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       MissingFirstLove
                  EndingStory

                           write : M.Hagu


「先輩。藤田先輩じゃないですか?」

 偶然。

 そう、偶然、大学時代の先輩の家を訪ねた帰り道。
 私は藤田先輩に会ったんです。

 私の記憶に間違いがなければ2年ぶりです。

 2年前、私が高校3年生の秋。
 綾香さんを破ってエクストリーム大会で初優勝した時にお祝いをして頂いて以来 です。

「え? おっ、葵ちゃんじゃないか。久しぶりだな」
 振り返ったその人はやっぱり先輩でした。
「お久しぶりです、先輩」

 まるで高校時代に戻ったように感じますね、こういう時って。
「あいかわらず頑張ってるな、葵ちゃん」
「はい、ありがとうございます」
 良かった、先輩に見て頂いてるんだ。
 ずっと会っていなくても、エクストリームや復帰した空手の試合を知ってい るんだって、そう思ったらすごく嬉しいです。

「そういや、最初の優勝のとき以外は、お祝いしてなかったな。悪い」
「え? いえ! そんなことないです。お祝いだなんて」
 応援していただけるだけで私は嬉しいですから。

「そうだ、お祝いってのにはあれだけどさ、そこの喫茶店でいろいろ話さない か?」
「え? はい、先輩さえよろしければ」

 そして、私と先輩は喫茶店で一休みすることになりました。

「しかし、今や綾香さえも敵じゃなくなってるなぁ」
「そ、そんなことないですよっ。いつもいつもギリギリの差ですよ」
 テーブルに座ると、先輩がしみじみと呟いたので、驚いちゃいました。

「エクストリーム3連覇の女王が謙遜しちゃって」
「や、やめてくださいよぉ。私、そんな…」
「ははは、ごめんごめん。葵ちゃんはこういうの嫌いだったな」
 慌てる私を、先輩は笑って。

 あぁ、先輩の笑顔だぁって。
 当然の事なんですけど、その当然が懐かしくて嬉しかったです。

「そ、そういえば、先輩は大学のほうは…」
「休学中」
 訊ねた瞬間に即答です。

 …え?

「休学って…休んでるんですか?」
「いろいろあってな、働いて稼がなきゃいけなくなったからな」
「留学でもするんですか?」
 私、自分で言って、それは嫌だなぁって、心の中で呟きました。
 その心の呟きに、自分自身で驚いたんですけど。

 まだ、先輩の事好きなんだぁって。
 高校の時、先輩に抱いた恋心。
 でも、先輩には神岸先輩がいて。
 私は、ただの後輩で、想いを伝えることもできなかったんですよね。

 そんな先輩が、ここよりももっともっと遠い場所にいくのは、やっぱり淋し いです。
 この2年会えなかったけれど、先輩が外国に行っちゃえば、そっちの方が淋 しいです。

 けれど、先輩からの回答はもっともっと驚いちゃうないようでした。
「ちょっと結婚費用と、出産費用がいるんだよな」

 苦笑いしながら、お水に口をつけた先輩。

 …けっこん? …しゅっさん?

 でも、私はそんな先輩とは対照的に頭が真っ白です。
「結婚って…誰がですか?」
 分かってる答え。
 でも思わず訊ねてしまいました。

「誰って…人様の結婚費用出すヤツはいないぞ」
 そう言って笑ってる先輩。

「先輩…結婚するんですか?」
「あぁ、この夏にな」
「相手は…やっぱり…」
「そ、あかり」
 先輩、顔を真っ赤にしながらまた水を飲んでる。

「あ、その。お、おめでとうございます…」
「ありがとな。まぁ、本当は就職してからって思ってたんだけどな」
 ぽりぽりと頭を掻いててれてます。

 そこまできて、やっとホントに先輩が結婚する事を実感して。
 淋しさと、ちょっと嬉しさ。

「そう言えば、さっき出産費用って…もしかして」
「まぁ、いわゆるできちゃった結婚ってやつだな」
「わぁ、おめでとうございますっ!」
 先輩の子供が出来たって聞いて、初めて嬉しさが占めました。
 そこから、心からお祝いできたんです。

「先輩が結婚なんですね。ちょっと、淋しいです」
「ははは、まぁ結婚って言った所で、あまり変わる気しないんだけどな」
「そうなんですか?」
「もう、今俺の自宅に住んでるしな」
「へぇ」
 先輩とあかりさんの幸せな生活。
 想像してみたら、すごくお似合いですね。

