも感謝しなきゃいけないですかぁ?」
「そうそう、感謝しなきゃ…な」
「はい!」
「じゃ葵ちゃん、もうここまで来れば大丈夫だから」
「はい、お気をつけて」
「あ!そうだ、葵ちゃん」
「はい?」
「忘れ物しちまった」
「え?もし今日必要ない物でしたら明日お持ちしますけど…」
「いや…今すぐじゃないと…」
「それでしたら、すぐもどら……あ…」

せんぱい…

「……ん」

いきなりキスなんて…ビックリしちゃいますよ…

「な?今すぐじゃないと…
 まさか、明日学校でなんてわけにはいかないだろ?」
「……」

わたしったら、言葉を失って…

「じゃ、葵ちゃん。おやすみ」
「…は、はい!おやすみなさい」




「ただいまぁ…」
「おかえりぃ」
「…ふぅ、今日はお疲れ様でした」
「葵も疲れたんじゃないの? あ、もっと疲れている人がいたわね」
「まさ…か?」
「そう、そのまさか…よ」

そうなんです。一番疲れている人は…

「お父さんったら、あれから一人で飲んでてね、ずっとひとりごと言ってたわよ。
『葵も生長したなぁ…』とか、いろいろね…」
「……」
「ちょっと、淋しそうだったけどね」
「おとう…さん…」
「お父さんに、おやすみなさいを言ってきなさい」
「……はーい」


コンコン

「お父さん、おやす…」

お父さん、もう寝ちゃってました。
酔いつぶれて…
目尻の所に、何か光るものがありました……

「あらあら、こんなとこで… お父さん、風邪ひきますよ」
「お母さん」
「なに?」
「今日はここで寝かせてあげましょ。もう5月だから、大丈夫だと思う」
「そうね、動かすのも大変だし…」
「じゃ、わたし、お布団持ってくる」
「お願いね」


「…お父さん…ありがとね」


「はい、掛け布団」
「ん、ダンケ」
「お母さん、それドイツ語だよ。なんで知ってるの?」
「あら、私、若い頃にドイツに留学していたのよ」

…うそつき…まだ、日本から出たことないって昨日言ってたばかりじゃない。

「さ、もう寝ましょ。それともお風呂に入る?」
「さすがに今日は疲れたから…」
「だったら、火の始末お願いね」
「は〜い」



『ざばぁ』

「はぁ、変に疲れた一日だったなぁ。先輩、ちゃんとおうちに着いたかな」

先輩、今日はいろいろとありがとうございました。
わたしのお父さんのおかげで、散々振り回されちゃいましたよね。
改めて…ごめんなさい。

そして、お母様によろしくお伝えください。
もしかしたら変な子と思われたかも知れません。
フォローお願いしますね!

あと……
こんな父親ですけど、愛想を尽かさないで末永くおつきあいしてやってください。

最後に。
明日は二日酔いみたいな顔で来ないでくださいね。
みなさんに、お酒飲んだことばれちゃいますよ。

「おやすみなさい、先輩。明日もよろしくお願いします!」


                                おしまい
                                                               


 あとがき

みなさん、こんにちは。Hiroでございます。
6作目、お届けいたします。

…もう、タイトルのことは何も言いますまい…

今回は目先を変えて、素顔の葵ちゃんと、脳天気なご両親をテーマに書いてみました。
うまく描き切れていましたでしょうか?
実は、掲示板を読んだ方はご存じかと思いますが、ちょっとした悩み事がありまして
悶々としている時がありました。
そこで、気分転換といいますか、ストレス解消代わりといいますか、
(どちらでもいいのですが…)な〜〜〜んも考えないで書いた作品がコイツです。
気楽に読んでいただいて、笑いとばしてくだされば嬉しく思います。

で、内容です。
素の葵ちゃん……いいです(謎)
自分で書いててこんな事言うのも変ですが……
ただ、ちょっとばかり怖いです。
なんたって、『人間サンドバッグ』だもの(笑)
浩之君も気をつけていただかないと、神社の木にぶら下げられそうです。^_^;

あと、おうちの中でも「葵ちゃんはつよ〜〜〜〜い!」です。
ただし、お父さんに対してですけどね。
お父さんだって、葵ちゃんに親子の縁を切られたら辛いでしょう。
逆らわない方がいいですよ。
お母さんは、マイペースでコレはコレでOKと。
もしかすると、松原家で一番強いのはお母さんかも?
いろんな意味で…

今回、あまりラブラブなところはほとんどありませんでした。
もし、もしも期待された方がいましたら…ごめんなさい。
ただ、後半のほうに、ちょびっとだけ。
コレで勘弁してください。

変な日本語で申し訳ないですが、この作品のあとがきの最後に。
ちょっと私信です。(あとがきに私信って書いて良かったでしょうか?)
はぐさん、お世話様でした。
かなり気楽になり、少しだけ自信がつきました。
実は、この作品を発表するきっかけを作ってくれたのは、はぐさんです。
少なくとも私はそう思っています。(きっぱり!)
ただ…はぐさんご本人がそう思ってくださるかは別ですが…
とにかく、この場でお礼を申し上げます。
『ありがとうございました』


で、話は変わりまして。
5作目のあとがきです。
変に長くなった理由…
来栖川先輩ってば、何もしゃべってくれないんだもの。
他の人に代弁させたらこんなになっちゃいました。
もう少し何とかできれば良かったのですが…

あと、ほんの少しだけ15禁がはいってます。(今頃言うなって)
なるべく抑えましたが、いかがでしょうか?

しつこいくらいのセバスチャンとの確執。
私ってば、セバスチャンのこと嫌っているかも…
潜在意識でのレベルで。
なんたって、【じじい】の連発ですから。^_^;

いつのまにか、綾香がメインになってしまいした。
当初は、来栖川先輩のつもりだったんですがねぇ。
へんです……

まだ書きたいことはいっぱいありますが、長くなりそうなんでこれにて。

お疲れさまでした。


                        1999年5月 自宅にて Hiro


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