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       大事な人

                    writed by korede
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 その日は…雨だった…
  ザー  ザー  ザー  
 「こんなんじゃ、今日は何も出来ないな。」
 「そうですね。」
 お昼から降り続いた雨はまだ止んでいなかった。
 「ここに居てもしょうがないから、今日の練習は中止にして帰るか。」
 「…はい、しょうがないですね。」
 私達はその日の練習を諦め、帰ることにした。
 いつもの石段を降りて行く…
 「明日…大会なのに、ちょっと…不安だな。」
 「ダイジョーブだって。今日まであれだけ練習してきたんだ、不安になることないよ。それより、もっと自分に自信をもてよ。葵ちゃんは強いんだから。」
 「…せんぱい。」
 先輩は…私にとって、もうなくてはならない存在になっていた。
 片時も離れたくなかった。
 けれども、いつもの分かれ道に来てしまう。
 「それじゃ、葵ちゃん。明日はがんばんだぞ。じゃあな。」
 「はい、さようなら、先輩。」
 そういって、先輩と別れ、帰路に着こうとした、その時、
 
 キキキキキキキキィーーーー、ガシャアーーーーン!
 
 その音に私は驚き振り返った。嫌な予感がした。
 「…せん…ぱい?」
 そこには一台のトラックが壁に衝突していた。私は恐る恐るそこに近づいていった。嫌な予感が大きくなっていった。そして、ふと、その数メートル先を見ると…

 ……紅く…


 ……血まみれになった身体が……


 「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 
 ザー   ザー   ザー  

 私の叫び声は雨にかき消されていった……


         ・

――――ピッ、ピッ、ピッ、
 部屋の中に電子音が響く…
 今、私は病院の一室にいる。
 「…せんぱい…」
 「……」
 あの日から先輩はずっとこの状態だった。
         
―――――「…先生!せんぱいは、藤田せんぱいは!?」
 「…命に別状はありません。」
 「本当ですか!?よ、よかったぁ」
 「――――ですが、」
 「え?」
 「いつ意識が回復するかわかりません。頭を相当強く打っていました。」
 「そ、それっていつかは意識が戻るってことですよね?」
 「……」
 「…先生?」
 「…一年。一年の間に意識が戻らないときは――――」
 「…戻らないときは?」
 「―――命に関わります。」
 「!?」―――――
  
―――――今日でちょうど一年が経つ…
 「…せんぱい、今日は大会の日ですね。去年は前日に…あんなことになっちゃって、私も気が気でなくなっちゃって、結局、出ませんでした。折角、先輩があんなに練習に付き合って、そして、応援して下さったのに…」
 「……」
 やはり先輩は何も答えない。
 「…でも、それじゃあ先輩に悪いと思って、今年は出場することにしました。綾香さんと一緒に一年間みっちり練習しました。今日は綾香さんにも勝つつもりで頑張ります。ですから、ですから…」
 先輩の…動かない手をぎゅっと握る、
 「先輩も頑張って下さい!そして、私の試合を見に来てください!」
そういって、私は病室を後にした。
        
 大会会場。
 私は初めてここに来た。
 大きい…とても…。ここに大勢の人が来て私達の試合を見に来ると思うととても不安になってきた。
 「…せんぱい」
 無意識に声が出る。するとその時、
 ポンッ
 「やあ、葵。」
 「あ…綾香さん…」
 「なんか暗い顔してるわね、どうしたの?」
 「あっ…いえ…」
 「緊張してるのね。まあ、初めてだからしょうがないか。でも、いままで頑張ってきたんだから大丈夫よ。もっと自信を持ちなさい。」
 ―自信を持つ―か、先輩と同じ言葉だ。それを訊くとなんだか元気がでてくる。
 「…はい!」
 「よーし、それじゃ行くわよ。」
 「はい!」
 そうして私達は会場へ入っていった。

 一回戦、
 「さあ、とうとう始まりました!第6回異種格闘技選手権大会!早速、第一回戦、いってみたいと思います!赤コーナーは前大会第三位の池田明子選手!対して青コーナーは今大会初出場の松原葵選手!それでは、始めてください!」
 …とうとう始まる
 「レディ…」
 シーン
 会場が静まり返る。
 「…ファイト!」
 ワァァァァァァ
 再び会場が沸く。
 「はあっ!」
 相手が先手を打ってきた。だけど、遅い。綾香さんに比べたら全然遅い。
 スッ、
 「なに!」
 バシィィィィィィィン、ドタン、
 「……」
 再び静まり返る。
 バッ、
 「勝負有り、K.O!勝者、松原!」
 ワァァァァァァァァァァァ
 えっ…私…勝ったの?
 「やったじゃない!葵!」
 「…綾香さん!やりました!」

 ―――そんな調子で私は決勝戦までコマを進めていった。

 そして、試合直前、
 「いよいよね、葵。」
 「……はい。」
 「もちろんだけど、手加減は…無しよ。」
 「……はい、わかってます。」
 「?、どうしたの?葵。」
 「…だめなんです。緊張して、手足が震えるんです。」
 自分で言う通り、私の身体はガタガタ震えていた。
 「まさか、今になって?もう時間がないわよ。一体どうしたのよ?さっきまで全然大丈夫だったじゃない。」
 「……」
 「ああ、こんな時に浩之がいてくれたら…」
 「…せんぱい」
 そうだ、先輩はどうしたんだろう。やっぱり無理だったのかな。と、思ったそのとき、
 ワァァァァァァァァ
 「とうとうやってきました!決勝戦です!今大会ルールにおいて、決勝戦は2ラウンドまで行います!それでは、選手をご紹介しましょう!赤コーナーは前大会の優勝者であり、今回も圧倒的な強さで勝ちあがってきました、来栖川綾香戦手!対して、青コーナーは初出場とは思えない強さを見せ付けた、松原葵選手!さあ、一体この勝負、どうなるのでしょうか!それでは、いきましょう!」
 
