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「ねぇ、起きて・・・・・起きてくださーい!」

『ゆさゆさ』

困ったなぁ。ちっとも目を覚ましてくれない・・・・・
でも、早く起こさないと・・・

「ほらぁ、朝ですよぉ!起きないと遅刻しちゃいますよぉ!!」
「・・・・・・ん・・・あ・・さ?」
「さあ、ご飯食べて準備しないと・・・お仕事遅れちゃいますよ」

『がばぁ!』

「きゃ!」
「うぉっと。もうこんな時間か・・・危うく寝過ごすとこだった。葵、さんきゅ!」
「はい!大切なご主人様を起こすのも妻の努めですから」

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〜apology〜
                 writed by Hiro
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あのプロポーズの日から7年。
わたし達は一緒に大学を卒業する事が出来ました。
と、言っても別々の大学ですけど・・・
わたしは体育大学。
綾香さんの後輩にあたります。
特待生として迎えていただきました。
浩之さんは・・・
自称、有名私立大学だそうです。
あの大学ってそんなに有名だったかなぁ・・・
ま、いいや。
それで・・・ついに結婚しちゃったんです。
え?計算が合わないって?
あはは・・・だって・・・
せん・・・いけない・・・浩之さんったら、大学を留年しちゃったんですもの。
(一年だけですけどね)
まぁ、仕方ないかな。
ストレートで入学出来たんだから、その努力は認めてあげないとね。

「もう朝御飯は出来てますからね。お顔を洗ってきてください」
「ん」

浩之さんが眠い目をこすりながら部屋を出て行きます。

「くすっ。なんか子供みたい・・・」

おもわず笑みがこぼれちゃいました。



「ふぅ、やっと目が覚めた・・・
 そういや、挨拶がまだだったな。おはよ、葵」
「あ、おはようございます」
「それだけ?」
「え?それだけ?って・・・」

ホントはわかっているんですけど・・・
ついとぼけちゃいます。

「あおい〜・・・朝の挨拶って言ったら、キスに決まってるぢゃないか」

浩之さんが、瞳をキラキラさせながら顔を近づけてきます。
あはっ・・・・・
やっぱ思った通り。
でも、まだ恥ずかしいんだけどな・・・・・
婚約時代はキスなんてごく自然に出来たんですけど
いざ結婚しちゃうとヘンに意識しちゃいます。
なんでかな・・・

「さ、葵。挨拶挨拶」
「・・・はぁい」

『チュッ☆』

ふぅ・・・・・顔が真っ赤になっちゃう・・・・・・

「・・・・・ねぇ、浩之さん。朝御飯食べて下さい。
 ホントにお仕事遅れちゃいますよ」
「お?おぉ、そうだな。じゃ・・・
 ♪今日のおかずはなぁにっかなぁー♪」
「はい!アジの開きに海苔、そして納豆です。
 浩之さん、大好きですものね」
「おぉ!これぞ日本の朝食。やっぱこうじゃなくっちゃな。
 日本人に生まれて良かったよなー」

大袈裟ですってば。

「はいはい・・・・で、たくさんたべます?」
「おう、大盛りにしてくれや」
「はぁい」

お食事中、ふと浩之さんが話しかけてきました。

「なぁ、葵」
「はい?」
「お前さぁ、いい加減敬語使うのやめろよ」
「なんでですか?」
「いや・・・・・葵に敬語を使われるとさ、なんかさぁ
 ・・・・・・ん〜、どうも高校時代を思い出しちまうんだよな。
 オレ達、もう結婚したんだしさ、先輩後輩の会話みたいのはやめないか」
「はぁ・・・でも、もう癖になっちゃってますし・・・」
「他人行儀みたいでオレ、やだな」
「はぁ・・・」
「とにかく直してほしいな」
「・・・・・・・・はぁい・・・わかりましたぁ・・・」
「ほらまた!」
「あ、ご、ごめんなさい・・・・・・」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「さってと、朝飯も食ったし、そろそろ会社に行くよ」
「あ、はい。お見送りしなきゃ」
「悪いね」


「じゃ、行ってくるな」
「お気を・・・・・いえ、気を付けてね。忘れ物は?」
「えーと・・・定期と財布は持ったし・・・あとは・・・」
「はい、カバン。お弁当も入ってますよ」
「ん。さんきゅ。じゃあな」
「はーい、行ってらっしゃ〜い」


「さてと、浩之さんも会社へ行ったし・・・・・まずはお洗濯かな」

『パタパタパタパタパタ・・・・・・』

「あ〜あ、浩之さんたら・・・こんなに脱ぎ散らかして。
 ホントに子供みたいなんだから」

『ばさばさ』

「よし、お洗濯物はこれでOKっと。洗濯機さん、よろしくね」


「次はお掃除お掃除」

 ♪〜〜〜

「そういえば・・・・・マルチさん、元気かなぁ」

どうもお掃除をしていると、マルチさんを思い出しちゃいます。
それと同時に胸の奥が・・・

「マルチさん・・・」

浩之さんがわたし以外に唯一愛した"女性"。
それがマルチさん・・・

「今頃何してるんだろ・・・」

・・・・・・いけない。ぼーっとしてる場合じゃないや。
お掃除の続きしなきゃ。

・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・

『ピー、ピー、ピー』

「あ、お洗濯終わったみたい」

ベランダでお洗濯物を干していると

『ピ〜ン ポ〜ン』

あれ?お客様・・・・・?

