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        ToHeart[Leaf]/松原葵SS

              淡い温もりの中

                           write : M.Hagu
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 ポツ……ポツポツ……

「え?」
 微かな水の冷たさを感じたのは、ほんの一瞬の事でした。

 ザー。
「うわっ、夕立かぁっ!?」
 水滴が筋になって、私たちの上に降り注いできたんです。
 初秋の夕立。
 一心不乱に練習していましたから、空の様子に全く気付かなかったんです。

「ど、どうしましょう、先輩」
「どうしましょうって、社に逃げ込むしかないだろ? 行こうっ」
 それだけ言うと、先輩は私の手を握って引っ張ろうとしたんです。
 でも、私は。
「うわっと!?」

「ち、違います、サンドバックですよっ!」
 練習に使うために木につるしていたサンドバッグ。
 私の家の近所にあるジムで、いらないからと譲り受けた物で、かなり古い物 なんです。
 布製で、水に濡れると後が大変なんです。

「あ、そうか。……よし、急いで下ろすぞ。びしょぬれになっちまう」
「は、はいっ!」




 数分後。
「はぁ、酷い目にあった」
「あぁ〜あ、びしょびしょです」
 お堂の軒先の下、びしょびしょに濡れてしまった私と先輩は、スポーツタオ ルで頭を拭きながら、雨を降らせる空を見上げていました。

「全くだ。なんだよ、天気予報大外れじゃねぇか」
 そう。
 今朝の天気予報では、晴れだって言ってたんですけど。
 さっきまでも、太陽が照りつけていましたし。

「でも、サンドバッグ、それほど濡れてないみたいでよかったです」
「はは、濡れたら大変だからなぁ」
「新しく買い替える事なんてできませんし」
「だな。まぁ、大丈夫だったんだし、よかったよ」
「はいっ」
 優しく頭を撫でてくれた先輩に笑顔を返しました。
 そうすれば先輩も、ほら、笑顔を返してくれますから。




「寒いか?」
 一瞬、ぶるっと震えた私に先輩が気付いて、声を掛けてくれました。
「え、は、はい。ちょっとだけ」
 そんな気遣いはすごく先輩らしいです。
「まぁ、こんだけ濡れたらなぁ」
 先輩が私の肩を寄せてぴとっと体をひっつけます。
 先輩の温もりと、雨の冷たさ、両方感じて変な感じです。
 でも、心はすごく温かい。
 だって、先輩の優しさがすごく、すごく嬉しいんです。

「でも、仕方ないですよ、突然でしたし」
 苦笑いをいながら、返事を返します。
 そうしたら先輩、抱き寄せる手に力を込めて。
「仕方ない事無いだろ? このままじゃ葵ちゃん、風邪ひいちまうぜ」

「でも……」
 すごく嬉しい気遣い。
 だけど、ここではどうしようもないですし。
 せめて出来る事は、タオルで濡れた髪や肌を拭くだけですし。

 どうしようって思案していると、突然先輩が提案してきました。
「な、とりあえず、中に入ろうぜ」
 その指さす先は。
「えっ、この中ですか!?」
 私たちがいる場所、そうです、お堂の中だったんです。
「そ。中に入った方が、幾分かは温かいだろうしな」

「そ、そんな、罰が当たりますよ」
 両手をぶんぶん振って、先輩に訴えます。
 神様に怒られるの怖いですし。
「大丈夫だって。ちゃんと、いつもお参りしてるんだしさ。困った時ぐらい勘 弁してくれるさ」
「そ、そうなんですか?」
 笑い顔で先輩は言うので、そうなのかなぁと思えたんですけど、でもやっぱ り不安です。

「そうなの。神仏は困った人には、多少の事は許してくれるんだ。な、そう思 うだろ?」
 先輩は両手を合わせて拝むようにお辞儀をしてます。
 その仕草がとってもおかしくて、さっきまでの不安はぽんって、どこかに消 えちゃいました。
「は、はい、そうですねっ」

「よし、そうと決まれば、ちょっと中借りようぜ」
 立ち上がった先輩を見て、私も立ち上がろうとしたんです。
 そうしたら、先輩が私の動きを制して。

「きゃっ」
「よっとっ」
 私の背中と膝に腕を通して、持ち上げられたんです。
「せ、先輩っ」
「わっ、暴れるなって」
 じたばたともがいた私をに先輩は少しきつめの口調です。
 思わず動きを止めて、じっとしちゃいました。
「で、でも、先輩。恥ずかしいですよぉ」
「あはは。少しでも温かくしないとな。それと、恥ずかしいなんて言いっこな しだぜ」
「そ、そんなぁ」
「そうやって、真っ赤な顔してくれたら可愛いしな」
 その言葉が終わらないうちに。
 ちゅっ。
 近づいてきた先輩の顔。
 重なり合った温もり。

