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【SS】「CHANGE〜葵編」

(注意)この創作小説は『ToHeart』(Leaf製品)の世界及び
    キャラクターを使用しています。
    
 なお、松原葵・マルチシナリオのネタバレを少しだけ含んでいますので
ご注意ください。


「さて、授業も終わったし、頑張って練習しようっと!」
チャイムが鳴ると同時に私は教室を飛び出した。
なんといっても今日は綾香さんが練習を手伝ってくれるそうだから!
そのかわり、先輩が来ないのはちょっと残念だけど…。
…いっけない、待ち合わせの時間に遅れちゃう!
私は慌てて廊下を走り抜け、階段を下りる。
そしてそこの角を曲がれば下駄箱だ…と思った瞬間…。


「あううううっ、ずびばぜぇぇぇぇん!! 通してくださいぃ!」
今、私はとっても慌ててます。だってせっかく浩之さんが帰りにえあほっけーをしに行かないかって誘ってくださったのに、クラスのみなさんに掃除をお願いされちゃって…。しかも私ってばドジだからバケツのお水を思いっきりこぼしちゃったりなんかして…。
ああーっ、もうこんな時間ですぅ!
私は慌てて廊下を走りました…すると横から…。


 ごっちぃぃぃーーーーーーんっ!!!!!


<CHANGE〜葵編>


「あいたたた…大丈夫ですか?…」
私はぶつかった相手の方を見ようとして、ふと待ち合わせのことを思い出した。
「ああっ、いけない! すみません! 失礼します!」
私は再び走り出した。

もうすぐ校門を出るという辺りで…。
「やっと来たなぁ、マルチ。遅かったな。またクラスメイトの連中にいろいろやらされたんだろう?」
突然後ろの方から肩をつかまれた。そこには…藤田先輩がいた。確か今日は用事があるから練習は休みたいって言ってたのに…?
「先輩? こんなところで何をなさっているんですか?」
「え…先輩…?変だぜマルチぃ、いつもみたいに『浩之さん』でいいって。それに…俺との約束忘れちゃったのか?一緒にエアホッケーやりに行こうって言ってたじゃないか」
そういう先輩の顔はなんだかとっても寂しそうだった。…なんか悪いこと言っちゃったかなぁ…。
「まぁいいか、さ、早速行こうぜ。そんなに時間があるわけでもないからな」
「え? あ、あの…?」
先輩は私の手を引っ張ると猛然と走り出した…。

「しかしマルチとこうやって帰るのも久しぶりだなぁ。最近は部活の練習が忙しくってな。マルチには話したっけ?エクストリームって言う大会がもうすぐあってさ、それで…」
先輩はとっても楽しそうに話し続けている。
どうやら先輩は私とマルチさんを勘違いしているようだ。確かに今はウレタンナックルもつけてないし、それに珍しくニーソックスをはいてるし、髪型もそんな感じに見えなくもないし…でもそんなに似てるのかな?今度あったら一緒に鏡でも見てみようかな。
…でもこのままじゃあ先輩にもマルチさんにも悪いかな。2人のデートを邪魔してるみたいなものだし。そろそろ本当のことを話さなきゃ。
「あの…せんぱい?実は…」
「…でさ、その部活の葵ちゃんって子がまた強いんだ。つい最近始めたばっかりの俺なんかと違って才能もあるし、努力だって惜しまないし、なんていうかすっごく一生懸命な子なんだよね。俺はそんな葵ちゃんが大好きなんだ。なんか応援してあげたくなっちゃ打って言うか。マルチって葵ちゃんと友達だったろ?そう思わない?」
「………」
…先輩がそんなに思ってくれたんだぁ…。すっごくうれしい…。
 でも…なんだか気まずくなっちゃったなぁ。今ここで「実は私は葵なんですよ」なんていっちゃったら先輩きっと怒っちゃいそうな気がするし…。うーん…仕方がないか…本物のマルチさんが来るまでマルチさんをやってるしかないか…。
「…は、はい、そうですね、ひ、ひろ、浩之…さん」
…恥ずかしい…そんな…浩之さんだなんて…マルチさん、恥ずかしくないのかなぁ?
「うんうん…そういえば、今日は耳のセンサー、取ってんのか?それって取っちゃいけないんじゃなかったのか?」
あ…そういえばそうじゃない…。どうしよう…。
「え、あ、こ、これですねっ。これは今日は取っていってもいいって…せん…浩之さんとデートするんだったらない方がいいんじゃないかって…」
ううっ、我ながら嘘が下手だなぁ…。
「ふーん…でもなんか嬉しいな。マルチの口からデートなんて言葉が聞けるとは思わなかったしなぁ。今までそんなこと言ってくれなかったのに」
そうだったんだぁ…まぁいいか。

「あ…神社だ…。そういえば今頃葵ちゃんと綾香が練習してるんだろうなぁ…」
神社の前を通りかかったとき、先輩がそういった。
…しまった、今日は綾香さんと一緒に練習をする日だったんだ!!
…綾香さん、待ってるだろうなぁ…やっぱり行かなきゃ駄目よね。ごめんなさい、先輩。
「すみません、せん…浩之さん! 急用を思い出しましたんで、それでは!!」
「あ、おい、待てよマルチ!」
…私は先輩の方を振り向かずに神社の方へと走っていった。


