＜悩める女の子＞
…しまった…そうだったんたぁ…。
土曜の夕方。私はうちに帰る途中でそう思った。「おれ、今度の月曜が誕生日なんだ」
練習の最中の先輩の何気ない一言。でもその言葉は私の背中に重くのしかかった。
先輩はいつでも私に優しくしてくれるし、大切に想ってくれている。でも私はそんな先輩に何もしてあげることができてない。「葵ちゃんのことが好きだからそうしてるんだし、気にしなくってもいいよ」っていってくれたってやっぱり気になるし。一度だけお弁当を作っていったことがあるけど、それっきりだもんなぁ。
で、誕生日ともなればいいチャンスだ。日頃の恩返しになにかプレゼントでもあげればきっと先輩も喜んでくれるだろうなぁ
って思ったし。でも…先輩の誕生日って知らなかったんだよなぁ…。なんか私から聞くってのも恥ずかしいような、見え見えなような気もして何か聞けなかった。今考えればそれが失敗だったなぁ…。まさか明後日だとはなぁ…。
…何をあげたらいいんだろうなぁ…さっき聞いておけばよかったなぁ…。変な物あげるわけにもいかないからなぁ…。そんな男の人にプレゼントなんて初めてなんだもんなぁ。
…どうせならいきなりあげて…って先輩も期待してるんだろうな、きっと。だっていかにもそんな感じの言い方だったし。それならいっそ先輩に直接聞いちゃおうかな？
「…浩之は今出かけてますけど…遅くなるっていってましたよ」
…なんでこんなときにいないんだろう…。…そうだ、電話で他の人に相談してみようかな？
「そうですね…動物なんかは結構好きみたいですけど…」
「えーっ！！ そうなんですかぁー！ 私も用意してないですー！」
「馬鹿ねぇ。『私ももらってください』とでもいっておけばいいのよ」
「………」「え？いい薬がありますよって？」
「そんなこと私に聞くんじゃないっ！！」
…参考になったような、ならなかったような…。仕方ないなぁ。明日町を歩いて探してみよう。…あんまり得意じゃないんだけど、先輩のためだからねっ。
うーん…こういうところってあんまりこないからなぁ…やっぱりよくわかんないなぁ。これがいいのかなぁ…でもなんか先輩には似合わないような感じがするなぁ。うーん…。
さんざん回ってみたけど、やっぱり私じゃよく分かんない…。どうしよう…何をあげたらいいんだろうなぁ。
…スポーツショップかぁ。こんなところにプレゼントなんかなぁ…。
あ、ウレタンナックル…そういえば先輩まだ持ってなかったっけ。サンドバッグ殴ったあととかよく痛そうにしてたっけ。まだ実戦をやるわけじゃないからいいやっていってたけど、拳を痛めてからじゃ遅いし…そうだ！
…買っちゃったなぁ。なんか誕生日プレゼントって感じじゃないなぁ。でもきっとこういうのの方が私らしいかも。きっと先輩もそう思ってくれるよね。大丈夫ですよ、先輩。ちゃんと私の愛はこもってますからね…って何考えてんだろ、私。
さて、後は渡すだけ、練習の時にでも…って明日休みじゃない。どうしよう…そうだ、一緒にお弁当でも作ろうかな。そして昼休みに渡しちゃえばいいし。となると明日は早起きしなきゃ。
昼休み…先輩、まだ教室にいるかなぁ？何もいってなかったし、これでいなかったら悲しいなぁ…あ、先輩だ！
「先輩！ お誕生日おめでとうございますっ！！」
＜終＞