 一瞬、何が起きたのか解りませんでした。
 でも、それがキスだって気付いた瞬間。
 頭の中まで沸騰したんじゃないかって思うくらい、恥ずかしさでかぁーって 熱くなって。
「せせせせせ、せ、先輩っ」
 ぽかぽかぽか。
 先輩の頭を両手で叩いちゃいました。
「いた、いたっ。葵ちゃん、すげぇ痛いっ」
 恥ずかしくて、無我夢中に叩いていたから、思いっきりだったみたいで、先 輩が大声を出して、はっと気がついたんです。
「あ、ご、ごめんなさい」
 慌てて腕を止めて、先輩の顔を覗き込んだら、眉を顰めて痛がってます。
 でも、それもほんの一時だけ。
 すぐに、苦笑いに変わってそして……。

「ったく。殴ったお詫び、貰うぜ……」
「あっ。そ、そっ、ん……」
 やっぱり、少し驚きましたけど。
 今度は、暴れないで先輩の首に腕を廻して……。




「うわぁー。こんな風になってるんですね」
 先輩に抱きかかえられたまま入ったお堂の中。
 私は、首をあちらこちらへ振りながら見渡してました。

「なんだよ、初めてだったのか? こういうとこ」
「はい。勝手に入ると仏像さんに怒られちゃいますから」
「ぷっ」
 突然、先輩が吹き出して顔を背けるんです。

「え? せ、先輩、どうしたんですか? いきなり笑って」
「いや、なんでもない、なんでもないよ」
 でも、笑いを必死に堪えてるみたいで。
 こういう時の先輩って、絶対に変な事考えてるんですから。

「先輩」
「ん?」
「私の事で笑ってません?」
 きっと先輩の目を見据えて訊ねてみます。
「そ、そんなことはないぞ、うん」
 あからさまに目を背ける先輩。
 やっぱり……。

「そういう時の先輩って、絶対に私のことをからかってる時ですよ!」
 私、怒ってそう告げました。
 だって、先輩にそんな風に見られるの、悲しいです。

 先輩、私の表情にしまったなぁって顔をして、舌を出しておどけました。
「あらら……いいんだよ、気にしなくてさ」
「気になります」
 気になりますよ……そんなこと言われても、すごく。
 怒りが少し覚めたら、今度はすごく悲しい気分になってしまって。

「いいんだって。さっきの話がさ、葵ちゃんらしいなぁって思っただけのこと さ。からかってるわけでもなんでもないよ」
「……本当ですか?」
「あぁ。葵ちゃんらしくて可愛いなって思ったくらいだぞ」
 先輩の目。
 じっと見つめてみる。
 嘘をついてる目じゃなかった。
 先輩の本音。
 それが解ったから。
 顔がかぁーって熱くなって来て。
 その言葉の嬉しさと……。

「ぷっ、葵ちゃん顔が真っ赤だぞ」
「だ、だって、先輩に誉めてもらえてちょっと恥ずかしいですよ」
 それに、少しだけ恥ずかしいです。
 先輩の事、すごく疑って。
 大好きな先輩をこんなに……。
 そんな私自身が恥ずかしくて、顔、見せられないです。

「うん、可愛い可愛い」
 私の思いに気がつかないのか、先輩は優しく濡れた髪を撫でてくれる。
 何度も、何度も、優しく、優しく、何度でも。
「も、もぅ、先輩ってば……」
 多分、気付かれたんですね。
 こんなに優しく……。

 先輩の優しさが、そして先輩の事がやっぱり大好きです、私。




「まだ寒いか?」
 薄暗いお堂の隅っこ。
 私を抱えたままで座った先輩。
 私は、先輩の胸にもたれ掛かるように、そして先輩の膝の上で抱きかかえら れる格好で座っていました。

「……はい。少し、冷えてきたみたいです」
 入口から少しだけ吹き込む風。
 普段だったら何も影響のなさそうな風なんですけど、今はすごく体を冷やし ていきます。
 濡れた服が今では冷たくて。
 どんどん体温を奪われていっちゃうみたいに。