 「両者、構えて!」
 シーン
 「レディ…」
 「……」
 「……」
 「…ファイト!」
 ワァァァァァァァァァァ
 会場がいままで以上に沸く。
 ――スッ
 綾香さんが一瞬で目前に迫る、そして、
 シュッ、シュッ、
 バシッ、バシン!
 「…くっ」
 ボディにモロに入った。そのまま綾香さんは攻撃の手を休めなかった。
 バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、
 「…うっ、くっ」
 なんとかガードするだけで精一杯だ、反撃が出来ない。おまけに動きが全然見えない。
 「どうしたの?それがあなたの力なの?」
 っと、突然攻撃が止んだ、と思いきや、
 バシィイイン
 「!」
 再びボディにクリーンヒットした。
 私は倒れそうになる身体を必死に支える。
 「はあああ!」
 さらに綾香さんが追い打ちをかけようとした、そのとき


 ―――――葵ちゃぁぁぁぁぁん――――――

 「え!?」
 「え!?」
 二人の動きが止まる。そして、声のしたほうを振り向くと、
 「…せん…ぱい?」
 「…浩之?」
 カン、カン、カン、カン、カァン
 丁度その時1ラウンドが終了した。
 私は慌ててコーナーに駆け寄った。向こうからも先輩が来た。
 「せんぱい!せんぱい!よかった、意識が戻ったんですね。」
 「おっす、久し振り、葵ちゃん。」
 「…よかった、ほんとによかった…」
 「おいおい、今はまだ試合中だろ?喜ぶのは後にしようぜ。それより、あんまり力が出てないんじゃないのか?また緊張してんだろ。」
 「…はい。」
 「葵ちゃん!!」
 「は…はい!」
 ペシッ
 「えっ?」
 「葵ちゃんはつよーーーーーーーーーーーーーい!!!」
 「あ……。」
 そうだ、これだ、なにかが足りないと思っていた。この言葉にいつも勇気付けられていたんだ。
 「大丈夫だな。よし!いってこーい!」
 「はい!」
 その瞬間私の中から力が溢れ出てくるのがわかった。
 カァーーーン
 2ラウンドが始まった。
 「せぇい!」
 ブゥン、
 綾香さんがすぐに仕掛けてきた。やはり、速い。だけど今度は…見える!
 スッ
 バシィィィィィィィィン
 「ああっ…」
 私の拳がモロに入った。綾香さんがよろめく。そして…
 
 フゥォン、
 
 バシィィィィィィィィィィィィィィィン!

 ドシャア!


 …完璧に上段回し蹴りが入った。決まった。
 バッ
 「勝負有り!K.O,勝者、松原!」
 「…や…やった、綾香さんに…勝った…。」
 そして、コーナーの方を振り向き、
 「せんぱい!やりました!とうとう、とうとう綾香さんに勝ちました!」
 ところが、先輩は俯いてイスに座ったまま顔を上げない。
 「…せんぱい?」

  …ズルリ    …ドサ

 「せんぱい!?」
 慌てて駆け寄る。
 「せんぱい!せんぱい!」
 「……」
 「せんぱい!目を開けてください!一緒に喜んでください!さっき、『喜ぶのは後にしよう』って言ったのせんぱいじゃないですか!」
 「……」
 「…おねがい…おねがいですから…目を…目を開けて…ください…」
 「……」
 「……せんぱああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」


 …………その後、先輩の目が開くことは二度と…なかった………



          ・
          ・
          ・ 
          ・
 ――――――二年後…
 「せんぱい…」
 私は「先輩」の前で呟いた。
 「…私、今度綾香さんとアメリカに行くんです。格闘技の修行にいってくるんです。だから…今度いつこうしてせんぱいの所にきてあげられるかわかりません。
…でも、せんぱいはいつもどこからか私を見てくれているんですよね。あの日のように……」
 「葵〜〜〜〜、そろそろ行くわよ〜〜〜〜。」
 「あっ、は〜い。」
 私は手を胸に当て、心の中で呟いた…


 ――――せんぱい、大好きでした。いつまでも、いつまでも忘れません。――



 ――――俺も、葵ちゃんのこと、いつまでも忘れないぜ―――――
 
 「えっ?」
 空耳?
 ……いや、確かに聞こえたせんぱいの声。
 そうだ、先輩はどこかで見てるんじゃない。私の一番近く…私の中にいつもいるんだ。
 「…せんぱい。」
 そう、あの私を見守る優しい目で、
 いまも…これからも…
 
 そして…

 いつまでも…ずっと…


                           Fin


  

後書き

 どーもはじめまして、koredeです。どーでしたか?
自分はSS書くのは初めてだったんですけど、皆さんの目からみてどーだったんでしょうか。是非、感想をお聞かせ下さい。
 それでわ、次の作品でも書くか…。

                      おしまし 

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