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神社にある木の葉も枯れ落ち、益々冬らしくなってきた。
練習していると、時たま凄く冷たい風が通りぬける。
そして冬の匂いをその場に香らせる。

クリスマスは先輩と豪華なレストランで食事をした。
お正月は私の合格祈願もかけて、一緒に初詣に行った。
いつでも側には先輩がいてくれた。

でも最近少し不安になる。
大学に行ってから、先輩との時間が少なくなってしまってるってこと。
先輩も忙しいって言うのはわかってる…。
だけど側にいてくれないと…私は不安で…。

明日大会がある。
一応先輩にも声をかけたけど…。
今日だって練習には顔を見せてくれていない。

私は…不安…。

先輩がとこか遠くに行ってしまうようで…。












<それが大事>
















大会当日。
客席を見てみたけど、先輩は来ていないようだった。

忙しいのはわかるけど…。
でも…。
私は…不安…。

「あっ、葵じゃない。今日の調子はどう?」

私が下を向いて俯いていると、後ろから肩を叩く人がいた。
私はその声に従って、後ろを振り向く。
声を聞けば誰かはわかってるんだけど。

「綾香さん。こんにちは…」
「なんだか元気が無いわねぇ…。なにかあったの?」
「…………いえ…………」
「ふ〜ん…。そういえば、今日は浩之来てないみたいね」
「えっ、あっ、そっ、そうみたいですね」

私はあたふたしながらも、綾香さんに言った。
綾香さんは納得したように首を縦に振っている。

「葵…最近浩之とはどうなの?」
「えっ……。あの……あまり…会ってません…」

私が言うと、やっぱりねといった風な顔をして、綾香さんがため息をつく。
そして私の頭に軽く手を乗せて髪の毛をかき混ぜる。

「決勝までには元気になりなさいよ」

綾香さんはそう言って、いそいそとどこかへ出かけてしまった。



待合室で、私はまた一人になり不安と緊張に押しつぶされそうになっていた。

もしかしたら来てくれるかも…。
先輩が来てくれるかも…。

その願いは届くことは無く、第1試合をコールされる。
私は待合室から出て、会場に向かう。
心臓は、今にも飛び出してしまいそうなほど震えていた。

先輩抜きの試合がはじめてだったからかもしれない。
そう…いつだって側には先輩がいてくれた。
でも今日はいない…。






孤独な戦い…。


決勝までに負けるかもしれない…。
そんな思いが頭をよぎる。


もう投げ出したい…。
この場から逃げ出したい…。


来てくれるって…信じてたのに…。

























決勝戦。
私はなんとか駒を進めることが出来た。

対戦相手は当然綾香さん。
大会での、この顔合わせはいつものこと。
私も綾香さんに、この前の大会で勝つことができた。
でも、その時は私の側には先輩がいてくれて…。



決勝の合図をコールされる。

「葵…。手加減はしないわよ」
「…わかってます…」

私にはそう答えるしかなかった。
でも…、今日の調子は今までで一番悪い…。

「もし負けても…浩之がいなかったからなんて言い訳は無しよ」
「…わかってます…」


私しがそう言い終わると同時に、試合が開始される。

ベルの音が鳴るのと同時に、観客の人達の声が大きくなる。
私の声には『わ〜!』と言う雑音だけが聞こえてくる。

「葵、よそ見してる余裕は無いはずよ!」

綾香さんはそう言って、私に向かって突っ込んでくる。
私はそれをガードするので精一杯。

「いつもの調子できなさい!」

そして綾香さんは、私のお腹めがけて、思いっきり回し蹴りを放つ。


ドゴッ…!


嫌な音と共に、私の体に激痛が走る。
私はガクンと膝から崩れ落ちていた。

いつもだったら…ガードできているのに…。
なんで…。

「葵!立ちなさい!」
「ぐ……ぅ…」

私は必死に立ちあがろうと、膝に力を入れる。
ガクガクと膝を震わせながらも、私は立つことが出来た。
そしてちょうどその時、第1Rの終了を告げるベルが鳴る。



ふらふらとした足取りで、私はコーナーまで歩いていく。
セコンドにいる男の人が私に水を渡してくれる。
私はそれを飲み干し、また男の人に返す。

いつもなら先輩がいてくれる場所には、今日は知らない男の人がいた。
それが異様に心の中をかきむしって嫌だった…。

しばらく休んだ頃、第2Rを知らせるベルが鳴る。



私は少し回復した足を見ながら中央に立つ。
が、立った瞬間にまた綾香さんのラッシュが…。


ビシ…!
ビシ…!
バシ…!