『パタパタパタ・・・』

「はーい、どなた様ですかぁ?」
「・・・・・・・・・・」
「あの・・・どなた・・・」
「・・・・・・・・・・」

ヘンだなぁ。そら耳だったのかな・・・
ベランダに戻ろうとした時です。

「・・・・・すみませぇ〜ん」

え?
今の声・・・
まさか・・・

「あのぉ・・・ごめんくださいです〜・・・
 藤田さんのお宅はこちらでしょうか・・・」

まさか・・・

『ガチャ』

「マルチさん!」
「お久しぶりですぅ〜」
「え?・・・あ、あぁ・・・そうね。ご無沙汰してます」
「はい〜」

急に訪ねてくるなんて・・・
マルチさん、いったい・・・

「と、とにかくどうぞ。ちらかってますけど」
「はぁ・・・・・ちらかっているんですか・・・・・・・
 あの、なんでしたら私がお掃除しましょうか?」
「いや、いくらなんでも・・・まぁ、ここじゃなんだし・・・・・
 とにかく上がって下さいな」
「はい!お邪魔しますです〜」


「えっと・・・今お茶を・・・
 あ、マルチさんは飲めないんだっけ・・・」
「お構いなくです〜」

なんか調子が狂っちゃうな・・・
いけない!お洗濯物・・・

「あの、ごめんね、マルチさん。お洗濯の途中なの。
 申し訳ないけど、ちょっと待っててもらっていい?」
「はい〜、ごゆっくりどうぞ」
「ホントにごめんね」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「お待たせしました。久しぶりね。お元気でした?」
「はい〜 お陰様で」
「今日は何か御用があったのかしら」
「いえ、近くを通りかかったものですから・・・」
「あ、そうなんだ」
「ご迷惑じゃなかったでした?」
「え?あぁ、大丈夫。そんなことないよ」
「良かったですー それで、あの・・・今日浩之さんは・・・」
「うん、お仕事へ行ってる」
「それもそうですよねぇ。今日は平日でした。
 あ!申し遅れましたが、このたびはご結婚おめでとうございます」
「え?あ、はい。どうもありがとう。
 そういえば、マルチさんは式に来れなかったものね」
「あの時はごめんなさいでした。
 ちょうどメンテナンスの時期と重なっちゃいまして。
 で・・・・・・・ご結婚なさったんですよね・・・・・羨ましいですー・・・」
「なに?」
「い、いえ!な、なんでもありませんです〜
 あ、あの、本当におめでたいですぅ」
「ヘンなの。ま、いいや。それで今、マルチさんは何してるの?」
「はい?え、あの・・・はい、研究所のお手伝いを・・・・・」
「ふーん、そうなんだ」
「はい〜、私はプロトタイプだったので、製品にならなかったんですよね〜
 ですから、お世話できたのは浩之さんだけなんです」

『ズキン!』

あ・・・胸が・・・・・・
マルチさん、無邪気な顔して言うことがきついなぁ。

「あ、あは・・・そ、そうなんだ・・・」
「もっともっとお世話したかったですぅ」

もしかしてケンカ売りにきてるのかなぁ・・・

「あ、あのね、そんな事より・・・今日は研究所のお手伝いは?」
「はい〜、今日はお休みをいただいたんです。
 で、そういえば浩之さんと松原さん・・・
 いえ!葵さんが結婚なさった事を思い出しまして、その・・・
 お顔をみたいなぁ・・・なんて、あの・・・」
「でも、さっきは近くを通りかかったからって・・・」
「あ!・・・・・私って、ウソをつくのがヘタですねー」
「何もウソをつく事ないのに・・・」
「・・・・・・・ごめんなさいです・・・
 あの!・・・と、ところで、浩之さんはいつも何時頃お帰りになるんですか?」
「う〜ん・・・大体8時頃かなぁ」
「そうなんですかー 大変ですねー
 ・・・・・・・・じゃ、じゃあ、そろそろ失礼しますね」
「え?もう?」
「はい〜、お休みって言っても、やらなきゃいけない事がいっぱいありまして。
 いわゆる"まーけっとりさーち"というやつですね。
 ・・・・・それに・・・浩之さん、いらっしゃらないみたいですし・・・」
「え?ごめんなさい。よく聞こえなかった」
「あ、あの・・・何でもないですー! すいません。お邪魔しました」



「じゃあ、気を付けてね。今度は浩之さんがいる時に」
「そ、そうですね。また来ますです。でも、もう時間がないかも・・・」
「え?」
「あ!いえ・・・ごめんなさい。失礼します」

『パタン』

マルチさん、何か言いかけてたな・・・・・
なんだろ?