「うーん。そうだ、葵ちゃん」
「はい?」
「よっと」
 私の体を少しだけ離した先輩。
「きゃっ。せ、先輩」
 そこで、先輩が次にとった行動に、私はすごく驚いちゃいました。
 だって、突然服を脱ぎ出したんですから。
 先輩のごつごつとした、逞しい胸が見えて。
 思わず手で顔を覆っちゃいました。

「どうした? 見慣れてるくせに」
 先輩は笑顔で言いますけど。
「み、見慣れてなんていないです」
「でも、何度も見てるだろ? 今さら恥ずかしがらなくてもさ」
 先輩に何度も抱いてもらって、その度に見てはいますけど。

「そ、そんなぁ。恥ずかしいものは……恥ずかしいですよ」
 先輩の裸、すごく男の人の胸らしくごつごつして逞しくって、かっこいい なぁって思いますですけど、でもやっぱり、なんです。

 でも、そんな私の思いを通り越して、先輩ってば。
「ほら、葵ちゃんも脱いだ脱いだ」
「え、えぇーーっ!!」

 そんな、こんな所で脱ぐなんて。
 それも、先輩の目の前。
 いえ、先輩には、その何度も見られてますけど。
 でも、それでも……。
「いつまでも濡れた服来てたら風邪ひくだろ?」
 先輩は強引に服に手を掛けてきます。
「そ、そんなこと言われてもっ」
 拒絶しても先輩は。
「ほーら、脱ぐっ!」
 思いっきり捲り上げて、制服を脱がされたんです。
 そして、無理に床に寝かされて……。

「きゃーっ! せ、せ、せんぱぁーい」
 上から覆い被さってきた先輩。
 肌と肌がぶつかって、どきんと胸が高鳴る。
「せ、先輩、いきなりひどいですっ!」
「知らない仲じゃないんだしさ。風邪ひくよりはよっぽど良いだろ?」
 私が声を出して非難しても、先輩は全然気にしてくれません。

 胸にはブラがついてるけれど、それだけで。
 先輩の体の暖かさが感じられて。
「で、でも、でも」
 言葉は吃っていたけど、内心ではもうすこし可愛いのだったら良かったのに なんて、見当違いなこと考えたりしていて。
 混乱。
 困惑。
 恥ずかしさで、どうしたらいいのか解らなくて。

 けど、先輩はやっぱりすごいのかもしれない。
 ずっと敵わないかも知れない。
 そう思いました。
 だって。

 一度、上体を起こした先輩は少し前にズり上がってから、また体を倒してき ました。
「ほーらっ。こうしたらさ」
 そして、そのままの姿勢で首に手を廻して、私を胸に押しつけたんです。
 少し息苦しくて、でも、先輩の匂いで一杯で。
「……あ、あのあの」
「温かくない?」
 優しく諭すように響く声。

 いつだって敵わないんです。
 先輩に優しくされると、甘えたくなって、我慢できなくなって。
 それで……。

「え、あ、その……温かい、です」
「な」
「でも、すごく恥ずかしい」
 胸に顔を埋めて呟きました。
 先輩に聞こえるか聞こえないかの小さな声で。

「ほらまたぁ。エッチなことするんじゃないんだからさ」
 エッチ。
 その言葉を聞いた時、少しどきんとしちゃいました。
 だって、この神社は、私と先輩の思い出の……。

「エ、エッ……せ、先輩のばか」
 怒って、見上げると、先輩は目を大きく開いて驚きました。
「バカって。なんだよ、してほしいの?」
「ち、違いますっ!!」

「冗談だって」
 私が怒っても、先輩は動じません。
 笑顔で、頭を撫でるだけ。
 先輩に可愛がられてる、愛されてるって。
 そう思える一瞬。
 でも、すぐに思い出すさっきの言葉。

「冗談でも、言わないでほしいです。恥ずかしくて、泣いちゃいそうです」
 本当に泣きそうでした。
 でも、嫌だからって、わけじゃないみたいです。
 先輩には言いませんけど……。

「ごめんごめん。ほら。こうして服乾くまでじっと暖まってようぜ」
「……はい。でも、あの、顔見ないでください」
「恥ずかしいから?」
「……はい」
 そのまま、先輩の胸に顔を埋めて。
 先輩はそんな私を優しく抱きしめて。
 屋根を打つ雨の音の中でずっと……。




