坂下その2「誕生日2」

「ハッピーバースデー、葵ちゃん」
「おめでとう、葵」
「またひとつ大きくなったわね、葵」
「ありがとうございます。藤田先輩、坂下先輩、綾香さん」
 葵は悪ぶらず、自分の誕生日を祝ってくれる3人にお礼を告げた。
「私、もっともっと強くなりますね!」
「そうそう、その意気を忘れちゃダメよ」
「そんないい子の葵ちゃんに、俺からのプレゼント」
 浩之は小さな包みを差し出してみせた。
「わぁ!私なんかにですか?ありがとうございます!」
「それで、私からはこれね」
 綾香も同じように、今後ライバルとしてその名を轟かすであろう後輩にプレゼントを渡し祝した。
「ありがとうございます!私、本当に嬉しいです」
 葵は心から幸せそうに笑ってみせた。
「ふん、生憎私は気の利いたプレゼントなんか持ち合わせていないが……そうだな、私なんかでよければいつでも稽古をつけてやる、というのはどうだ?」
「はい!坂下先輩も、ありがとうございます。手加減なんかしないで、全力でお願いしますね!」
 葵の前向きな姿勢を確認して、坂下は満足そうに微笑んだ。

「ところで……浩之もプレゼントなんか用意しちゃって、準備がいいじゃない」
「な、なんだよ…」
 綾香が猫のような艶やかな笑みに、浩之は嫌な予感がして心なしに後ずさった。
「その様子じゃ、私の誕生日の時もプレゼントとか、用意してくれるんでしょ?」
「お前の誕生日なんか、知らねーよ」
「あら、そう。それじゃ教えてあげる」
「いらね。別に知りたくもない」
「わ、差別するわけ?ひっどーい」
 なんてやりとりをした後で、綾香が思い出したように、
「そういえば、好恵の誕生日っていつだっけ?」
「えっ?」
 突然話を振られて坂下は驚きの色を見せる。
「…そういや、知らないよな」
「知らないです」
 浩之と葵も同意する。
「わっ、私の誕生日なんてどうでもいいだろう!」
 坂下は明らかにあせっていた。
「どうでもよくないわよ。知りたいわよねぇ?」
「そうだな、気になるよな」
「はい、今日祝ってくれたお礼だって、したいですし」
「ぐっ…」
 坂下はなにかに耐えるようにじっと唇をかんでいた。
「ねぇ、いつなのよ?」
「そ、その……に、2月…」
 観念したように渋々口を開く。
「2月?何日?」
 綾香がさらに問う。

「2月…………に、29日だっ!」



「………」
「……」
「うわ…」
「なんていうか…」
 屈辱的なものを見せたように顔を真っ赤にする坂下を目の前に、3人は見事4年分の1日の確率に当てはまってしまった彼女の誕生日パーティを想像せずにはいられなかった。
 数年ぶりに誕生日『当日』を祝うパーティーで、ケーキの上に立てられたロウソクは小さいのが4本なのである。

 坂下の誕生日が明らかになった、麗らかな一日であった。



  【誕生日2・ひとこと】
 当日誕生日の人は代わりに3月1日に祝うことくらい、知ってますけどね(笑)

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