「さて、お洗濯もお掃除も終わったし・・・
 ちょっと早いけど、お買いものでも行こうかな」




「うーん・・・今晩何にしよう・・・・・昨日はハンバーグだったし・・・
 そうだ!ビーフシチューにしよっと。最近作ってないしね」

スーパーマーケットに向かう途中です。

「あ〜!!松原さんね。松原さんでしょ!」

え?この騒がしい声は・・・
もしかして・・・・・・・・
それにしても、今日はよく人に会う日だなぁ。

「長岡・・・・・せんぱ・・い?」

あれ?ずいぶん雰囲気が変わっちゃったなぁ。

「そうよぉ。元気だった?」
「えぇ、まぁ・・・
 そういえば、国際ジャーナリストになられたとかで。
 いつも海外を飛び回っているそうですね」
「うん。忙しいわりにはお金にならないけどね。
 でもね、毎日楽しくやってるわよ」
「ふーん、羨ましいなぁ・・・それで、いつから日本に?」
「夕べ成田に着いたの。
 で、そのままホテルに一泊して、今記事を渡してきたところ。
 そうしたらやる事無くなっちゃったじゃない。
 あとは見ての通りブラブラしてたのよ。
 と言うか、行く所が無いのよね。親の反対を押し切ってこの仕事始めたもんだから
 ただ今絶縁状態なんだ。今更家には帰れないもんね」
「はぁ、なるほど・・・・・でも、ご両親とは仲直りしたほうが・・・」
「ダメダメ。お互いに意地を張っちゃってるもんだから。
 あ、思い出した!あんた、ヒロと結婚したんだって?あかりから聞いたわよぉ〜」
「え?あ・・・・・はい!」
「まったくぅ!幸せそうな顔しちゃってー」
「えへへ・・・ありがとうございます。
 それはそうと・・・・・おうちには帰っていらっしゃらないんですよね」
「そうよ。それがどうかした?」
「そのわりにはお荷物が・・・」
「荷物?あぁ、このデイバックの事?」
「はい。ずいぶん少ないなぁ・・・・・って」
「そんなもん、これだけあれば充分よぉ」

これだけ・・・・・って・・・お着替えとかどうしてるんだろ?

「ねぇねぇ、まつば・・・今は違うのよね。葵さん」
「なんでしょうか」
「どこかお店に入らない?あたし喉が渇いちゃった」
「どこかお店って・・・でも、わたしこれから夕ご飯のお買いもの・・・・・・」
「いいじゃないのよぉ〜 あたしがせっかく日本に帰ってきたのよぉ〜
 なんだったら、そのお買いものに付き合ってあげるからぁ。ね!いいでしょ?」

相変わらず強引だなぁ

「はい、わかりました。どうせお断りしても無駄でしょうから」
「なぁに?」
「い、いえ!独り言です。あはは・・・・・・」
「じゃ、どこにしようかしらねぇ」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

『カラ〜ン』

「ねぇねぇ、結婚生活ってどうなのよぉ」
「どう・・・って」
「楽しい?」
「え、えぇ、まぁ・・・・・・
 やはり好きな人と一緒にいられるわけですし・・・・・・・」
「はいはい。ごちそうさま」
「・・・・・ま、まぁ、わたしの事はともかく・・・長岡先輩はご結婚なされないんですか?」
「あたし?なかなかね・・・仕事柄出会いなんかいくらでもありそうなんだけどね。
 まったくぅ・・・こんなにいい女ほっとくなんて、世の男は見る目ないわねぇ」
「はい?・・・・・あ、そ、そうですね」
「なによぉ!何か言いたそうね」
「い、いえ!特には・・・あはは・・・」
「な〜んか気に入らないわねぇ。ま、いいわ。ところでね・・・」

嫌な予感・・・・

「な、なにか・・・」
「さっきも言ったけど、お買いものに付き合ってあげるわ。そのかわり・・・・・・」
「あ、あの!わたし、お付き合いして欲しいなんて一言も・・・」
「いいからいいから聞きなさいって。でね」
「はぁ・・・・・・・」

やだなぁ、この胸騒ぎ・・・

「あたしね、今晩泊まる所が無いの。だからね・・・」
「そ、それだけは!」
「まだ何も言ってないわよ」
「でも、今夜わたしのおうちに泊まりたいって・・・」
「あらぁ、よくわかったわねぇ」
「誰だってわかりますよぉ・・・そんなこと」
「えへ、そうかしらん」
「でも・・・・・・」
「ね!ね!助けると思ってさ。お願い!!」

困っちゃったな・・・・・

「もちろん、ただ泊めろなんて言わないわよ。
 お礼と言っちゃなんだけど、夕御飯の支度はあたしが全部するわよぉ。
 ね!こんな条件でどうかしらん?」
「こんな条件でって言われましても・・・」
「カタい事言わないの。じゃ、お買いもの行きましょうか」
「あ!ちょ、ちょっと・・・待って下さいよぉ」
「大丈夫大丈夫。ここのお金はあたしが払うからぁ」
「そんな事じゃないんですよー」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「もうメニューは決まってるのかしら」
「まったく・・・全然性格変わってない・・・」
「ねぇ!」
「"三つ子の魂百までも"ってことわざはホントなんだなぁ」
「ちょっとぉ!」
「は、はい!」
「聞いてる?」
「あ、いえ、はい・・・何か?」
「もうメニューは決まってるのって訊いてるのよぉ」
「はぁ・・・いちおー、ビーフシチューにしようかなぁと・・・・・・」
「ビーフシチューかぁ。うん、あれなら簡単でいいわねぇ。
 切って煮るだけでいいんでしょ?」
「き、切って煮るだけ・・・・・?」