…神社まで行くとそこにはやっぱり綾香さんがいた。随分イライラしてるようだ…。
「…綾香さんっ!遅れてすみま…」
「何処に行ってたのよ!! あんな冗談みたいなので終わりだって言われちゃたまんないわよ!私だって暇だから来てるってわけじゃないのよ!あなたと一緒に練習したかったから、わざわざ時間を作って来てるのよ!あなただってまだまだ浩之じゃまともな練習相手にはならないだろうし、やっぱり実戦的な練習もした方がいいと思うし…それに…」
そこまで言ったところで綾香さんははっと我に返った。なんだか急に顔が真っ赤になったような感じだ。
「…まぁいいわ、とにかくさっさと練習始めるわよ…」
「はいっ!! 綾香さん!!!」
なんだかとっても嬉しかった。綾香さんがそんなに私のことを心配してくれてたなんて。今日は先輩の気持ちも聞くことができたし、案外いい日だったのかも知れないな。最初マルチさんに間違えられたときはどうしようかなぁとも思ったけど、ちょっとはマルチさんに感謝かな。ところで…マルチさんどうしたんだろう?先輩には会えたのかな?
「さぁ、始めましょう、綾香さん! 時間がないですよ!!!」
「ちょっと、葵…妙に張り切ってるわねぇ…」


「綾香さん!お疲れさまでした!」
「全く…あなた今日ちょっと変よ?さっきまではあんなに調子悪そうだったのに…全く何がなんだか…」
なんだか綾香さんはかなり疲れてるみたいだ。確かに…今日はちょっと飛ばしすぎたような気もしないでもないしなぁ…。浮かれちゃってたし。
「元気よねぇ、葵は…まぁそういうところが浩之もかわいいのかも知れないけどね」
「いやですよぉ、綾香さん、恥ずかしいですぅ」
ぽかぽかぽかぽかぽか…。
「ちょっとちょっと、少しは手加減しなさいって、葵!」

「ちょっとお腹空いたわねぇ。葵、ハンバーガーでも食べて帰ろっか?」
一緒に帰ってた途中、綾香さんがそんなことを言いだした。
「え、でも…私お金持ってないし…」
「大丈夫大丈夫。それくらいは私が出してあげるって。私が言い出したんだからね」
 私と綾香さんは一緒に近くのハンバーガー屋さんに入った。
あ…ここって先輩とよく来たところだ…。先輩もここにいたりするのかなぁ。

 私達は2階に上がった。何種類かのハンバーガーとポテト、それと飲み物を置いてから席に着く。食べている最中、綾香さんが面白そうに話しかけてきた。
「今日、藤田くん休みだったねぇ。…案外他の女の子とデートでもしてたりして」
「ええ、そうですよ。確かマルチさんと会ってるんじゃないかなぁ」
「マルチって、あのうちで作ったメイドロボの?」
綾香さんはちょっと意外そうな顔をした。
「浩之ってそういう趣味もあったのねぇ…。でも葵、何で知ってるの?」
「ええ、まぁ、ちょっとですね」
とてもさっき会ってたからなんて言えないなぁ…待たせてたのに…。
「しかし…彼も隅に置けないわねぇ。うかうかしてたら危ないかもよぉ」
「え?なにがですか?」
「彼って結構人気あるからねぇ。家の姉さんも結構気に入ってるみたいだし」
「…大丈夫ですよ、信じてますから」
…さっきの言葉は嘘じゃないですよね、せんぱいっ!!
「意外ねぇ、そう来るとは思わなかったわ…さては葵、なにかあったわね」
綾香さんがつかみかかりそうな勢いで問いつめてくる。
「なにかって何ですか?」
「そりゃあもう…あんなこととかこんなこととか…」
「え、そ、そんなこと…あ、私ちょっとトイレに行って来ますねっ」
何だ綾香さんの目が怖い…とりあえず私はその場を逃げ出した。

 1階にあるトイレに入っていると、洗面所の方に誰かが入ってくる音がした。
…どうやら何かをこぼしたらしく、一生懸命洗っている。
…なんとか落ちたらしく、そのまま出ていったようだ。

 トイレから出て来ると、いきなり横の方から声をかけられた。
「大丈夫か、マルチ? ちゃんと落ちたか?」
え…先輩? ひょっとして…また勘違いしてるのかなぁ?
「なかなか出てこないから心配して見に来たんだけど…」
…今度は正直にばらしちゃおうかな。どうやらマルチさんも先輩に会えたみたいだしね。
「せんぱい? 私のことちゃんと分かってくれないんですか?」
「え? どういうこと?」
「私はマルチさんじゃないですよ。先輩って私のことその程度にしか見ていてくれなかったんですね。悲しいです…」
「え…あ、葵ちゃん? 確かに前からマルチと似てるかなぁっておもってたけど、ここまで似てるとは思わなかったよ。…ごめん、葵ちゃん」
そんな先輩の様子がとっても面白かった。
「いいですよ、気にしてませんから。でも、今度は私も誘ってくださいね、エアホッケー」
「え…何で知ってるの?」
「それは秘密ですよ、先輩!」
…いろいろあったけど、結構面白い一日だったかな。いいこともあったし。
「…ところで、マルチを見なかった?」
「…ところで、綾香さんを見ませんでしたか?」


 <終>

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