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<ライバル?>
きーんこーんかーんこーん…。
 さぁ、お昼休みだ! 早く先輩の所に行こうっと!
今日は朝早くから先輩のためにお弁当を作ってきたんだ!
この前に作ったとき、先輩、ホントにおいしそうに食べてくれたし!
あんなに喜んでくれるなら、いくらでも作ってあげますよ、先輩!
「あの…藤田先輩はいらっしゃいますか?」
 先輩のクラスの前で、クラスの方に先輩を呼んでいただく。
「え、何? ヒロに用なの? ちょっと待っててね」
 その人はあわただしく走り去っていった。しばらくして、先輩がやってきた。ただ、1人じゃなく…神岸先輩と。
「あ、葵ちゃん、ちょうどよかった。こっちから呼びに行こうと思ってたんだ」
「えっ、何ですか?」
すると今度は神岸先輩が説明を始めた。
「あのね、実は今日、私が浩之ちゃんにお弁当作ってきてたんだけど…」
………えっ?
「ちょっと失敗して、作り過ぎちゃって。1人で食べるにはちょっと多くって。それで、だったらたまには葵ちゃん誘って一緒に食べようかって浩之ちゃんが」
「そ、そうなんですか…ありがとうございます…でも、私なんかおじゃまじゃないですか?」
「ううん、そんなことないわよ。私も一度松原さんと一緒にお話ししたかったし」
「そうそう、な、一緒に食べようぜ、葵ちゃん! …ところで用って何?」
「…え、あ、ああ、もういいんです。それより、早くしないとお昼休み終わっちゃいますよ! あ、屋上がいいですね。早く行きましょう!」
…そうかぁ…神岸先輩が…今日は仕方ないかなぁ…くすん。
……お、おいしい…」
神岸先輩が作った卵焼きを一口食べて私はつぶやいた。
…本当においしい…味付けも焼き方もとっても上手で。とても私が作ったのなんかと比べられないなぁ…。
「そ、そぉ? そういってくれると嬉しいなぁ」
「ホント、うまいよなぁ。あかりって料理だけはうまいからなぁ。もっと葵ちゃんとか見習って、運動とかやったらどうだ?」
「え、そ、そんな、私なんて…。でも、ホント上手ですね、神岸先輩って」
と、ハンバーグをつまみながら私はいった。…本当においしい。私の冷凍食品のハンバーグとはえらい違いだ。これって手作りだよなぁ…。こんなにおいしいの食べてたら、私のなんか食べられないんじゃないかなぁ…無理してるんじゃないかなぁ、先輩。
「あ、それね。えへへ…今日のお弁当は結構自信あるんだ…」
「で、分量を間違ってちゃ世話ねぇけどな」
「ううっ…それをいわれると…」
神岸先輩はちょっと落ち込んでるようだ。でもなんか嬉しそうな、そんな感じもする。
…やっぱり、神岸先輩も藤田先輩のこと…だとすると、なんだかかないそうにないなぁ…。神岸先輩ってすっごく女らしいって言うか。綺麗だし、料理だって得意そうだし。先輩だってこんな格闘技ばっかりな子より、神岸先輩みたいな女の子らしい女の子が好きなのかなぁ…。
 せっかくの昼休みだったけど、ちょっと気持ちがブルーだった…。