アバウトだなぁ・・・
ホントに大丈夫かなぁ。

「違う?」
「いえ、そう言ってしまえばそれまでですが・・・」
「じゃ、まずはお肉ね」





「ふぅ、大体こんなものかしらん」
「・・・・・・・そ、そうですね・・・」

あ〜ん、なんでこんな高いお肉を・・・
お財布の中が淋しくなっちゃったよー

「さぁ行きましょ。家はどっちかしら」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「はい、着きましたよ。
 狭いとこですけど、どうぞお上がり下さい」
「はいはい。お邪魔しまーす」


「へぇー、結構いいおうちねぇ」
「そ、そうですか?ありがとうございます。
 じゃ、あの・・・とりあえず、お座り下さい。
 今お茶をお持ちしますから」
「あらぁ、悪いわねぇ」

これで、今日はお客様が二人目か・・・
重なるものだなぁ。


「はい、お待ちど・・・・・あれ?」

いない・・・
お手洗いかな?



・・・・・10分経った・・・
ずいぶん長いなぁ。


・・・・・15分経った・・・
まだ戻ってこない。
お茶が冷めちゃうよ・・・
ちょっと様子をみてこようかな。


『コンコン コンコン』

「長岡せんぱーい。どうかなさいましたかぁ?」

返事が無い・・・
ま、まさか・・・・倒れているなんて!

「長岡先輩!」

『ガチャ!』

え?カギが開いてる・・・
なんで?

「ちょっと失礼しま・・・」

いない・・・
どこ行っちゃったのよ。

『ふんふん、ここが寝室ね。あ〜!写真が飾ってあるーーーー!
 きゃ〜、ヒロったらこんなに寄り添っちゃってぇー』

あ、あの声は・・・・

『パタパタパタ・・・』

「な、何してるんですか!」
「え?あは・・・見つかっちゃったわね」
「見つかっちゃったわねって・・・人の家でいったい・・・・」
「ゴメンゴメン、新婚家庭ってどうなってるか興味があったのよぉ」
「・・・・・・・・・長岡先輩・・・」
「なに?」
「だからと言って、人の家を荒らしまわるのはやめて下さいよーーーーーっ!!」
「ヒィッ!」
「ふぅ、ふぅ、ふぅ・・・・・」
「わ、悪かったわよぉ・・・ゴメン、もうしません」
「ふぅ、ふぅ・・・・・・わかって下されば結構です。
 さあ、お茶が冷めちゃいますから、居間へ来て下さい」
「はぁーい」

結局そのあと、長岡先輩は時差ボケで眠いとかで、寝てしまいました。

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

そろそろ夕御飯の支度をしなきゃいけないのに・・・
長岡先輩、起きてこないなぁ・・・
やっぱわたしが作らなきゃダメみたいね。
ふぅ・・・・・・・


「さて・・・まずはお肉を切ってと。
 あーあ、長岡先輩ったらこんな高いお肉なんて買っちゃって・・・・・
 なんか食べるのがもったいないなぁ。
 これはしまっておいて、今晩はありあわせの物で済ませちゃおうかな・・・」

『ただいまー』

え?浩之さんの声・・・・
今日はずいぶん早いなぁ。
まだ7時前だよね。

「お帰りなさーい。今日は早いですね」
「こらこら、敬語はやめろってば」
「あ、ごめんなさい・・・ところで・・・」
「ん。お客さんのとこ廻っててな、会社へ戻るのが面倒になっちゃったんで、
 そのまま直帰しちまった」
「はぁ・・・」
「そんなことよりな・・・ほら、遠慮しないで入ってこいよ」
「・・・・・・・・お邪魔しますです・・・」
「・・・・・・マルチさん・・・」
「えへへ・・・またお邪魔しちゃいましたですー」
「またってマルチ・・・お前ここに来た事あったっけ?」
「あ!・・・いえ、"たまたま"ですー はい」
「・・・・・レミィみたいに訳のわからん日本語使うなって。ま、いいや。
 でな、そこの角の所でこの家の様子をうかがってる怪しい人影を見かけて・・・」
「それがマルチさんだったわけで・・・」
「ま、そういう事だ。
 そんなわけで連れてきたんだけど・・・マズかった?」
「いえ、べつに大丈夫ですけど・・・でも、今日・・・」
「あ、葵さん!!」
「え?」

マルチさんったら、何か目で訴えてる・・・・
内緒にしててほしいのかな。
はいはい、わかりました。

「ん?今日何かあったのか?」
「いえ・・・・実は、長岡先輩が・・・」
「志保?志保がどうしたんだ?」
「はぁ・・・今、寝てます」
「・・・・・・ごめん。何言ってるかさっぱりわからん」
「奥で寝てます」
「はぁ〜〜〜?」
「話せば長い事なんですが・・・・・・」