 でも、その想像は前はあかりさんの代わりに、そこに私がいたんですよね。
 そう思うと、また淋しくなります。


 その後も、しばらくの間談笑してから家を出ました。

 先輩は駅まで私を送ってくれて。
 こういう優しさは昔のままですね。
 私の大好きだった先輩の。

「先輩、お幸せに、ですね」
 お別れの挨拶。
 今度はいつ会えるんだろう?
「おう、ありがとな。招待状、葵ちゃんとこにも出すからな」
「はい、ぜひっ!」

 でも、結ばれることはもうないんですね。
 ただの高校時代の先輩と後輩で変わることがないんです。
 これが…最後のチャンスかも知れない。

 そう思ったら、止まらなくなりました。

「それじゃぁ、また、な」
「………」
「ん?」
「あ、あの、先輩」
 気がついたら、先輩の背中の服を握って。

「どした?」
「高校の頃、私、先輩の事好きだったんですよ」
「え?」
 自分でも、わかりません。

 もう結婚してしまう人に、どうしてこんなこと言うのかなって。
 でも、今言わなきゃ、二度と言えないから。

「先輩が同好会に来てくれたあの日からどんどん惹かれて、好きになってたん ですよ」
「…葵ちゃん」
「先輩がいたから、頑張れたんです」

 今、私どんな顔してるんだろう?
 自分じゃわからないですね。

「今、こうして頑張れてるのも先輩のお蔭なんです。先輩が大好きだから、だ から私、頑張れたんですよ」
 自分で自分がおかしくなっちゃいます。
 何を言ってるのか全然分からないんですから。

 でも、これが正直な想いです。
 ずっと秘めてきた叶わない想い。

「知ってたよ」

 伝えられなかった…え?

「気付かないわけないだろ? 葵ちゃん素直なんだからさ」
 そう言って、優しく頭を撫でてくれる。
 高校時代と変わらない手の温もりを感じます。

「そ、そ、そうなんですか…」
 ちょっと拍子抜けしちゃいました。
 だって、知ってるだなんて、そんな素振り一度も…。

「でも、ごめんな。俺にはあかりがいるからさ」

 いたから、じゃなくて、いるから。

 気付かれてる。
 今も好きなんだって事。

 あはは、敵わないなぁ、先輩には。

「あは、先輩、ありがとうございます。それを聞いてすっきりしました」
 ずっと言えなかった言葉を伝えたこと、伝わってたこと。
 なんだかほっとしました。

「ははは。まさか、今告白されるとは思いもしなかったけどな」
「えへへ。ごめんなさい、先輩」
 ぺろっと舌を出して戯けてみせました。

「葵ちゃんにも、そのうちもっといいやつ見つかるさ」
「えー、先輩以上にいい人なんていませんよっ」
 そう言ったら、先輩が恥ずかしそうに頭を小突きました。

「よせよ、そういうこと言うのは」
「だって、だから先輩が好きなんですよ」
「…ありがとな」
「え?」
「いや、なんとなくな」

 それからしばらく、何も話さずにただ、そこにじっと立ち尽くして。
 お互いに照れ笑いで微笑み合って。

「そ、それじゃぁ、俺、帰るな」
「あ、はい。今日はありがとうございました、先輩」
 先輩の一言で、私もはっとして。

「それじゃな、結婚式、来てくれな」
「はい。絶対に!」
「おぅ、じゃぁな。葵ちゃん」
「はい、また、ですね、先輩。…それと」
「じゃぁな」

 先輩は駅舎から信号の向こうへ走って渡っていく。
 昔ずっと追い続けてた、その広い背中を見つめながら。

「さよなら、ですね。私の初恋の先輩。お幸せに」

 4年間思い続けた初恋とのお別れをしたんです。


                             END



追伸

 2週間後、私の元に一通の手紙が届きました。
 先輩と神岸先輩の結婚式への招待状。

 返信葉書にはもちろん…










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                痕 書
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 久方の松原葵SS、『MissingFirstLoveEndingStory』でした。

 えー…分かる人には分かりますが、あの結婚式の直前の話です(笑)
 分からない人は、おいらの『やさしいひかりにつつまれて…』を 読んできましょう(笑)
 いや、よまなくてもいいけどさ(笑)
  #みるくちーRoom[http://milk.tea-room.ne.jp/]

 妊娠が発覚して、大学を休学して、仕事帰りの浩之と、 偶然その近くを訪れていた葵ちゃんが出会ったら。
 そんな設定で書いてみました。

 久しぶりなので、葵ちゃんちょっと変になったな(笑)

                        はぐ[multi@suki.net]


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