「雨、上がったみたいだな」
「はい」

 激しい雨音もすっかりひいて、横を向けば、入口に日が差しているのが見え ます。
「でも、服、乾いてないみたいだな」
「はい」
「もうちょっと、こうしてるか?」
「はい」
「……葵ちゃんって胸小さいなぁ」
「は……え? せ、せ、先輩っ!」
 無意識に答えていたのが解ったみたいで、先輩ひどいこと言うんですよ。
「ぷっ、あははははは」
 そして、そんな私を大笑いして。

「先輩、ひどいです。私、すごく気にしてるんですよっ!」
 いつもいつも、見る度に溜め息をつきたくなるくらい。
 先輩、小さな胸、嫌いじゃないのかな?
 どうして大きくならないんだろうって。
「あはは、気にする必要ないぜ。俺は葵ちゃんの胸、可愛くて好きだぜ」
「そんなこと言ってもダメです!」
 笑って言われても、全然本気に思えないですよ。
 そんなの、すごく悲しいです。

「拗ねるなよ、葵ちゃん」
「拗ねてなんて、いませんよ」
 また先輩の胸に顔をぎゅっと押しつけて。
 怒った顔を見られたくないから。

「あぁー、ほら」
「……子供扱いされてるみたいです」
 ぽんぽんって頭の後ろを優しく叩く先輩。
 でも、それがあやされてるみたいに思えて。

「こんの、わがままっ子」
 大きな声を出したと思ったら、上体を上げて。
 そして……。

「……きゃっ!」
「ほら、こんなに柔かいだろ?」
 ふにふにと胸を。
 ブラの愛だから手を入れて。
「せ、先輩。さ、さ、さ、さわら、さ、触っちゃ」
「ほれほれほれ」
 くにくに動かす指に、恥ずかしさで体が熱くなって。
「や、やめて、ください、先輩」
 恥ずかしくて、切なくて。

「な。柔らかくて、可愛くて、それになにより葵ちゃんらしくてさ。胸の大き さなんて関係ないだろ? こんなに可愛いのにさ」
 そして、優しくキスしてくれました。
 何度も、何度も。

「先輩……すごく、恥ずかしいです」
 恥ずかしいけど、でも嬉しくて、それでもやっぱり恥ずかしくて。
 だけど、今度はじっと先輩の顔を見つめました。
 恥ずかしいけど、一生懸命に見つめたんです。

「じゃぁ、自信を持つこと。な?」
 そんな私の鼻先をつんと突いて、軽くウインクしてくれました。
「……はい。ごめんなさい、先輩」
「なぁーに謝るのかな?」
「きゃっ……だ、だって」
 まだ差し込まれたままの手がまたそっと私の幼い胸を揺らして。

「大好きだぜ」
「んっ……」
 そのままもう一度キス、貰ったんです。
 そして、今度は先輩と……。




「さ、そろそろ乾いてる頃だろうな」
 朧げな意識。
 お腹の上に感じる熱さ。
 先輩の、愛情が熱いです。

「そろそろ、出ようか……」
 聞こえてくる先輩の声が子守り唄みたいに……。
「……」
「お〜い、葵ちゃん」
「すー」
「……はは」
「すー……すー……」




 目を覚ました時には、もう真っ暗で。
 微かに見えた目の前の光景。
 先輩が横になって寝ていました。

 そして、私の体に制服を掛かっていて。
 先輩は下着とズボン以外は何も羽織らずに。
 私の全身を覆うように、私と先輩の制服やシャツを掛けてくれて。

 先輩の優しさが嬉しくって。
 今度は逆に先輩の体に制服を掛けました。
 頬にキスをひとつだけつけて。


                             END



……………………………………………………………………………………………
                痕 書
……………………………………………………………………………………………

 ひとまず、何をさて置いてもこの一言から……

 葵ちゃん応援ページ、ミリオンヒットに向けての第1段階突破お目でと〜(笑)
 さすがは大手サイト様、いやぁ早いですなぁ(゜▽゜)
 でぁ、このままの調子で頑張ってね(にやり


 さて、話は変わってこの記念SSについてです。

 ……またR(滅)

 そんだけヾ^^;

 こういうことすると、また何処かで……XSSにするんですね……とか
 ……楽しみにしてます、Xシーン部分のSS……とか
 言い出しそうな人、黙れヾ^^;

 これはこれでいいのだ(笑)

 でぁ、そゆわけで〜


                        はぐ[multi@suki.net]


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