「なるほどなぁ。そんな事が・・・」
「そうなんですよ」
「あいつも困ったもんだなぁ。高校生の時からちっとも変わってねぇ」
「・・・・・・・あ!いっけない」
「どうした?」
「お夕食の支度が途中だったんだ・・・」
「あ、あの・・・・何か私に出来る事があれば・・・」
「おう、ちょうどいいや。マルチ」
「はい?」
「明日は生ゴミの日だから、ちょっとひとっぱしり志保を放り出しといてくれや」
「ひ、浩之さん!」
「ばぁ〜か、冗談だよ。葵」
「ヘンな冗談はやめて下さいよぉ」
「ははは・・・ゴメンな。
 遠慮無く手伝ってもらえば?マルチも心苦しいだろうから」
「はぁ・・・」
「じゃ葵さん、お台所へ行きましょ」


「ねぇ、マルチさん?」
「はい?」
「研究所に帰らなくていいの?」
「・・・・・・・・・・」
「また戻ってきちゃったからビックリしたよ」
「・・・・・・あの」
「なにかしら」
「やはりご迷惑でした?」
「え?・・・いや、別にそんな事言ってないけど・・・」
「では、もう少しここにいさせて下さい。お願いします」
「何かあったの?」
「・・・・・・今はちょっと・・・」

どうしたんだろ・・・

「・・・・・わかった。言えない事情があるみたいだしね」
「・・・・・・・ごめんなさいです・・・」
「いいや。早くつくろ!遅くなっちゃう」
「はい!」

   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「はぁ〜い、出来ましたよぉ」

なんだかんだ言って、あのお肉使っちゃったな・・・

「お、美味そうだな」
「えへへ・・・ありがとうございます。
 でも、ほとんどマルチさんにやってもらったようなもので・・・」
「そうか・・・マルチ、こっちおいで。ほれ、ご褒美だ」

『なでなで』

「あっ・・・・・」

いいなぁ・・・マルチさん・・・
・・・・・っと、羨ましがってる場合じゃないや。
長岡先輩を起こさなきゃ。

「そろそろ長岡先輩を起こしてきますね」
「なんかなぁ、あいつに食べさせるのもったいないような気が・・・」
「でも、このままじゃ・・・」
「それもそうだな。じゃ、オレも行くよ。
 マルチ、悪いけどちょっと待っててくれ」
「はい〜」



「こら志保!起きやがれ!いつまで寝てるつもりだよ」
「・・・・ん・・・あらぁ、ヒロ・・・お帰りなさい・・・
 今日は早かったのねぇ・・・もうご飯の支度は出来てるわよん。
 あ・・・そうそう。お帰りなさいの挨拶がまだだったわねぇ・・・
 ゴメンね。ちょっと待ってて・・・・・」
「お前何寝ぼけた事言ってんだ?
 ほら、早く起きないと先に飯を食っちゃ・・・・・お、おい!何をす・・・」

『チュッ☆』

「な!・・・・・何してるんですかぁ〜〜〜!!」
「え?・・・あ、あら!ヒロ・・・お、お帰り・・・・・・」
「・・・・・・・」
「ちょ、ちょっと!浩之さん。何固まってるんですかぁ!」
「へ?・・・・・あ、い、いや・・・」
「長岡先輩もっ!いきなり何を・・・」
「・・・・・ゴメン・・・あたしったら、寝ぼけてたみたい・・・」
「いくら寝ぼけてたからって、なにも・・・その・・・キ、キスするなんて・・・」
「・・・・・・・・ゴメンね・・・」
「もう・・・・・・」
「そ、それより葵」
「何ですか!?」
「メ、メシにしよう。腹が・・・」
「そ、そうよ!ご飯にしましょ。ご飯に」
「・・・・・・・・・・」
「なぁ、そうしようぜ。マルチだって待ちくたびれてるだろうし・・・」
「・・・・・・・・・・」
「あおい〜・・・・・・」
「・・・・・・わかりました・・・」
「わ、わかってくれたか。うんうん。よかったよかった」

ちっともよくありませんよぉ・・・
ふぅ・・・長岡先輩って、なんでいつも騒ぎを引き起こすんだろ・・・・



「さぁ、冷めないうちに召し上がって下さい」
「あらぁ〜、美味しそうじゃない」
「えぇ、ほとんどマルチさんに作ってもらいましたから」
「そんなに怒らなくてもいいじゃないのよぉ。
 さっきの事はホントに悪かったと思ってるんだからぁ」
「別に怒ってませんよ!」
「あ、あの・・・」
「ん?なんだい。マルチ」
「何かあったんですか?」
「へ?・・・あぁ、ちょっとしたアクシデントがあってな」
「はぁ・・・そうなんですか・・・・・・
 葵さん、何があったかわかりませんが、せっかく皆さんで夕御飯食べてるんですから
 そんなに恐い顔して志保さんを睨まなくても・・・・・・」
「そ、そうよぉ。あなたっていい事言うわねぇ」
「こら、志保!お前が言う事じゃないだろ」
「・・・・・・・ごめん・・・」
「わたしってそんなに恐い顔してた?」
「えぇ」
「そう・・・」