 今日はクラブはお休みだった。先輩がどうしても出れないらしい。だったらということで、たまにはお休みしようかなぁと思ったのだ。
「…はぁ…料理かぁ…」
 ほんの些細なことなのかも知れないけど、何故か妙に悔しかった。私って意外と独占欲強かったのかなぁ…。
「あの…松原さん?」
後ろから私を呼ぶ声がした。振り返るとそこには神岸先輩がいた。
「先輩…どうしたんですか?」
「ちょっと見かけたから…松原さん、今日は練習お休みなんですって?」
「藤田先輩から聞いたんですか? はい、そうなんです」
「だったら私と一緒に帰らない? 私、松原さんとお話ししてみたかったんだ」
 学校からの帰り道、私は神岸先輩とお話ししていた。実際の所、神岸先輩とお話しするのはこれが初めてだったけど、神岸先輩は本当にいい人で、いろんなお話をいっぱいした。学校のこと、部活のこと、そして藤田先輩のことも色々教えてもらった。
「…でね、そのとき浩之ちゃんがね…どうしたの、松原さん?」
「…え、あ、いえ、先輩のこと良くご存じなんだなぁと思って」
…そう、うらやましいくらいに…あれ?なんか私、今日変だ…。
「ふふふっ、そうね…小さい頃から見てきてるからね」
「…そうなんですね…やっぱり普段から先輩に料理とか作ってあげてるんですか?」
「そうね、浩之ちゃんのとこってお父さんもお母さんもいないことが多いから、たまに作りに行ってあげたりもするよ」
…やっぱり…だから先輩の好みなんかも良く知ってるのか…悔しいなぁ…やっぱりこの人には勝てないのかなぁ…。
…なんか私、今日嫌な子かも…こんなことばっかり考えてる…。
「ところで…松原さん」
「えっ?何ですか?」
「今日、浩之ちゃんにお弁当、作ってきてたでしょ」
…えっ…気付かれてた…? ちゃんとかくしてたのに…。
私が驚いたようにぼぉっとしてると、神岸先輩はすまなそうに、
「ごめんね、松原さん。わざわざ作ったのにね」
「…いつから気付いていたんですか?」
「最初に教室に来たときに、ちらっと見えたからね。ごめんね…」
「いえ、いいんです!!」
神岸先輩の声を遮るように、私は大声で叫んだ。
「松原さん…」
「いいんです! 私のお弁当なんて、神岸先輩のお弁当に比べたらおいしくないし、
先輩だっておいしいお弁当食べたいだろうし、それに、それに…」
なでなで…。
「…えっ?」
なでなで…。
なでなで…。
 …神岸先輩は、私の頭をなでてくれていた。
「松原さん…浩之ちゃんのこと、ホントに好きなんだね」
「…知ってたんですか?」
「知ってたも何も…だって浩之ちゃん、いつも松原さんのお話ししてるんだもの。それにあんなに一生懸命な浩之ちゃんを見るのは本当に久しぶりだよ」
 そういっている神岸先輩の顔がちょっと悲しそうなのは私にもよく分かった。そうとは感じさせないように一生懸命に努力してるのも。…神岸先輩…素敵な人だなぁ…確かにこんな人なら誰だって好きになっちゃうんだろうなぁ。私だって先輩とは仲良くなりたいなぁ…。
「今日だって、松原さんがお弁当作ってきてるって分かってたら、きっと無理してでも全部食べたと思うよ。そこでどっちかだけとか言わないのが、浩之ちゃんのいいところでもあり、悪いところでもあると思うけどね」
「…よく分かってるんですね。さすがですね」
「きっと松原さんにも分かるようになると思うよ。でも…まだ私だってあきらめた訳じゃないからね。覚悟しててね、松原さん」
言ってることは大変なことなんだろうけど、神岸先輩も、それを聞いてる私も何故か妙に楽しそうだった。
「はい、ライバルですねっ。でも私だって負けませんよっ」
「でも今のところ、料理では私の勝ちだよ」
「…ううっ…でも格闘技では…ってあんまり関係ないですね」
「ふふっ…あ、そうだ、松原さん、これから時間ある?」
「え?今日はありますけど…どうしてですか?」
「もしよかったら…料理、教えて上げようか?」
「えっ!!それは嬉しいですけど、いいんですか?」
「うん。だって私、松原さんのこと、好きだもん」
 そういった神岸先輩の顔にはなんも屈託もなかった。

 

そうしてしばらくたったある日のこと。
私はこの前と同じように。お弁当を持って藤田先輩の教室の前に来ていた。
前と違うのは、神岸先輩のおかげで、私の料理の腕がちょっとくらいはあがってるんじゃないかなぁってことと、今日のお弁当が3人分あるということ。
昨日の晩のうちに神岸先輩には伝えておいた。先輩も頑張ってって応援してくれた。
いろいろと考えているうちに、2人がやってきた。
「あ、先輩、もしよかったら今日…」
 <完>

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