そして最後の蹴りが私の顔面に向かってくる。

駄目だ…。
ガードしきれない…。


ドゴッ…!



















遠い意識の中…。

私はなにかを求めて歩いていた。

そう…。

なにかを求めて…。



現実からの逃避。

現実を投げ出すこと。

現実から逃げること。

現実を信じないこと。



遠い意識の中…。

一瞬聞こえた声。

それは大好きな人の声…。






「立つんだ、葵ちゃん!」
先輩?

「この程度で負けてしまっても良いのか!?」
藤田先輩?

「まだ試合を投げるのは早いぞ!」
どこにいるの?

「自分の力を信じるんだ!」
私の目の前に現れてください!






「葵ちゃんは…強い!」




























葵ちゃんは…強い…。

私は大歓声の中目を開ける。
審判の人がカウントを取っているのがわかる。

「6…!」

立たなきゃ…!

「7…!」

負けたくない…!

「8…!」

まだ…試合は決まってない…!

「9…!」

私は…逃げない!






場内が一瞬シーンとなる。
そして次の瞬間また大歓声へと変わる。

私は…立っていた。
足をちゃんと床につけ…。
私は…立っていた。

「そうこなきゃおもしろくないわね」

綾香さんはそう言って、また私に突進してくる。
でもさっきまでと、私は違っていた。
綾香さんが打ってくる、蹴りも、パンチも…全て見えていた。

「ちっ…!」

綾香さんはそれでも打ちつづけてくる。
そしてそのままの態勢で第2Rを終わることになった。



はぁ…。
はぁ…。



予想以上に体力は失っていた。
でも得られた物も確かにあった。

私は…負けない!

コーナーに着いたところで、後ろから男の人が水を差し出してくれる。

「はい」
「あっ、ありがとうございます」
「どうだ?調子は?」
「ここからです!」

私はそのままの姿勢で答える。

「そうだよな。それでなくちゃあ葵ちゃんじゃないよな」
「…えっ…?」
「綾香はもうスタミナ切れだ。こっから反撃開始といこうか」
「…先輩…?」

ゆっくりと男の人の方に首を向ける。

その顔は笑顔で…。
その声は優しくて…。

「せ、先輩…来て…くれたんですね」
「ああ。悪かったな、はじめっから来れなくて…」
「せ――」
「松原選手、早く前へ!」

その言葉で私はハッと前を見る。
中央には綾香さん。

そうだ…。
まだ終わってないんだ…!

「さっ、綾香をさっさと倒してきちゃえ!」

そう言って先輩は優しく肩を叩いてくれた。

「はい!!!」








「葵、このラウンドで終わらせるわよ!」
「私も…ここからが勝負です!」



そしてお互い全力でぶつかり合う…。



前半押していた綾香さんも、さすがにスタミナが切れてきたようだ。
しかし私もさっき受けてしまった一撃が、未だに効いていた。

でも私には今、強い味方がいる。
強い…味方が…。

「綾香さん。いきますよ」

私は満を喫して綾香さんに猛然と突っ込む。
さっきの綾香さん同様にラッシュラッシュ。
その攻撃にスタミナが切れていた綾香さんは、たまらずにロープ際まで追い詰められる。
そして私の最後の一撃。

「いけ〜、葵ちゃん!」



ドゴン…!



必殺の崩拳。
想いのこもった一撃。

勝利への執念と…。
あの人のやさしさのお陰…。

優しい先輩の…。







「やったな葵ちゃん!」
「やりました先輩!」

カウントが終わり勝者が決まった時、まっさきに飛び出してきたのは先輩だった。

「先輩のお陰です…。先輩がいてくれなかったら…」
「そんなことないって。葵ちゃんの努力が実ったんだよ」「そんなこと…」
「あっ、ところで葵ちゃん……あとで…神社に来てくれないか?」
「えっ、それは良いですけど…。一緒に帰ってくれないんですか?」
「ん…まぁ、ちょっとな」