やっぱ大人げなかったかなぁ・・・
ちょっと引っかかるものがあるけど、もう許してあげようかな。

「わかりました。さっきの事は忘れる事とします。
 長岡先輩、もうやめて下さいね。わたし、寿命が縮まるかと思ったんですから・・・」
「・・・う、うん・・・」
「そうだぞ志保。もう勘弁してくれよな」
「浩之さんもです!」
「へ?」
「もう少ししっかりして下さい。お願いしますよ」
「あ、あぁ・・・」
「さぁ、もうこの話はおしまいにしましょ。
 ご飯が冷めちゃいますものね」




「あー、美味しかった。ごちそうさま」
「本当ならお前が作るはずだったんじゃないのか?志保」
「うっ・・・・・な、なによぉ!
 過ぎた事いつまでもグチグチ言うなんて男らしくないわよぉ」
「まったく口のへらないヤツだな」
「ふん。じゃ、あたしはお風呂に入って寝かせてもらおうかしら。
 長旅で疲れちゃったしね。」
「昼間、あんなに寝たのにですか?」
「い、いいじゃないのよぉ!
 それよりお風呂はわいてるのかしら」
「はい、大丈夫ですよ」
「図々しいとこも変わってねえな」
「うるさいわねぇ!で、お風呂場はどこ?」
「はい、廊下に出てつきあたり右です。
 バスタオルは脱衣所の戸棚に入ってますから」
「悪いわねぇ。じゃ、お先に」
「よろしかったらお背中流しましょうか?」
「え?いいの?マルチさん」
「はい〜」
「せっかくだからお願いしようかしらん」
「マルチ、コイツに優しくするとつけあがるぞ」
「あんたは黙ってなさい!
 さて、ヒロなんかほっといて、マルチさん、行きましょ」
「はい!」


「ふぅ、やっと騒がしいのが消えたな」
「あはは・・・・そうですね」
「なんか疲れちゃったな・・・・」
「わたしもです。・・・・・あ、そうだ」
「なんだ?」
「実はマルチさん、今日一回見えてるんですよ」
「へ?そうなの?」
「はい・・・どうやら内緒にしてほしかったみたいですけど・・・」
「ふ〜ん。ま、教えてくれたのはありがたいけど、なんで?」
「は?」
「いや、なんで教えてくれたのかなと思ってさ」
「ちょっと気になった事があったものですから」
「気になった事?」
「はい・・・一緒に夕御飯作ってる時に少し様子が変だったもので・・・」
「そういえば、オレが帰って来たときもあんな暗がりでたたずんでたなぁ」
「どうしたんでしょうか・・・」
「後で訊いてみるか」
「そうですね」





「あー、さっぱりした。やっぱ日本のお風呂っていいわよねぇ〜
 シャワーだけじゃ物足りないわよ。うん。
 さてと、髪を乾かさなくちゃ・・・ねぇねぇ、ヒロ」
「なんだよ」
「ドライヤー貸してくれない」
「ドライヤーだぁ?贅沢な野郎だな。葵、ドライヤーだってよ」
「あ、洗面所に置いたままです・・・」
「だってよ」
「ちょっと借りるわねぇ」
「持って行くんじゃねーぞ」
「長岡先輩、まっすぐ洗面所に行って下さいねー」
「わかってるわよー」
「ホントに騒がしいヤツだな。・・・それよりお疲れさん、マルチ」
「あ、いえ〜」
「でだ・・・お前、何か隠してないか?」
「え?え?え?・・・そ、そんな事無いですよ〜」
「ホントか?」
「はい〜」
「ホントにホントか?」
「あうー・・・」
「やっぱな・・・正直に言っちまえよ」
「はい・・・・実は・・・・・」



「そうだったのか・・・」
「・・・・・・・・・」
「淋しくなっちゃうね・・・」


「はぁ、やっと乾いた。しっかり乾かしとかないと寝グセが付いちゃうもんね。
 ・・・・っと、あらぁ〜 みんなどうしたの?暗い顔しちゃってぇ」
「あ、おかえりなさい・・・」
「なになに?なんかあったのぉ?」
「ん〜・・・・・実はな、マルチが・・・」
「マルチさんがどうしたのよぉ」
「また『眠りに入る』そうだ。
 今度はいつ覚めるかわからない眠りにな」
「え?」
「もう、マルチは用済みなんだってよ」
「どーゆー事よ」
「聞いてのとおりだよ。
 HMシリーズの開発も軌道に乗ったし、必要なデーターも全て揃った。
 そんなわけで、マルチを動かしておく必要が無くなったんだとさ」
「必要ないって・・・いいじゃない動いていたって。何か困る事でもあるの?」
「別にマルチの存在が邪魔ってわけじゃ無いんだ。
 ただな、マルチを動かしておくにはコストがかかるんだ。
 来栖川だって企業である以上、無駄な費用をかけていられないんだよ」
「だからって・・・・」
「ホントはな、オレが引き取ってやりたいのはヤマヤマなんだが、
 なかなかそうもいかなくってな・・・」
「・・・・・・・・冷たいのね」
「なんだと」
「そうじゃない!高校の時、マルチさんに散々世話になった恩は忘れたの?」

長岡先輩・・・・・

「あなたはあかりに悲しい思いをさせてまでマルチさんの所へ行っちゃったじゃない。
 あの時ね、正直言ってあなたをひっぱだいてやりたかったわよ。
 でも・・・・・あかりに止められた・・・・・
 『浩之ちゃんは悪くないよ。私がいけなかったんだよ』って。
 あかりってば、自分ばかり責めてたわ。
 自分に悪いとこなんか全然無かったのに・・・
 でね、葵さんの前ではちょっと言いづらいけど、今は関係ない話かもしれないけど、
 ついでだから言わせてもらうわね。
 マルチさんが研究所に戻った時、あなたはあかりのもとに帰ってくるかと思ってた。
 でも・・・・・・今度は葵さんと・・・・・・
 あかり、あの時も悲しそうだった・・・」

うわ・・・ちょっと胸が痛いな・・・

「ヒロぉ!あかりがどんな思いでいたか考えた事あるの!?
 あかりがどれだけ悲しんでいたかわかってるの?
 どうなのよ!言ってみなさいよぉ!」
「・・・・・・」
「ほら!何も言えないじゃないの!」
 あなたはあかりの気持ちを踏みにじる気?
 あかりの悲しみを無駄にする気なの!
 ここであなたがなんとかしなきゃ、あかりがヒロの事を諦めた意味が無いじゃない」
「・・・・・・いや、そうは言ってもな・・・」
「はっきりしないわね!わかった。もう何も言わないわよ!
 マルチさんはあたしが引き取る事に決めたわ」
「・・・・・・・引き取るって・・・志保」
「何よ!」
「お前簡単に言うけどな、金がかかるって事忘れてないか?」
「どれくらいかかるのよ!」
「マルチ」
「え?・・・・あの・・・主任さんがおっしゃるには、
 『高級飲み屋さんのお姉さんを毎日相手にするほどかからないけど
  貰い物のベ○ツを乗り回すにはとてもとても』との事だそうです・・・」
「なんちゅう例えだ・・・」
「いいじゃない、わかりやすくて」
「とにかく決して安い金額じゃないって事だぞ。大丈夫なのか?志保」
「あたしを誰だと思ってるのよ。
 あたしは売れっ子ライターの志保ちゃんよ。
 その気になれば、それくらいのお金なんてすぐに稼げるわよ」
「マジかよ・・・」
「あら、信じないのね。いいわよ。もとからあんたの話なんて聞く気無いから。
 マルチさん、明日からあたしのとこへ来なさい。いいわね」
「え?え?え?・・・あの」
「大丈夫。何も心配する事ないから。あたしが責任もってあなたを引き取るから。
 もう安心してていいわよ。こんな薄情者に頼ろうなんて思っちゃダメだからね」
「ひどい言われようだな」
「あんたは黙ってなさいって言ったでしょ!早速明日、来栖川へ行くからね」
「・・・・・・・はい〜・・・」
「志保・・・」
「何よ!しつこいわねぇ」
「お前さぁ、どうしたんだ?ずいぶん熱心じゃないか」
「うるさいわよ!」
「でもな・・・」
「高校時代の可愛い後輩が困ってるのを見過ごせって言うの?」
「ま、まぁそうだけどな」
「それにね、ちょうどアシスタントがそろそろ欲しいなって思ってたとこだし」
「それだけか?」
「なによそれ」
「いや、お前がそれだけの理由で動くとはとても思えん」
「え?・・・・・・」
「他にも理由があるんだろ?」
「・・・・・・・・仕方ないわね。白状するわよ。実はね、あたし・・・」
「うん?」
「高校の時、マルチさんと大喧嘩した事があったの。
 ううん、あれは喧嘩なんかじゃなかった・・・・・・
 あたしが一方的にマルチさんを責めたてたと言ったほうがいいかもしれない・・・
 『あなたなんかこの学校に来なければよかったのに!
  あなたが来たお陰であかりが悲しんだのよ!』って。
 覚えてるかしら?マルチさん」
「ええ。あの時の志保さん、本当に恐かったです」
「ゴメンね・・・・・・それでね、そのあとすごい自己嫌悪に陥ったの。
 あんなこと言わなければよかったなって」
「そんな事が・・・・・」
「そう・・・・・いつかお詫びをしなきゃいけないって思っていたんだ」
「なるほどなぁ」
「と言うわけよ。わかった?」
「お前って意外と義理堅いんだな」
「義理堅いって言うのかしらねぇ、こーゆーの。
 それより今頃気づいたの?あと、"意外と"は余計よ」
「・・・・・すまん・・・」
「ん、いいわよ。いつもの事だから。あんたにそんな事言われるの慣れちゃった」
「・・・・・・」
「志保さん、本当に本当にありがとうございます・・・・
 あの・・・私、このご恩は決して忘れません」
「や、やめてよぉ。照れるじゃないのよ」
「でも・・・・」
「さ、もういいでしょ?そろそろ寝ない?明日は早いわよ」
「オレ達、まだ風呂に入ってないんだけど・・・・・・」
「なによ、勝手に二人で入ればいいじゃない。
 あたし達は寝るからね。マルチさん、行くわよ」
「はいぃ!」