そう言って先輩はリングから降りて、観客席の方へと姿を消した。
それを見ていた私に、今度は綾香さんが駆け寄ってくる。

「やっぱり、あんたにはまだ浩之が必要みたいねぇ」
「綾香さん…」
「なんだか葵に負けたというより、浩之に負けたって感じね」
「確かに…そうかもしれません」

綾香さんは目を細めながら、そっと優しく言った。

「でも…いつかは1人でも強くなりなさいよ」
「はい」

じゃあねと言って、綾香さんは待合室の方へと戻っていった。
私も少し間を置いてから、待合室へと向かう。

神社…か…。

















寒空の中神社へ向かう。
大会で痛めた顔が痛かったけど…。
それ以上に先輩に会いたくて…。


まだ5時だと言うのに、もう回りは真っ暗。
当然神社も暗闇だろう。
一体なんのようがあるのだろうか…?







神社に着いて、先輩を探してみる…が、ドコにも見当たらない。

「せんぱ〜い!どこですか〜!」
「ここだよ」

先輩の名前を呼ぶと返答だけが返ってきた。
先輩の声が聞こえた方に歩いていってみる。

「ここだここ!」

神社の中から少し手が出ているのが見えた。

「先輩!?」
「おう、悪かったな呼び出したりして」
「いえ…それは別に良いんですが…。勝手にこんなところ入っちゃっても大丈夫なんですか?」
「ああ…気にしない気にしない」

先輩はそう言って、私のことも中へ招き入れた。
中は電気が付いて無くって、外よりも暗くなっていた。

「今日来てもらった訳は……」

先輩は持っていたライターでなにかに火を付ける。


「葵ちゃん、18歳の誕生日おめでとう!」


何本かのろうそくに火がついて、あたりがほんのりと明るくなる。

「先輩……覚えててくれたんですね…」
「当たり前だろ。忘れるわけ無いじゃないか」
「だって…最近来てくれなかったし…忙しいから忘れてるんじゃないかと…」
「まぁ…最近忙しかったわけは…なぁ…」

先輩はポケットからなにやらゴソゴソと取り出す。

「これ…受け取ってくれるか?」

先輩が差し出したもの…それは指輪。

「いや…短時間のバイトだったから良いのは買えなかったけど…」



次の瞬間私は先輩に抱き着いていました。

嬉しくって…。
泣きたくって…。
気持ちが押さえられなくって…。

「あ、葵ちゃん…?」

「先輩…。ありがとうございます…!私…とっても嬉しいです!今日試合に勝てたのも先輩のお陰だし…」
「俺のお陰って…?」
「先輩が言ってくれたんです。葵ちゃんは強いって…」

私は少し頬を赤らめながら言う。

「俺…言ったかなぁ…?」
「言ったんです。聞こえたんです。だから私頑張れたんです。やっぱり先輩がいてくれないと…私………」
「葵ちゃん……」



暗闇の中、何度目かのキスをする。
疲れを一気に取り除いてくれる不思議なキス。
その味は、今までで一番甘かったような気がした。
それは私の気のせいかもしれないけど…。



















18歳の誕生日。

私は大好きな人と向かえることができました。


誕生日プレゼントは…。
暖かい気持ちと、強い心。
そして想いのこもった形のあるもの。

全部私の宝物。






















綾香さん…。




私、当分先輩がいないと駄目みたいです。








だって…。







だって…。













私はまだ弱い人間だから…。



だからまだ…。



先輩に頼っちゃいます。



なにが大事かを教えてくれた先輩。



愛することって…力にもなる。



私は…まだまだ弱い人間だから。



愛にも頼ってみたりします。



それが私ですから。



それが…綾香さんに勝てる松原葵ですから。



1人じゃなくて2人で1人の…。



それが…私と先輩…。































ハッピーバースデー!


松原葵!








後書き



どうも葵惑星です。
葵惑星の葵(あおい)は松原葵から取ってます(爆)
と、言うわけで、葵ちゃんの誕生日SSです。

もうこれが限界ですね。
さすがに東鳩も年が経ちましたから…。
ネタが無くて無くて(笑)

このネタも絶対誰かとかぶってそうで、恐いんですよね。

とりあえず、俺が言いたかったことは『負けない』『投げ出さない』『逃げ出さない』『信じぬく』どっかで聞いたことのあるフレーズですね(^^;
昔流行った歌です。
そっから愛に持っていく…。
難しいですね(^^;
しかも、もうなにを後書きに書いてるのかわからなくなってきてしまいました。
ので、ここらへんで失礼させてもらいます。


          1月19日  葵惑星


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