翌日の夕方です。
長岡先輩とマルチさんを空港までお見送りに行きました。

「わざわざ見送りに来てくれなくてもよかったのに」
「そうはいくかよ。
 今回の事でマルチも助かったしな。改めて礼を言うぜ。
 さんきゅ!志保。見直したよ」
「誰かさんが冷たかったお陰でね」
「それを言うなって。・・・・・・・ところで・・・
 そろそろ搭乗手続きする時間だろ?マルチの姿が見えないけど」
「今頃バゲッジルームじゃない?」
「バゲッジルームぅ?」
「えぇ。空港の人にかけあったんだけどね、まだメイドロボは貨物扱いなんだって。
 だから申し訳ないけど、専用トランクの中に入ってもらったの」
「あっ・・・そ」
「まったく・・・・メイドロボの人権はどうなってるのよ」
「いや、志保。人権と言うのかどうか・・・・」
「あたしは立ち上がるわよ!一大キャンペーンを張るわ。
 『メイドロボに対してこんな虐待は許されるのか!』って」
「あーあ、止まんなくなっちゃいそうですね」
「あたしにはペンが・・・・」
「こらこら志保。熱く語るのはいいけど、時間は大丈夫なのか?」
「こんな横暴を放置・・・え?」
「だからな、搭乗手続きをしなくてもいいのか?」
「あ・・・・そ、そうね。そろそろ行かなきゃ」
「ほら、乗り遅れても知らないぞ」
「うん。じゃ行くね」
「気を付けてな」
「マルチさんをよろしくお願いしますね」
「まっかせなさいって。じゃあね」



「行っちゃいましたね・・・・・」
「あぁ」
「ねぇ、浩之さん?」
「ん?」
「もしあの時、長岡先輩がマルチさんを引き取って下さるって言われなかったら、
 浩之さんはどうしましたか?」
「葵は?」
「わたしですか?・・・・・・・・うーん・・・わかりません。
 いや、もしかしたら・・・そのままさよならしてたかも」
「オレもそうかもな・・・」
「そうですか・・・・・・」
「ま、何はともあれ良かったな」
「ええ・・・・・・・じゃ、おうちに帰りましょうか」



数カ月後のある日。

「浩之さーん、長岡先輩からお手紙が来てますよぉー」
「え?どれどれ」

『ヒロ、葵さん。先日は大変お世話になりました。
 今、あたし達はカナダのバンクーバーにいます・・・・・・・』

「お!写真も入ってる」

そこには・・・・・
お二人が楽しそうに並んでいる姿が写っていました。

「うまくやってるみたいだな」
「ええ。マルチさんの笑顔、とても輝いてますね」
「そうだな。いい顔してるよな」
「はい・・・」
「さってと、そろそろ行くか」
「え?あの・・・どこに?」
「なんだよ、忘れちゃったのか?」

なんかお約束してたかな・・・

「来栖川から招待状が来てただろ?」
「あぁ、新製品披露パーティーの・・・」
「そっ。マルチだって頑張って開発を手伝ったんだから、
 出席してやんきゃバチが当たっちゃうだろ?」
「そうですね」
「マルチにも見せてやりたかったな」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・じゃ、出かける支度をしようか」
「はい!」

マルチさん、お元気にしていますか?
今日わたしたちは、あなたの妹さんに逢いに行きます。
あなたが一所懸命開発をお手伝いしたんですもの。
きっと素敵な妹さんですよね。

「ほらー、あおいー 準備できたかー?」
「はぁーい、今行きまーす!」

そうそう。今度見えた時、おみやげ話をいっぱい聞かせて下さいね。
お待ちしています。
あと・・・・・
長岡先輩が暴走しないよう、しっかりと見張ってください。
お願いしますね。
それでは、またお逢いできる日を楽しみにしています。


                             藤田葵より
マルチさんへ




                              おしまい




あとがき

皆さん、お元気でしょうか?Hiroでございます。
いやー、やっと書き上がった。
完成するまで一ヶ月以上かかってしまいました。
数カ月のブランクは長かったです。

今回の作品は(も?)ちょっと他の方のパクリみたいなとこが入ってます。^^;
元ネタが一緒だと、どうしてもバッティングしちゃうとこが出てくるんですよねー
ご容赦くださいませ。m(__)m

で、内容です。
志保の大活躍です。
葵ちゃんの存在がすっかりかすんでいます。^^;

結婚させちゃいました。この二人。
学生時代のネタが浮かばなかったもんで・・・・
でも私の事だから、次作では懲りもせず学園生活を描くんでしょうね。
一貫性が無いのも困ったもんです。やれやれ・・・・・・・

話の成りゆき上、〜Crisis〜他とシチュエーションが変わってます。
今までの話では、あかりは葵ちゃんだから身を引いたと言う設定になってますね。
でも、今回の話では
「浩之ちゃんが選んだ子だから、私あきらめる。
 マルチちゃん、いい子だもんね・・・・・・・」
そして、
「松原さんだもん、仕方ないよ。
 浩之ちゃんをよろしくね・・・・・」
あかりの、悲しみをこらえる姿が目に浮かぶようです。
あぁ!薄幸の美少女あかりに、幸せは来るのでしょうか。
・・・・・・・・なにお馬鹿な事書いてるんでしょうね。私ってば。
またいつもの癖で、あとがきが長くなっちゃいそうなんでこの辺でやめます。
では、次作でまたお逢いしましょう。


2000年1月末 お茶ノ水ファーストキッチンにて Hiro


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